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2015.06.13

「草枕」を見る

「草枕」
作 北村想
演出 寺十吾
出演 段田安則/小泉今日子/春海四方/山田悠介/浅野和之
観劇日 2015年6月13日(土曜日)午後6時開演
劇場 シアタートラム D列3番
料金 6800円
上演時間 1時間20分

 ロビーでパンフレット等が販売されていたと思うけれど、チェックしそびれてしまった。
 ネタバレありの感想は以下に。

 シス・カンパニーの公式Webサイト内、「草枕」のページはこちら。

 「草枕」というタイトルは、もちろん、夏目漱石の「草枕」から来ている。
 筋書きの枠組みも「草枕」から取っているようだけれど、小説の舞台化ではない。そのことに気付いてから、「これは、草枕を読んでいたら面白く見られたんだろうな」と思っていた。
 冒頭の「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」という文章は何となく知ってはいるけれど、私は「草枕」を読んだことがないのだ。

 舞台セットは、割り箸ペンで描いたようなまさに「書き割り」である。
 舞台奥に山道が描かれ、その真ん中だけが抜かれて橋がかかり、人が通れるようになっている。
 手前に能舞台のような四角い少し高くなった場が作られ、そこは旅館の部屋になったり、温泉になったり、駅になったりする。
 途中、雨が降るシーンが何回かあるのだけれど、この書き割りが黒く沈み、そこに白い線で雨が降っている様子が表されるのが何とも格好良かった。

 段田安則演じる主人公の画工が30歳というのは、小説の設定そのままらしい。
 しかし、無理があるよねと思う。ただ、夏目漱石が小説を書いた当時の30歳と今の30歳は恐らく全く全然異なっているのだろうし、しゃべっている言葉や内容と今の段田安則との間に違和感がある訳ではない。
 ならばいっそ、芝居の中で「30歳だ」なんて言わせなければいいのにと思う。
 でも、それとは逆に、小泉今日子が演じていた那美という女性は3回結婚してその度の出戻ったという設定なのだけれど、果たして何歳ということになっていたのだろうと考えてしまうのだから、こちらも勝手なものである。

 1時間20分のうち、かなりの時間(体感としては8割くらい)が、この画工と那美とのやりとりで進んで行く。
 那美は旅館の若女将で、そこに「非人情」である画工がやってきて逗留している。その逗留している間のあれこれが展開して行く。
 浅野和之が、画工に那美のいる旅館を紹介する茶屋のお婆さんになったり、旅館の若い仲居になったり(いかにも田舎娘という風情である)、床屋の亭主になって大陸を目指す歌を歌ったり、500円札の板垣退助みたいな髭を生やしたお爺さんになってみたり、八面六臂の活躍を見せる。
 もう浅野和之が出てくると彼の一人勝ちで、笑いを取り、場を和ませ、そして場面を進ませる。
 本当に凄い。

 でも、浅野和之が活躍し、段田安則と小泉今日子の口跡のいいやりとりを聞いているうちに、舞台は役者の時代なのかなぁと思ったのも本当だ。
 それがいい悪いではないと思うけれど、舞台を背負える少数の役者さんたちの活躍で舞台が成立する、人は、芝居ではなく役者を見に行く、筋書きや展開や演出ではなく役者を楽しんでいる、何だかそんな気がしたのだ。
 同時に、「草枕」を読んでいたら多分全く違う受け取り方ができた筈で、教養のない観客で本当に申し訳ないという気持ちも大きい。
 どんな観客に向けて書くのか、観客にどのレベルを求めるのかというのは、結構大きな問題なんじゃないかという気がした。

 画工が那美の「自分が身を投げてオフィーリアのように流されているところを絵に描いて欲しい」という頼みに「何かが足りない」「その笑顔では絵が描けない」と断る。
 しかし、彼女の従兄弟である山田悠介演じる久一が満州に出征することになり、彼を見送る那美が帯の間に元夫を刺そうとした懐剣と彼への餞別を一緒に納めていたことを知って「何か」を悟り、元夫に満州に行く金を貸してその二人を見送っている那美の顔を見て、画工は「強さの前に必要なのはそれだ」と気付く。
 「それ」とは、他者への哀れ、あるいは哀れみだという。

 この辺りも実は私にはよく判らず、何に気付いたのかはっきり教えてくれ! と心の中で叫んでいた。
 那美が帯の間に懐剣と久一への餞別との両方を納めていたことから、一体、画工は那美の心情の何を悟ったのか。
 那美が列車を見送っていたときに、手を大きく振り出す前に見せていた表情は何だったのか。
 見せないことでこちらの想像力をかき立てられていることは判るのだけれど、単純明快に誤解しようもなく見せて欲しいとも思ってしまうのだ。
 何でも答えだけを求めているみたいで情けないとは思うのだけれど、今のところ、そういう芝居を見たいという気持ちの方が強い。

 ついでに書くと、この列車だけは、ほとんど無彩色だった舞台セットの中で、唯一「色」がある。
 青と赤で描かれた、しかしこちらもまた書き割りである。列車の正面だけが作られ、何故かヘッドライトだけは本物が光っている。強い光を放つ。
 どうしてそういう風にしたのか、これまで書いたことと矛盾するようだけれど、考えると面白い、ような気がする。

 この舞台では、旅に出る前に画工が小泉今日子が二役で演じる女性卓(つな)をスケッチし、その強さの秘密を突き止められず、しかし旅から帰って画工はつなの肖像画を描きながら「強さ」「美」について語る。
 そして、幕である。

 何だかんだ色々と書いてしまったけれど、何とも贅沢な舞台だった。
 

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コメント

 アンソニー様、コメントありがとうございます。

 阿弖流為をご覧になったのですね。
 このブログがきっかけでご覧になっていただけて、かつ満足していただけて、私もとても嬉しいです。
 私も、ますます楽しみになってきました。

 そして、「ラッパ屋」のご感想を教えていただきありがとうございます。
 ほんと、見たかったんですよ! 今でもかなりショックです。
 劇団員でない若手の役者さんが何人か出演するというのは、ラッパ屋ではかなり珍しいことだと思いますので、かなり楽しみにしていたのですが。
 なかなか、そこを融合させるというのは難しかったということでしょうか・・・。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2015.07.10 23:08

こんにちは、姫林檎様
昨日は濃い~時間を過ごしてきましたが
どちらも大満足でした!!!よい作品だと
長丁場だと全く疲れないものですね。
阿弖流為の感想書かれてからまたコメントしに来ますね♪

まさか!ラッパ屋はいけなかったのですね(><)

私はというと前の方がかなり背が高く
舞台中央にでーんと頭があって殆どステージが
見れず・・・・全くもって集中力なく観てしまいました。
観劇って席にもかなり左右されますよね。 

話が動いたのが中盤を過ぎてからで後半はよかったですけどそれまではちょっとテンポが悪かったような。客演の方にみんな戸惑ってる感が役なのかアドリブなのか見てて面白かったです。

と情けない感想しかお伝えできずすいません(^^;

投稿: アンソニー | 2015.07.10 15:40

 アンソニーさま、コメントありがとうございます。

 本当に今年の梅雨は雨が多いですね。太陽も青空も、随分と見ていないような気がします。
 おっしゃるとおり、劇場にいれば全く関係ない訳ですが(笑)。

 浅野和之さん、いいですよね。
 どんだけ身体を鍛えているんだ! と思います。
 そして、次から次へと早替わりするその技術力の高さ。さらに笑いまで確実に取ってしまうなんて、という感じがします。

 ところで、ご質問のあったラッパ屋、チケットを持っていたのに、諸般の事情で行けなかったのです(泣)。本当にショックでした。今回の公演期間が短かったこともあって・・・。
 ご覧になっていかがでしたか。
 ぜひご感想などお聞かせくださいませ。

 そして、明日の、確かに随分と濃そうな2本立ての観劇をぜひぜひ楽しんでいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2015.07.08 22:30

姫林檎様、こんにちは。
毎日雨降りで格好の観劇月間です(笑)

先日観てきました!
なんだかとっても洗練された舞台でした。

私もあの表情が気になりました。
もしかしたら泣いていたのかもしれないな~などと
思いながら。。。


実は浅野さんのファンでして。
役者を見に行った観客の1人です。
演者、脚本家、内容といった感じで
見る者を選んでいるような気がします。


パンフレットは500円でした、随分安くて驚きました。

そういえば、ラッパ屋はいかがでしたか?
先日行ってきましたよ。
そして明日オススメいただいた阿弖流為と
七人くらいの兵士というかなり無理目な2本立てですw

投稿: アンソニー | 2015.07.08 17:17

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