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2015.04.12

「正しい教室」を見る

PARCO PRESENTS「正しい教室」
作・演出 蓬莱竜太
出演 井上芳雄/鈴木砂羽/前田亜季/高橋努
    岩瀬亮/有川マコト/小島聖/近藤正臣
観劇日 2015年4月11日(土曜日)午後7時開演
劇場 パルコ劇場 M列4番
料金 8700円
上演時間 2時間45分

 ロビーではパンフレットやTシャツなどが販売されていたけど、値段はチェックしそびれてしまった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 パルコ劇場の公式Webサイト内、「正しい教室」のページはこちら。

 真っ黒な舞台の上に、コーナーの2面の壁をなくした「学校の教室」が斜めに置かれている。
 その教室の中を上から覗き込んでいるようにも思える。
 「学校の教室」は本当に「the 学校の教室」だけれど、そういう風に思うのは、作り手の側と私の年代が同じくらいだからじゃないかなぁとも思う。それとも、学校は今でも私が子どもの頃とほとんど変わっていないのだろうか。
 教室の中では、若い先生が、保護者と電話で話している。保護者と話すときに私物の携帯電話を使うのかぁと思う。
 時代背景みたいなものは、やはりどこかに出てしまうものだなぁと思う。

 そこは学校だけれど、子ども達の姿はない。
 この教室では、卒業生たちが同窓会を開こうとしているようだ。母校で教師になった井上芳雄演じる「元委員長」の男が差配したらしい。
 そこに、小島聖演じるピンクのスーツの女や、高橋努演じる「番長」と呼ばれる男、岩瀬亮演じる「ガリ勉」と呼ばれる男などがやってくる。彼らはしょっちゅう会っているらしい。
 本日の「特別ゲスト」は、有川マコト演じるみなが「アパッチ」と呼ぶ男と、鈴木砂羽演じるかつてクラスのマドンナだった女のようだ。

 しかし、この二人が何だか訳アリで、アパッチの方は何だか高級そうなスーツに身を包んでデキる営業マン風だし、女の方は息子を亡くしたばかりで、前田亜季演じる妹に付き添われて現れたくらいだ。
 小学校のときの同窓会だけど、その当時の同級生が11人というから、かなり小さな学校だったらしい。
 それくらいの人数だと、「その後の人生」みたいなものも皆ある程度知っていて、「小学生だぞ」と思うけど、恋のさや当てがあった風でもあり、それなりにあてこすりやらありつつも和気藹々としている。
 そこに異分子である、とにかく如才なさそうな男、とにかく暗い女、やけにテキパキしたその妹の3人が加われば、波瀾万丈の幕開けである。

 とにかく無難な話題が「かつての担任教師の悪口」だ。
 ところが、何故かそこに、近藤正臣演じる当の元担任教師が現れる。何故現れたのだと聞く委員長に「招待状がポストに入っていた」と答える元教師。杖をつき、ヘルメットを被っている。
 ここまでだって不穏だったのに、とにかく嫌われていたらしい元担任教師が現れれば、その「不穏」度数は最大限に振り切れている。
 さらに、マドンナだった女が、「私がポストに招待状を入れた」と言い、妹が「私たち、先生に慰謝料を払ってもらおうと思って来たんです」と言い出す。

 ここから後はもう、怒濤の展開である。
 ひたすら、暴露合戦が続く。
 マドンナだった女は「私が水に入るのが怖くなったのは、先生にプールに突き落とされたからだ。その結果、池にはまった息子を助けることができなかった。慰謝料を払え」と言い続ける。「私、おかしい?」と皆に詰め寄るのだけれど、周りの同級生は彼女に反駁できないまま「それっておかしいんじゃない?」と思っているようだ。

 ピンクのスーツの女が「自分が書いたラブレターを掲示板に貼られた」と言い出すと、先生は「それをやったのは俺じゃない」と言い出し、「その頃おまえが付き合っていた男は、別の女とも仲良くしていた」って、それが小学生時代を表す言い方なのかと思うけれど、その「乗り換えられた女」が実はマドンナと呼ばれた女だったらしいと判る。
 そんな、あまり嬉しくない、知らずにいられるなら知らない方が良かったようなことが、元担任教師の振る舞いや発言を契機として次々と出てくる。

 そして、もちろんこの担任教師は、マドンナと呼ばれた女に謝る気はなく、自分がやったことは正しかったのだと主張し、慰謝料なんて払わなくちゃならないのかと嘯く。
 もちろん、担任教師を嫌うことで結束していたような彼らは、一様に嫌悪感を示す。
 しかし、その元担任教師の彼の言うことも判らないでもない。
 実際のところ、番長と呼ばれた男は、担任教師に若干、同調するような気配すらある。
 そして、元担任教師を帰らせようと奮闘する彼らに対し、マドンナと呼ばれた女は「みんな、協力してよ」「まだ謝ってもらっていません」と帰ろうとする彼をその度に阻止するのだ。

 その辺りから、多分、風向きが変わってくる。
 元担任教師が逆襲に出たからだ。
 自分が足を悪くして今も杖をつき、体育教師の職を辞めざるを得なかったのは、おまえたちが仕組んで自分を大きな落とし穴に落としたからだ、その慰謝料をもらえるんだろうなと言い出す。
 そして、それはどうやら事実だったらしい。
 元担任教師をおびき出す「餌」になったのは、遊泳禁止の川に入った生徒がいたからで、しかし、そのアパッチは自分から川に入った訳ではなく突き落とされたのであり、しかも突き落とされた彼だけが、その作戦を知らなかったと知って、アパッチは「自分はそういう立ち位置だったのか」とショックを受ける。

 しかし、この話で一番のダメージを喰らったのは、委員長だ。
 その作戦の首謀者であったことを認めようとせず、ロッカーの裏に参加者全員で刻んだ名前を消したことが明らかになり、そして、作戦の中味を自ら元担任教師に告げたことをバラされてしまう。
 「いい人キャラ」の崩壊である。
 逆に、番長によって「足が変な風に曲がった教師が、助けられた途端、川に入ったアパッチを怒鳴りつけ、それを止めなかった自分たちを怒鳴りつけた。大したもんだと思った」というコメントが語られることによって、「もしかして、この担任教師はこの人なりに、筋の通った教師だったんじゃないか」というそこはかとない疑いが前面に出てくることになる。

 こういう、暴露合戦や、最初に出たときのキャラが次々とひっくり返る連鎖には、やっぱり引きつけられるなぁと思う。
 その中味があまり気持ちのいいものではないせいもあって、この芝居で提示されているものとは別のことを考えてしまったりする。
 みんなに嫌われていた元担任教師は、「教師と生徒は個人と個人の関係なんだから、嫌いな奴は嫌いだ」と言い、人の弱みをえぐるようなことを言い、しかし生徒一人一人のことは覚えている。人望厚い元委員長は、生徒からも保護者からも好かれる評判のいい教師になったけれど、クラスの生徒の一人は「希望」と書くべき書き初めに「絶望」と書いてきている。

 謝らないと言い続けていた元担任教師が、この委員長が、その「八方美人」な態度を責められ、「あなたみたいな教師を見ていたら、誰からも好かれる、落とし穴に落とされないような教師を目指すようになるんだ。あなたたちの責任だ」と言い返すと、そのとき初めて、「確かにそれは自分の責任かも知れない」と深々と頭を下げて謝る。
 正直なところ、この元担任教師が全き善とは思えないのだけれど、しかし、ここはある種の感情というか共感が、その教室に流れたことが感じられる。

 マドンナと呼ばれた女の息子が亡くなった経過は実は彼女が語ったようなことではなく、アパッチは実はねずみ講にどっぷりと絡め取られてしまっていることが判明する。委員長は「絶望」と書き初めした女生徒から「先生は裏切り者だ」「この件はツイートする」という手紙を受け取っている。元担任教師は、昔のことはよく覚えているものの今日の食事をしたかどうかすら忘れてメモを取るようになっている。ピンクのスーツの女は家族の介護を抱えているし、番長は妻に逃げられて経営する食堂が倒産寸前だ。
 そういえば、ガリ勉と呼ばれた男だけは明確な不幸に襲われていないけれど、そういう人も必要だ。

 番長に会社について行って会員を辞めさせてやると言ってもらえたアパッチを除くと、彼らの抱える「問題」は何も解決していないし、解決の見込みもない。
 委員長だけは、もしかしたら「みんなに好かれなくてもいい」「みんなに好かれる教師なんてあり得ない」「絶望と書いてくるような女性とは放っておけばいい」と口々に言われたことで、もしかしたら救われた気持ちになっているかも知れない。しかし、元担任教師からは、逆に「絶望って書くようなアピールもできない、希望と書いた生徒達の中にこそ、問題を抱えた子供がいる」という重い宿題を突きつけられている。
 最後に少しだけ彼らの状況を上げて、こちらの気分も少し上げてくれてもいいじゃない、という気もする。
 
 状況を上げる代わりに、彼らに用意されたのは、番長が作って来た「不味い」カレーである。しかも、ごはんもうどんもなく、ただのカレールーだ。そして、冷めて固まっている。
 でも、そのカレーを少しずつ食べているときだったか、タイムカプセルに何を書いたかという話になり、ただ一人、番長だけは今の仕事に繋がる夢を書いていたのだと元担任教師は断言する。本人が忘れているのはご愛敬だし、多分、救いだ。

 そうして、ふと立ち上がった委員長が、壁の書き初めの「希望」たちに向き合い、手を伸ばし、生徒に触れようとしているかのような後ろ姿を見せて芝居が終わる。
 ずっと長い手足を屈めるようにしていた委員長が、初めて手足を伸ばした、とも見える。

 2時間、怒濤の展開に振り回されて、濃い時間を過ごせた。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 みずえさんもご覧になったんですね。
 おっしゃるとおり、様々に暴露されて行きましたが、思ったほどのダメージはなかったですね。役にとっても、見ている我々にとっても。

 マドンナの妹が、何故カレーを食べなかったのかは確かによく判りませんでした。足をぶらぶらさせて机に座って、でも、姉たちを拒否しているような雰囲気でもなかったですし。
 姉たちの同窓会に背を向けた彼女が何を考えていたのか、自分は姉とその仲間には入れないし入りたくないということだったのかなぁとも思います。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2015.04.13 22:20

姫林檎さま

私も観ました。
男性の役者は、井上くんと近藤正臣さんしか知りませんでしたが、皆さん良かったですね。
アパッチ役の人の立ち位置は最高でした(ヅラネタは笑えました)。
でもやはり、近藤さんに持って行かれた感じかな、彼はさすがでしたね。
私としては、近藤さんのような教師も、井上くんも、どっちも勘弁ですが、生徒は教師を選べないという現実も見せられた気分です。
様々な暴露合戦がありましたが、不思議と後味は悪くなかったです。

ただ、マドンナの妹さんの存在意味がよくわかりませんでした。
第三者的な役割を振られていたんでしょうが、何故彼女はカレーを食べなかったの?
そこが疑問でした。

投稿: みずえ | 2015.04.13 11:30

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