「ス・ワ・ン」を見る
3軒茶屋婦人会6 「ス・ワ・ン」
作・演出: G2&3軒茶屋婦人会
出演 篠井英介/深沢敦/大谷亮介
観劇日 2015年7月8日(水曜日)午後2時開演
劇場 本多劇場 O列13番
料金 6000円
上演時間 1時間55分
日程的に厳しくてチケットを取っていなかったのだけれど、やっぱりどうしても見たくなって、人生(多分)二度目の当日券で見に行った。
ロビーではパンフレット(1000円)や、クリアファイル(2枚500円)などが飛ぶように売れていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台上にはコントラバスとトランペット(だと思う)のお二人が登場し、生演奏がつくらしい。
贅沢な空間である。
暗い舞台の真ん中に、コーナーボックスの感じで舞台が置かれ、そこにライトが当たっている。和服姿の女がその舞台上を横切り、嵐なのか風が強いのか、とにかく顔を伏せて急いでいる様子なのは判る。
そこへ、同じく和服姿の女が登場する。手に壺を持って、何やら思い悩んでいる様子だ。
話が進むうち、深沢敦演じる高山右近の娘と、大谷亮介演じるその母が教会で、それぞれ父と夫を心配している様子が判る。
彼らはカトリックで、家康が出した禁教令によって、フィリピンのルソン島に流されてきたようだ。
そこへ、篠井英介演じる小西行長の養女ジュリアがやってくる。
彼女は高山右近に会って、天草で起こす乱の総大将になってくれるよう頼みに来たということが判る。
彼女は、父を奪った徳川家康に復讐するための手段としてカトリックになり布教に励み、ポルトガルの協力を得て徳川幕府を倒した暁には日本がポルトガルに占領されても全く構わないのだと語る。
3人とも武将の妻であり娘な訳で、裕福な生活を送り、それなりの教養を持ち、穏やかな物腰と物言いである。
でも、その乱の計画を語るジュリアの言葉を聞き、母と娘は、それぞれの信仰が「夫とともにパライソに行きたかっただけ」であり、「夫とともにインヘルノに落ちたかった」ものであると語り合う。
要するに、何かといえば夜空のサザンクルスにノーザンクルスに祈ってきたけれど、二人とも、決して敬虔なカトリックなどではないと認め合う。そして、高山右近という人物のいわば無邪気さに合わせてきただけであることを確認した二人は、高山右近が死んだら日本に戻りましょう(つまりは、棄教しましょう)と穏やかに言い合う。
宗教というものは、どこまで行っても狂気と紙一重なんだなと思ってしまう静けさだ。
そして、彼女たちが祈っていた「ノーザンクルス」とは、はくちょう座のことである。
こうして始まったこの舞台は、三編の短編集のようになっているようだ。
そして、三編を繋ぐのは、舞台のタイトルにもなっている「白鳥」「スワン」である。
そのことは、二編目が始まってすぐに判る。
篠井英介演じる招娣は、中国は深圳にあるiPhone工場で働いている。その休憩時間なのか、彼女は何やら「日本礼賛」ともいうべき文章を読み上げ、読み込んでいる。
それは、彼女に言わせれば、「婚約者のスワン・ソング」なのだそうだ。
招娣自身が劇中で語ってくれるけれど、スワン・ソングは、遺書であり、遺作である。婚約者がその文書を書き、招娣に送った次の日に自殺している。その原因を探るために、彼女はこの工場で働いているようだ。
招娣は、ラインの監督係だった婚約者が、試作していたiPhone15個のうち1個がなくなったことが原因で自殺したのだと考えている。その1個をこっそり奪って横流しした犯人を庇って自殺したのだと考え、そのiPhoneを奪った人間を探り当てようとしている。
そんなことをしても仕方がない、とはならない。
多分、スワンソングに一言も触れて貰えなかった婚約者としては、そうでもしなければやりきれないのだ。
結局、急に金回りが良くなった大谷亮介演じる佳芝には、工場長の愛人である穎が怪しいと焚きつけられ、深沢敦演じる穎には、佳芝こそが怪しいのだと言い返される。
そして、結局、穎に「工場長から聞いた話」として、婚約者自身がiPhoneを奪ったのであり、そのことを握りつぶしてもらうために「日本に行くために」貯めていた筈の5万元を工場長に賄賂として差し出そうとして断られたのだという話を聞かされる。
招娣の幻想が音を立てて崩れて行くのが見えるようだ。
そして、彼女は婚約者が亡くなってから使わなくなっていた化粧道具を取り出す。
女は怖い。
そして、彼女がこれからどうなって行くのか、正しく「堕ちる」という言葉を体現するような人生を送るのじゃないかと本気で心配になる。
最後の短編の舞台は戦後の日本のキャバレーである。
キャバレーで働く、大谷亮介と深沢敦演じる女二人が、篠井英介演じる美津子が元はムーラン・ルージュで歌っていたことを知り、3人で「スワン・シスターズ」というコーラストリオを組もうと持ちかける。
衣裳もドレスだし、お化粧もしているし、女っぽい。いや、2編目だって、作業服姿だったにも関わらず、3人とも「女」に見えていたのである。
しかも、女のずるさみたいなものまできっぱりと演じていたのだから、女は怖いというべきか、男は怖いというべきか、彼らはオソロシ過ぎると言うべきか、全く判らない。
いずれにしても、この3編目がいわば「解くべき謎」もなく、定番な感じもあって、彼女たちの夢物語に乗っかって楽しんじゃえばオッケーという感じがした。
美津子の「ヒモ」である男が殺され、彼から奪ったお金で、3人はフィリピンのルソン島に渡ってそこの米軍キャンプで歌い、いずれはアメリカ進出も果たそうと誓い合う。
その前にこの店を焼いてしまおうとしたところ、灯油だと思っていた液体はガソリンで、燃やすはずの店は爆発し、しかも外に出られないという絶対絶命のピンチに陥る。
もちろん、彼女たちは助かり、語っていた夢物語のとおり3人とも真っ白な衣裳に身を包んで、最後は歌って踊る。
そうやって終わるよねと思っていて、そのとおりのフィナーレで、それでもちろん全然オッケーである。
というか、「女の情念」みたいなものをずっと見てきたので(そして、そういったものに、トランペットとコントラバスという組み合わせは何と合っていたことだろう)、最後はそれは華やかにして欲しいし、3人のハーモニーだって堪能したいに決まっている。
出演のお三方は男性で、男性3人が全員女を演じる芝居を3本揃える。しかも出演するのは男3人だけ。一人何役みたいな仕掛けは一切なし。
今回の3軒茶屋婦人会は、何と直球勝負だったことだろうと思う。
見に行って良かった。
カーテンコールで、5人並んだ舞台を見て「(演奏された)男二人の方が華奢に見えるよ」と思ったけれど、考えてみたら、舞台上には男性が5人並んでいたのだった。
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コメント
みき様、コメントありがとうございます。
そして、8日の昼公演の劇場にいた3人がこんなところで再会するとは! 驚きです。
みき様、まさこ様、お越しいただきありがとうございます。
3軒茶屋婦人会のお芝居に出てくる女性たちは、決してハッピーエンドを迎える訳ではないですが、今回はでも、スワン・シスターズの活躍を祈るような終わり方だったと思います。
そして、タイトルの「ス・ワ・ン」が3つの小編のキーワードになっていますが、実はもう一つ「噂」もキーワードになっていて、かなりブラックな構成だよなぁとも思っていた私でした。
カーテンコールのときの篠井さんのお辞儀は本当に美しかったですね。
劇場でニアミスしなかったときにも、またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.07.10 23:01
まさこ様、コメントありがとうございます。& そして、お久しぶりでございます。
劇場でニアミスしていたのですね。
平日昼公演でそういうこともあるのですね〜。驚きです。
そして、コントラバスとフルーゲルホーンという楽器だったのですね。
うーん、金管楽器というところだけは合っていましたね・・・。
教えていただいてありがとうございます。完全にトランペットだと思い込んでおりました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.07.10 22:55
またまた同じ時間に見ていました。
二篇目で時代も国も違う女たち・・・生まれ代わりか?と先読みしてしまいましたが、違いました。
三軒茶屋婦人会は「紅姉妹」「ブライダル」に続いて3作目ですが、一番見ていて苦しかったです。笑いの陰にある悲しみが胸に迫りました。
ラストの篠井さんのなんと綺麗なこと!見とれました。
投稿: みき | 2015.07.10 12:04
姫林檎さま、こんにちは。
何年か前に数回コメントしたことがあります。
そのうちの一回が「紅姉妹」だったのですが、今回も同じ回の公演を観に行っていました!
袋小路に入ってしまった女たち。
そこで見つけた希望や夢が、最後のパフォーマンスでキラキラと弾けるようで素敵でした。
(思わずヒューヒュー言ってしまった(^_^;))
大谷さんに乗せられてパンフレットとクリアファイル購入。
(パンフによると楽器はフリューゲルホーンとウッドベース(コントラバス)だそうです)
投稿: まさこ | 2015.07.10 10:09