「天邪鬼」を見る
柿喰う客「天邪鬼」
作・演出 中屋敷法仁
出演 七味まゆ味/玉置玲央/永島敬三
大村わたる/葉丸あすか/中屋敷法仁
観劇日 2015年9月19日(土曜日)午後2時開演
劇場 本多劇場 L列3番
料金 4800円
上演時間 1時間35分
ロビーはピンクの布やリボンで飾られ、グッズ販売も盛況だった。
色々あり過ぎて、グッズのチェックをしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
初めて見た柿喰う客の本公演は、劇団員総出演(女優が一人、妊娠のため降板している)の劇団公演である。これまで「女体シェイクスピア」シリーズしか見ていなかったので、僅か6人の出演者、男優の存在感、主宰の中屋敷法仁の出演が不思議な感じがする。
舞台の雰囲気が女体シェイクスピアシリーズと余り変わらないように思ったので、それ以外の部分の違いがより印象に残ったのかも知れない。
真っ黒で、真ん中に低い舞台が作られ、両脇のピンク色の幅広の布で他の部分とは区別される。
その布はそのまま背景にまで続き、奥には一段高い場所が作られている。紙芝居の枠があって、床に段差があるという感じだろうか。
その舞台の脇から、客席も明るいまま、玉置玲央が登場する。
「天邪鬼」として自己紹介し、中屋敷法仁が出てきて携帯電話の電源を切るように話した後、別に携帯電話を鳴らしても構いません、そうしたら舞台を継続するかどうか協議するだけですから、と宣う。
あの低い、いっそ地獄から響いてくるような声で言われると、何となく粛然とする。
そして、開演である。
制服っぽい格好に黒いマントをつけた役者が登場する。
実はあまり説明されないのだけれど、彼らは5歳という設定だ。そして、ここは戦場で、ジャングルで、彼らは「イマジネーション」「想像力」を武器に戦っている(戦わされている)らしい。
彼らは「柿組」で、玉置玲央演じる「あまのくん」を隊長に、「桃太郎」を演じることでこの戦争を戦い、生き残ってきたようだ。
しかし、ついに彼らの本部と連絡がつかなくなり、味方が全滅したとの噂も流れ、これからどうすればいいのか、5歳児にはとても見えない彼らだけれど判断がつかない。
そんな中、「桃太郎」ではなく「赤ずきん」を演じ始めた隊長のあまのくんがそのまま姿を消してしまう。
あまのくんの、強力なイマジネーションに支えられてきた柿組は、彼がいなければ全滅も必至だ。そこで、彼らは彼ら自身を演じることで、あまのくんを呼び戻そうとする。
ここまでの背景が何となく判るまでに、結構、時間がかかる。
そして、「正解」は語られない。何となく察せられるだけで、実際のところ、そこがどういう世界なのかは最後まで判らないままだ。
「あまのくん」のフルネームは「あまのじゅんや」で、常に「あまのじゅにゃくん」と呼ばれ、自称される。
つまりは「あまのじゃく」だ。
それは、他の登場人物も同様で、永島敬三演じるしょうじきよし、七味まゆ味演じるひよりみずき、葉丸あすかえんじるおませなこ、大村わたる演じるしりたいぞう、中屋敷法仁演じるななひかると、言葉遊びと自己紹介を兼ねた役名になっており、それは何度も何度も繰り返される。
それでも、最初のうちは「しりた いぞう」が「しにた いぞう」に聞こえて、ん? と思ったりしていた。
黒っぽい衣裳、時々挟まる弛緩した時間、役の早替わりに、身体性、よく一列に並んでポーズを取るところ、自己紹介を始めとする繰り返されるパーツなど、特徴みたいなものは女体シェイクスピアシリーズと共通しているように見える。
そして、イマジネーションを強め溢れさせてそれを戦争に使うということ、児童虐待、内部被曝、粛正などの刺激的な単語やシチュエーションが随所に登場する。
それは、アフタートークによると「ことだま」「確からしさ」「どこまで観客に信じて貰えるか」という実験でもあったらしい。
一方で、「演じる」ということ、イマジネーションを鍛えるために演劇というシステムが利用されたという設定は、コミュニケーション教育として演劇が広がりつつあるからこその設定のようにも思うし、そのことへの疑問ということもあるのかも知れないと思う。
彼らが上演しなりきるのが「桃太郎」の世界だというのも暗示的だ。
おませなこがしきりと演じたいと言い張る「シンデレラ」には、王子様とお姫様、結婚というストーリーがあるが、桃太郎にはない。そこにあるのは、鬼退治とか正義感とか、おじいさんとおばあさんの親としての情愛だ。おじいさんとおばあさんは夫婦だけど、「桃太郎」の物語には「男女」はいない。
そして、演じる物語に「桃太郎」を選んだことが、あまのじゅんやくんを隊長に選んだことと同じくらい、柿組が生き残るためには必要だったんだということになると思う。
そういう風には特に言及されていないけれど、桃太郎ほど、物語の骨格がしっかりとしていて、違う解釈が生まれる余地の少ない昔話はないということなんじゃないだろうか。
それが、中屋敷法仁の思い描く「桃太郎」なんだろう、その強さこそが桃太郎の桃太郎である所以であるという宣言なんだろうと思う。
今回の公演では、劇団員のお一方が降板し、代役を立てていない。
だとすると、もしかして、柿組が演じる物語は「桃太郎」ではなかったんだろうか。しかし、それでは、柿組が生き残り続けていることの理由がつかないように思う。
では、出演者が7人だったときの構想では、「桃太郎」の中で鬼を演じる子がいたということなんだろうか。
「桃太郎」で鬼を演じる子が柿組の中にいるかいないか、結構、物語の成り行きを左右する要素なのではないかと思う。
この芝居は、「桃太郎」が「桃太郎」であるから成立しているのだ。
これが中屋敷法仁の桃太郎だ。
終戦後、最初に浮かんだ感想がこれだった。
| 固定リンク
「*芝居」カテゴリの記事
- 「主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本」の抽選予約に申し込む(2024.09.08)
- 「バサラオ」を見る(2024.09.01)
- 「破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~」を見る(2024.08.25)
- 朝日のような夕日をつれて2024」を見る(2024.08.18)
- 「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」を見る(2024.08.12)
「*感想」カテゴリの記事
- 「バサラオ」を見る(2024.09.01)
- 「破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~」を見る(2024.08.25)
- 朝日のような夕日をつれて2024」を見る(2024.08.18)
- 「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」を見る(2024.08.12)
- 「正三角形」を見る(2024.08.11)
コメント
アンソニー様、コメントありがとうございます。
アンソニーさんも「天邪鬼」をご覧になったのですね。
そして、中屋敷さんお一人でアフタートークということもあるんですね。私が見た回では、必ず二人以上の方が登場して掛け合いをされていたので、そういうものだと思っていました。
ちなみに、私の見た回では、降板された女優さんのお話は全く出ていなかったです。
アフタートークの内容によって、芝居の印象ももしかしたらかなり変わるのかも知れないですね。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.10.01 22:49
姫林檎様、こんばんは。
少しまえになりますが私も観ました。
前回の本公演の世迷言が気に入ったので
女体も2作観てます。
柿お馴染みのアフタートーク、私の回は中屋敷さんお一人だったのですが、やたらと1人欠けたメンバーについての質問が多かったです(笑)
練習時点では誰がどの役と決めずにセリフを練習していたので降板が決まった後でも特に設定を変更したり削ったりしたところはないんだそうです。
毎回アフタートークを終えて全体が締まるという印象があるのであれも含めて作品なんだと私も思います。
投稿: アンソニー | 2015.10.01 00:11
みき様、コメントありがとうございます。
みきさんは、柿喰う客は初観劇だったのですね。
私も見たことがあるのは「女体シェイクスピア」シリーズだけだったので、ほぼ初観劇のようなものだったと言えると思います。
アフタートークに千葉雅子さんが登場されたんですね。
私が見たときは、中屋敷さんと、2011年に加入した若手3人というメンバーでした。
会場から出た質問に対する答えがなかなか興味深かったです。「どんな言葉を大切にしていますか」とか、「戯曲を書き始めたのはいつですか」とか。
柿喰う客のお芝居は、もしかすると、毎回行っているというアフタートークも含めて「作品」なのかも知れません。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.09.23 11:04
こんにちは。22日に見に行きました。初柿でしたが・・・私にはついていけませんでした。2人が入れ替わりながら1人がセリフを言う所は、面白い演出だな~と思ったのと、玉置玲央の足の筋肉が印象に残っています(笑)。隣の人は思い切りイビキかいて爆睡してました。アフタートークでは千葉雅子さんがゲストでした。昨日の公演ではシャッフルで演じたとのこと。どんだけ負荷かけるんだと感心してしまいます。自分では全く意識していなかったのですが、特典付きチケットだったようで、上演台本と写真入りチケットもらいました。暇な時、復習してみます。
投稿: みき | 2015.09.23 10:23