「田茂神家の一族」を見る
劇団 東京ヴォードヴィルショー 第70回公演 創立40周年記念興行第5弾「田茂神家の一族」
作 三谷幸喜
演出 山田和也
出演 佐藤B作/佐渡稔/石井愃一/市川勇
山口良一/あめくみちこ/たかはし等
山本ふじこ/大森ヒロシ/まいど豊/市瀬理都子
京極圭/村田一晃/石川琴絵/小沼和
喜多村千尋・平田美穂子
客演 伊東四朗/角野卓造
観劇日 2015年3月20日(金曜日)午後7時開演
劇場 紀伊國屋サザンシアター 3列6番
料金 7000円
上演時間 1時間45分
カーテンコールの挨拶によると、実際は、創立42年くらいで、4年くらいかけて「創立40周年記念興行」を行っているらしい。
ネタバレありの感想は以下に。
開演前から、舞台上では「選挙演説会」の準備が進められている。椅子が並べられ、候補者の名前の書いた幟があがり、マイクの準備等々で右往左往している。
逆にいうと、司会者の演台と、候補者の椅子、幟、セットはそれだけだ。カーテンコールで佐藤B作が言っていたけれど「ご覧のとおり、簡単なセットです。どこへでも行けます。」という状態である。
開演前の注意事項も、この演説会を仕切っている四郎を演じている市川豊がやっていた。
こういう工夫はなかなか楽しい。
ここは、えぶり村(どうしてこの名前なのかはよく判らなかった)で、6期24年にわたって村長を務めていた伊藤四朗演じる前村長の田茂神嘉右衛門が馬に蹴られて負傷し、新しい村長を選ぶことになったのだそうだ。
本来は、長男が継ぐところだけれど、この長男が亡くなり、村では久々の「本格的な」村長選挙だということで、立候補者の合同演説会が開催されることになったらしい。
しかし、コロスの方々が歌で再々強調していたけれど、立候補者は全員が「田茂神」姓の持ち主である。
村長選挙の立候補者は、佐渡稔演じる次男、佐藤B作演じる三男、あめくみちこ演じる長男の嫁、石井愃一演じる弟、角野卓造演じる姪の婿、とみんな前村長の親族である。
えーっと、この選挙に人気投票以上の意味がありますかね、という風情が漂う。
そして、山口良一演じる、三男が雇った選挙コンサルタントがときどき現れて解説するところによると、村内の票読みは盤石というか狂いようがなく、よっぽどのことがない限りは次男と三男の一騎打ちという状況のようだ。
多分、舞台の真ん中情報に設置された壁時計(小学校の教室にあるような感じの味も素っ気もない時計である)は、リアルタイムで進んでいるのだと思う。
この合同演説会は、舞台上の時間と見ている観客の時間との経過が一致している。
こういう舞台って、実は意外と少ないのではないだろうか。
常識人で村の中学の教頭である次男、見るからに山っけの多そうな三男、喪服で出てきた涙を誘おうという長男の嫁、選挙のたびに出馬するけれど常に自分自身の1票しか入らない弟と、この4人の間で始まったのは、選挙演説ではなく、お互いの秘密の暴露合戦というか、中傷合戦というか、つまるところは身内のいざこざである。
誰は不倫している、誰の息子はゲイバーの常連である、誰は整形手術を受けた等々、まずは村長選挙に関係ないことばかりである。
最初にネガキャンを始めたのは三男だけれど、何故かそこだけ政治力に長けているらしい長男の嫁が逆襲し、結局のところ「振り出しに戻る」という感じだ。
そこへ、入院していた筈の前村長が現れて自分の立候補すると言い出したものだから、票読みは一気に崩れ、前村長有利という状況になる。
この村長、子ども達と同様にかなりステレオタイプに描かれていて、「村のものは自分のもの」と自然に思っている金券癒着体質という造形だ。
ついでに、子ども達に対しては非常に厳格というか圧迫を与えてきた父親らしい。向かい合ってステッキを振り上げられると大の大人の筈の次男も三男も頭を抱えて「ごめんなさい!」と逃げ出す始末である。
ここで、角野卓造演じる「今回、東京から住民票を移しました」という候補者が、次男以上の常識人ぶりを発揮し、村の問題点は女性の地位向上だと叫んで長男の嫁を取り込み、三男の土地を買い上げてバイオマスエネルギーの工場を作ってエネルギー問題を解決すると抱き込み、ついには前村長自身をも「名誉村長」とバイオマスエネルギーのマスコットキャラにするという餌で釣ってしまう。
候補者を次々と取り込み、立候補を辞退させ、ついには、「当選確実」ということになる。
何だか、いい選挙だった風だ。
ところで、バイオマスエネルギーって何だ? という話になると、俄然風向きが変わってくる。
つまるところ、人間は通常1日200gくらいの排泄物を出しているらしいのだけれど、これを9000g出せば、人類のエネルギー問題が解決するという話らしいのだ。
9000gの排泄物を出せない人間は村を出て行け! と、豹変である。
また、排泄物を燃やしてそれをエネルギーに変えるのだから、当然「臭い」の問題も出てくる。
これまでの「常識人」ぶりはどこへやら、だ。
しかし、前村長の子ども達が何故か一致団結して彼に反旗を翻し、ついには前村長も袂を分かち、しかし、選挙コンサルタントが実は三男ではなく彼についていたということが判明し、選挙法により立候補の届け出は締め切られてしまっていることが明らかになる。
だめじゃん!
そこへ、「自分はまだ立候補を取り下げていない」と前村長の弟が恐る恐る言い出し、形勢逆転、この「選挙のたびに立候補して自分の名前を投票用紙に書いて自分の存在を確認してきたんだ」とガンコに言い続けた男が、ついには村長になることがほぼ確定する。
何しろ、選挙は2日後なので、まだ選挙結果は判らない。
しかし、選挙をやらなくても、選挙結果がほぼ明らかなのは、有権者が105名、そのほとんどを把握できるからだ。
常に、番外の男(という印象である)だった前村長の弟が、初めて日の当たる場所に立つ、それが確定したところでこの芝居は幕である。
何というか、定石どおりという感じがする。
そして、その定石を外さずハズさせず、淡々と展開して行く。もちろん途中でどんでん返しが見えてくるのだけれど、その「だよね!」というのも
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
私は前方の席だったので、かなり意識して見上げないと時計が目に入らず、あまり気になっていませんでした。時々「あの時計、ちゃんと進んでいるなぁ。リアルタイム2時間を切り取ったお芝居なのかなぁ。」と思っていたくらいで。
17時を過ぎている! というインパクトは、だから、みずえさんよりも感じていなかったかも知れません。
惜しいことをしました。
どこへでも行けるようにセットを簡単にしたのか、セットを簡単にせざるを得なかったので結果として地方公演ウエルカムになったのか、その辺りは微妙なところなんだろうなぁ、と失礼なことを考えたりもしてしまいました。
やはり、演劇に集まる人は減っているような気がしますので。
私も「正しい教室」を見に行く予定です。
ただ、4月から仕事が変わるので、果たしてそういう余裕を自分で持てるかどうか、心配しているところです。
でも、また遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.03.28 23:08
姫林檎さま
私は昨日観ました。
客席が有権者席という設定なのですね、面白かったです。
そして時計。
時計を置く意味あるのかな、客が時間気にしないかな、と思っていたら、ああいうこと(5時過ぎをわからせる)だったんですね。
劇団員の安定感はさすがだったし、客演の伊東さんと角野さんは素晴らしかったです。
そして「バイオマス」笑えました。
あのイラストが出てきたときに、何が原料なのかはわかりましたけど。
確かにセットが簡易なので、お金がない劇団や学生でもできるな、なんてことを考えながら観ておりました。
私は来月「正しい教室」を観ますが、姫林檎さんもご覧になりますか?
投稿: みずえ | 2015.03.26 09:44