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子供のためのシェイクスピア「ロミオとジュリエット」
作 シェイクスピア
翻訳 小田島雄志
劇作・脚本・演出 山崎清介
出演 伊沢磨紀/戸谷昌弘/若松力/加藤義宗
加藤記生/谷畑聡/斉藤悠/太宰美緒/山崎清介
観劇日 2015年7月18日(土曜日)午後6時30分開演
劇場 あうるすぽっと I列5番
料金 5000円
上演時間 2時間10分
ロビーではパンフレット(値段はチェックしなかった)等が販売されていた。
ネタバレありの(とはいっても、ストーリーは有名すぎるほど有名な訳ですが)感想は以下に。
開演前のイエローヘルメッツは健在だ。
今回は、若松力が錦織圭選手に扮して登場し、このネタでは若干滑りつつも、タイトルを言ってくれたけれど聞き取れなかった曲を口パクで歌っていた。
イエローヘルメッツによる振りつきで、早めに行った甲斐があった。
そしてもちろん、クラッピングで始まる幕開けも健在である。
言わずと知れたロミオとジュリエットである。
少し前の公演でロミオを演じていた若松力が今回はパリスやマキューシオを演じていて、そこに時の流れを感じる。
今回は、加藤義宗がロミオ、太宰美緒がジュリエットである。
両者の実年齢は知らないけれど、座組の中で一番若いとロミオとジュリエットになれちゃうんだなという感じがした。確か、ロミオは15歳、ジュリエットは13歳の設定の筈である。
ロミオが15歳でジュリエットが13歳なのに、そして「子供のためのシェイクスピア」なのに、今回は、割りと猥雑な表現を結構使っていたような気がする。
ジュリエットと乳母のやりとりなどに出てきていたから、省こうと思えば省けた筈で、それを敢えて台詞として残したのはこのカンパニーの意思によるものなんだと思う。後ろの席に4歳の男の子がいたので、余計に「この子には判らないよなぁ。でも、判るか判らないかの年齢の子と来たお父さんお母さんが一番困惑するだろうなぁ」などと考えてしまった。
ロザラインに惚れていた筈のロミオが一瞬でジュリエットに乗り換えるシーンから始まる「ロミオとジュリエット」は、恋愛って不条理なものよね、ということを描いているのかしらとも思う。
そして、ローティーンの二人が恋愛に暴走し、あっという間に破滅(死んでしまうのだから破滅と言ってもいいだろう)まで走り抜けてしまうというお芝居である。
猥雑な台詞を残した割りに、ジュリエットの台詞回しはゆっくりかつ生硬で、疾走感はあまりない。しかし、何故だか、この恋愛の主導権を握っていたのはジュリエットなんだなと思わせられる。
ロミオは、一目惚れしてぐだぐだしているだけ、ジュリエットが誰もいないと思ってロミオへの思慕を叫ぶのを聞いて初めて告白するという情けなさである。
伊沢磨紀がロレンス神父とロミオの父親を、谷畑聡がジュリエットの母親を演じている。
逆にしようと思えばできただろうに(いや、谷畑聡はジュリエットの従兄弟であるティボルトも演じていたから無理なのか?)、どうして性別を入れ替える配役にしたのだろうと思う。
それはもちろん、伊沢磨紀が男性を演じても全く違和感はないし、谷畑聡がジュリエットの母親を演じることで、戸谷昌弘演じるジュリエットの父親の小心さが強調されるという効果もあるとは思うのだけれど、「別に問題ないから」ではなく、もっと意思的に配役をしていると思うのだ。
同時に、ロレンス神父と、加藤記生演じるジュリエットの乳母は、ロミオとジュリエットという芝居で、実は主役の二人よりもかなりおいしい役なんじゃないかという気がする。
主役の二人を、死を賭けた芝居に駆り立てるのはこの二人だし、主役の二人が結婚したことを知っているのもこの二人だけだ。
考えてみれば、ロレンス神父がもう少し周到な人物であったら、ジュリエットの乳母が最後までジュリエットに味方していれば、この物語は違う結末になった筈である。ロミオとジュリエットが死んじゃって、それを契機にキャピレットとモンタギューの両家が仲直りをするからこそ、「ロミオとジュリエット」が名作とされていることは重々承知の上でそう思う。
ロミオをジュリエットのストーリーは、客席に来ていたほとんどの人が知っていたに違いない。
それでも見に行くのは、ストーリー展開を知りたいからではないことは間違いない。それでも客を呼ぶのは何故なのか、そんなことをつらつら思いながら舞台を見ていた。
ロレンス神父とジュリエットの乳母はどうかと思うけれど、この公演を見ていて不思議だったのは、木曜日とされていたパリスとの婚礼を一日早めて水曜日にすると父親に言われたジュリエットが全く動揺しなかったことだ。
ロレンス神父は、婚礼は木曜だと思って「仮死状態になる毒を飲んで世間の目をくらまし、パリスと結婚することなくロミオと一緒になる」作戦を授けたのだから、その決行が一日早くなったら様々な手配が間に合わなくなるのは十分予想できる筈だ。
なのに、何故かジュリエットは慌てない。
「仮死状態になる毒を飲むしかないのだわ」と達観している。そうではなく、ここは半狂乱になってロレンス神父の作戦が失敗に終わりそうなことを察し、大騒ぎして対策を立てるべきところだろう! と舞台上のジュリエットに心の中でツッコミを入れてしまった。
それとも、この辺りが「まだ13歳なんだもん、仕方ないよね」ということなんだろうか。よく判らなかった。
あと、こういう展開だったっけ? と思ったのは、最後の霊廟のシーンだ。
パリスが亡きジュリエットに花を捧げているところにロミオが現れる。パリスは追放されたロミオが現れたことで激高し、捕まえようとするが、ロミオに返り討ちにあって死んでしまう。
ジュリエットの亡骸を見たロミオは絶望し、用意してきた毒薬を飲んで死ぬ。
そこへ、一歩遅くロレンス神父が現れ、また、ジュリエットの両親や何故か山崎清介演じる大公までやってくる。ロレンス神父はジュリエットを仮死状態から目覚めさせようとするけれど、それは大公たちから「狂った」と思われ、連れ去られてしまう。
大公等も去って誰もいなくなった霊廟の中でジュリエットは目覚め、ロミオが死んでいることを知り、短剣で胸をついて死ぬ。
あまり自信はないのだけれど、ジュリエットが使った短剣が、ロミオのものではなく、自分と一緒に棺に納められていた短剣を使っていたように見えた。
ロミオとジュリエットの最後はこういう展開だったろうか?
霊廟の中、一度にあれだけの人が集まる展開はなかったような気がするし、ロレンス神父がジュリエットを必死で目覚めさせようとするシーンも見たことがない気がする。
ジュリエットに仮死状態になる薬を説明したとき、そろそろ目覚める筈の誰かがまだ目覚めない、というシーンをつけ加えていたから、そのシーンとのセットで「薬がちゃんと効果を出さなかったかも知れないと慌てるロレンス神父」の様子を加えたんだろうか。
私が知らないだけで、実はこの展開が原作に一番近いのかも知れないのだけれど、見ているときには何だか違和感があった。
今回のシェイクスピア人形の役は「時」で、ロミオとジュリエットが死んでしまったのは時の悪戯のせいだ、ということになっている。というよりも、そもそもの主原因であるところのロレンス神父が、自分の段取りの悪さを全部棚の上に上げて(ロレンス神父は、パリスとジュリエットの結婚も司る予定だったらしいから、婚礼が一日早まったことを知るのも意外と早かった筈である。それにしても、ジュリエットが慌ててロレンス神父に連絡をつけていれば良かったのにと思わなくもない)、「運命のせいだ」みたいに言うのも何だかなぁ、その、濡れ衣を着せられた「時」をシェイクスピア人形にさせるなんて! と思う。
つまり、あまり活躍していなかったのが残念だ。
残念といえば、最後には出演者一同が三角形になるように並び、手を振りながら舞台を一周して去って行く、という終わり方が好きなので、今回の舞台ではそういう風に終わっていなかったのが残念である。
我ながら、パターンを求めるタイプなんだなと思う。
それはそれとして、やっぱり子供のためのシェイクスピアは面白い。
確か、1年交替で、割りとメジャーな演目、割りとマイナーな演目を上演しているという話を聞いたことがある。そうすると来年はあまり有名でない作品の出番で、それも今から楽しみである。
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コメント
いっしー様、コメントありがとうございます。
錦織選手のネタはなかったのですね。
それは残念(笑)。
でも、イエローヘルメッツのステージはいつも愉快ですよね。
「ロミオとジュリエット」、やっぱり良く知っているストーリーとはちょっと違うかな? というところがありましたよね。
その他にも変えたところはたくさんあるでしょうに、気になるところと気にならないところがあるのは、思えば不思議なことです。
次回作を教えてくださってありがとうございます。
「オセロー」なんですね。
ずっと前に、山崎さんが有名な作品とあまり上演される機会のない作品を交互に上演するというお話をされていたと思うのですが、恐らくは、それではなかなか観客が集まらないということがあるのでしょうね。
などと、世知辛いことを考えてしまいました。
ここのところ体調を崩していて芝居も見に行けていないのですが、またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.08.21 22:29
こんにちは。大阪では一月遅れて、ロミオとジュリエットは上演され、見にいってきました。開演前の歌は健在ですが、時事ネタからはずれるのか、錦織選手のマネはありませんでした。あまりにも有名な作品なのでストーリーはわかっているのですが、姫林檎さんの言われるように最後の霊廟の場面とか、覚えちがいかな?と感じるところがありました。でも、子供のためのシリーズは、シンプルにわかりやすく気持ちよく芝居を楽しめるようで、気に入っています。次回作は「オセロー」を予定しているようです。
また、お邪魔いたします。ではまた。
投稿: いっしー | 2015.08.20 17:46