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2015.06.28

「東海道四谷怪談」を見る

「東海道四谷怪談」
作 鶴屋南北
演出 森新太郎
上演台本 フジノサツコ
出演 内野聖陽/秋山菜津子/平岳大/山本亨
    大鷹明良/木下浩之/有薗芳記/木村靖司
    下総源太朗/陳内将/谷山知宏/酒向芳
    北川勝博/采澤靖起/今國雅彦/稲葉俊一
    わっしょい後藤/森野憲一/頼田昴治
    花王おさむ/小野武彦
観劇日 2015年6月27日(土曜日)午後6時開演
劇場 新国立劇場中劇場 13列54番
料金 7900円
上演時間 3時間5分(20分の休憩あり)

 ロビーではパンフレット(800円)や関連書籍が販売されていた。

 また、「新国立茶屋」(だったと思う)と銘打って、お団子や抹茶プリンなどが販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 新国立劇場の公式Webサイト内、「東海道四谷怪談」のページはこちら。

 開演前に幕が降りている舞台は、最近では珍しいように思う。
 その幕が上がると、だだっ広い新国立劇場中劇場の舞台がそのままの奥行きで広がり、セットもなく、黒くガランとしている。
 そこへ、黒衣が登場して白っぽい正方形の布を敷き、その奥に白っぽい長方形の「壁」が多分、上から降りて来てセットされ、広い舞台の手前、ほんの狭い空間が作られ、ライトも基本的にその白っぽい部分にしか当てられない。
 基本的にセットはこれだけだ。

 東海道四谷怪談は、登場人物の相関関係や設定に様々なバージョンがあるというイメージがある。
 そもそも、私が最初に「東海道四谷怪談」を読んだのが、京極夏彦の「嗤う伊右衛門」なのだ。最初からバリエーションの方を読んでしまったので、大本の「四谷怪談」がどういう話だったのか、今ひとつ掴めていない。
 とりあえず、「嗤う伊右衛門」は置いておくとして、岩の顔が崩れる、夫の民谷伊右衛門が岩を殺す、岩らの幽霊(怨念)に伊右衛門が苦しめられる、という出来事は共通として、あとはもう何でもありという感じがする。
 鶴屋南北が書いた「東海道四谷怪談」は、忠臣蔵の裏話的な側面もある。

 それで、今回の「東海道四谷怪談」がどんな「東海道四谷怪談」だったかというと、印象としては「鶴屋南北の作に忠実な」東海道四谷怪談だったように思う。
 ときどき、ん? と思わせるような笑いを取るシーンもあったけれど、台詞も古めかしく、その分、格調高く聞こえてしまうのはこちらに教養がないせいだろう。
 翻案とか、時代設定を変えるとか、そういうことはしていない。ただ、直助という結構重要な役どころの登場人物がいたように思うのだけれど、影も形も出てこない。そこは、違っていると思う。

 内野聖陽演じる伊右衛門が、自分と岩を離縁させ、また自分の過去の悪事を知っている岩の父を殺したところから舞台は始まる。
 嘆く秋山菜津子演じる岩を慰め復縁したものの、産後の肥立ちが悪い岩を伊右衛門は邪険に扱うようになる。
 一方、民谷家の隣、伊東家の娘梅は伊右衛門に恋をしていて、その祖父である喜兵衛は、岩に顔が崩れる薬を飲ませ、もって梅と伊右衛門の縁組みを果たそうとする。
 その薬を飲んだ岩の顔は崩れてほとんど狂い死にし、留守を任されていた宅悦は逃げ出し、一部始終を聞いていた小平は戻って来た伊右衛門に「岩との不義密通」の濡れ衣を着せられて殺されてしまう。
 その家に、仮祝言を挙げた梅がやってきて、喜兵衛も岩の子の子守として残るが、伊右衛門は岩と梅を見間違え、小平と喜兵衛を見間違えて二人を殺してしまう。

 奥に立てられていた壁に血が伝い(実際は水なので、黒っぽくなるだけだけれど)、手桶の水を撒いて返り血に見せる。
 そこにスプラッタな感じは全くないのだけれど、緊迫感故に思わず顔を背けてしまった。
 そして、その壁がなくなり、床に敷かれていた布が、低く下げられた舞台前方にそのまま落ちて行く。

 ここで、休憩である。

 この「東海道四谷怪談」の特徴の一つは、岩を演じる秋山菜津子以外に女優が一人も出演しないことだと思う。
 岩の妹の袖も、梅も、その乳母も、梅の母も、男優が演じている。
 それがまた可笑しみを生むのと同時に(特に、梅を演じた有薗芳記が凄かった)、岩という「女」の情念とか暗さとか辛気くささとか執念深さが、後半になるに連れて膨れあがり、広がって行くように思う。
 そしてまた、元々が華のある女優だから、舞台上にいる女優がたった一人、全体的に暗めの舞台で、本人の衣裳もかなり地味という状況でも、違和感が生じないというのも何だか凄い。

 休憩前は、岩がひたすら酷い目に遭って落ちて行く展開だった訳だけれど、休憩後は、伊右衛門がひたすら落ちて行く展開である。
 多分、そういう分けにしようということで、休憩前が1時間50分、休憩後が55分という配分になっていたのだと思う。
 お取りつぶしにあって乞食に身を落とした梅の母と乳母を殺し、産みの母からもらった「高野家のお墨付き」は罪を着せようとした悪事仲間の秋山に渡さざるを得なくなる。
 岩や小平の亡霊に日々悩まされる。
 岩が操っているのか岩に加勢しているのか、伊右衛門も秋山も伊右衛門の母も鼠に襲われる。
 一方で、鼠は岩の形見を妹の袖に届け、その夫である与茂七に敵討ちを決意させる。

 踏んだり蹴ったりといえばいいのか、当然の報いといえばいいのか、どちらかというと前者に見えるのは何故か自分でもよく判らなかった。
 内野聖陽の演じた伊右衛門がどこか明るいというか、悪事を働いているというよりも自分の欲望に忠実という面が強調されていたためなのかも知れない。
 かなり酷いことをやっているのだけれど、この伊右衛門は意外と悪人には見えないのだ。

 舞台のかなり手前に壁を作り、その真ん中をくりぬいて、壁は黒、くりぬかれた部分は照明を目一杯明るくし、そこでまるで踊っているかのように、伊右衛門と死んだ岩とを争わせるシーンはとても綺麗だ。
 でも、岩の綺麗さ、儚さ、おどろおどろしさよりも、伊右衛門のとぼけた感じの方が印象に残る。不思議だ。

 最後は、伊右衛門が捕り手に囲まれ、またもや奥行きを広く作った舞台に大量に雪が降り、その雪は照明を浴びて白く光っている。
 その雪の中で、伊右衛門と捕り手たちとの大立ち回りが続く。
 かなり「美しい」場面である。様式美という感じがする。
 ただ、他の場面でもそうだったのだけれど、刀を打ち合った音がいかにもプラスチックな感じの音だったのが気になる。あるいは本物の刀がぶつかる音もそういう音なのかも知れないのだけれど、何だか違和感を感じたのだった。音が軽いと、刀そのものも軽く見える。

 音といえば、この舞台の音楽も印象的だった。
 打楽器だけの音楽が入ったときは、ケチャとかかしらと思ったし、最後の立ち回りのシーンなどでも流れたのはピアノ曲の「乙女の祈り」だったと思う。
 もっとも、舞台を見ているときは「この曲知ってるよ、弾いたこともあるよ、でもタイトルが思い出せないよ」と思っていて、曲名が浮かんだのは帰りの電車の中だ。
 岩の怨念が最高潮に達したときに流れる音楽が「乙女の祈り」だとは、何とも皮肉な選曲である。もしこの曲のタイトルが「乙女の祈り」ではなく、これほど有名な曲でなかったら、この舞台でこの曲が使われることはなかったんだろうなと思う。

 後半に行くにつれて盛り上がる、緊張感溢れる舞台だった。

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コメント

 あんみん様、コメントありがとうございます。

 あらら、惜しいところだったのですね。マチネ・ソワレ違いでしたか。

 おまきさんも良かったですよね。
 木村靖司さんの場合、若干「いつもどおり」な感じもあって、私にとってはお梅さんの方がインパクトがあったのですが(笑)。

 「乙女の祈り」は、曲の最後の部分(私は一番盛り上がる部分だと思うのですが)が何故か演奏されず、ひたすらテーマ部分を変奏曲のように繰り返していて、それもあんみんさんが間延びしていると感じられた理由なのかなぁと思います。
 とっとと曲のラストに行って盛り上がって終わろうよ、と思っていましたもん。

 タイトル狙いだとすると、私みたいな「知ってる曲だけど曲名が思い出せないよ!」という観客は完全にストライクゾーンを外していますね。ははは。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2015.06.29 23:47

こんばんは、スレ違いでした。
6/27昼公演に行ってきました。
もう、秋山菜津子はやっぱり素敵な女優です。
けなげな地味な女房風情も、啖呵を切るような肝の据わった喋りも
どちらも決まっていて色っぽいしカッコいい!

お梅も可愛らしかったけど、おマキさんも良かったです。
歌舞伎口調の『さぁ、さぁ』も決まってて。
後ろの大きなボードが傾いたり、色が変わったりと斬新でしたね。

唯一残念だったのは『乙女の祈り』でした。
1回目はお歯黒を塗るシーンだったか、どうだったか。
思わず、え。。と声が出そうになりました。
立ち回りは却ってパーカッションのみでシンプルにした方が
凄みが出たのではと思いました。
間延びしてしまい、なんだか電話の保留音を連想してしまいます。。
おっしゃるとおり、そのタイトルで選ばれたとは思いますが
やめて欲しかったです。残念。
あとラストはそのままコクーン歌舞伎三人吉三のような。

投稿: あんみん | 2015.06.29 00:52

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