「虹とマーブル」を見る
M&Oplaysプロデュース「虹とマーブル」
作・演出 倉持裕
出演 小出恵介/黒島結菜/木村了/小林高鹿
ぼくもとさきこ/玉置孝匡/小松和重/ともさかりえ
観劇日 2015年9月5日(土曜日)午後1時開演
劇場 世田谷パブリックシアター A列22番
料金 7500円
上演時間 2時間30分(15分、10分の休憩あり)
ロビーではパンフレットや上演題本が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
私にとって、8月1日以来の舞台だった。こんなに長い間劇場に足を運ばなかったのは10年ぶりとかそれくらいかも知れない。
やっぱり舞台はいいと再確認した。
2時間半の芝居で休憩が2回も入るなんて、観ている側の集中力が疑われているのか、それとも動きの激しすぎる舞台なのかと思っていたところ、恐らくは、セットの転換のための休憩だったと思われる。
どうしても三幕が必要だと思ったんだろう。
一幕目は、倉庫で故買品販売をしていた奴らが不動産会社ひいては芸能プロダクションを始めるまでで、セットはその倉庫である。
二幕目は、黒島結菜演じる蘭が女優になってプロダクション社長となった小出恵介演じる紋次と結婚するまでで、セットは、蘭が出演する筈だったドラマのセットだ。
三幕目のセットは、大理石の階段のついた紋次の邸宅の中だ。
タイトルの「マーブル」は、多分、この大理石の階段から付けられていて、虹は、倉庫の場面で、ともさかりえ演じる冬香が見、玉置孝匡演じる木村が涙し、蘭に額縁を保たせてプリズムで紋次が虹を見せる、そのシーンから取られている。
もの凄く乱暴に言ってしまうと、「虹」は夢の象徴で、「マーブル」はその夢のなれの果ての象徴だ。
それにしても、小出恵介は口八丁手八丁で胡散臭すぎる男を演じさせると本当に似合う。
その弟の静馬を演じていた木村了が何となく勝地涼に似ていると思うのは私だけなんだろうか。実は、舞台がかなり進むまで完全に混同していた。申し訳ない限りである。野暮ったくて頭が良くて真面目で兄思い、という役柄がぴったりハマっていたと思う。
紋次が、場所代を取りに来た小松和重演じるヤクザの陰山をだまくらかし(ビジネスのビジョンを語った、と言って言えなくもない)、東京オリンピック景気に湧く東京で不動産業を始め、その過程で政治家へのパイプを作ろうとともさかりえ演じるクラブのママ冬香に仲立ちを頼む。
「大理石の階段」は、そのクラブの入口にあったらしい。
この強烈な「クラブのママ」をともさかりえがもの凄く楽しそうに演じていたのが良い感じだった。
この成功を契機に、小林高鹿演じる山下や、ぼくもとさきこ演じる夏枝とともに、紋次が次に始めたのが芸能プロダクションだった。
「物欲の次は心の余裕」なんだそうだ。まさに、昭和史である。
プロダクションの女優第一号としてだまくらかしたのが山下の姪(だったと思う)である蘭で、女優になるという契約書に印を押させられた蘭は騙したことに文句をつけるけれど、「元々持っていたものを取り戻させてやる」と宣った紋次がまず最初に見せたのが「虹」という訳だ。
二幕になり、芸能プロダクション業は成功したようで、蘭も女優として成功しつつあるらしい。
「東京オリンピック」なんて言葉が出ていたし、蘭が出演する予定だったドラマがハイジャック事件の影響で撮影中止になるなど、何だかこの辺りから話の中身がキナ臭くなってくるというか、現実とオーバーラップさせられ始める。
私にとっては、ちょっと意外な展開だ。
今ひとつ判らなかったのが、紋次が陰山に命じて、プロレスラーに怪我させる場面というかその意図するところだ。
そのプロレス興行を紋次が買い取っていたことや、社長が紋次と裏社会との繋がりを嫌がっていること、冬香がその興行をさらに売らせようとしていたことは何となく判るけれど、それでどうして紋次が陰山に暴行事件を起こさせたのかが判らない。
弁護士になっていた静馬が止めようとしたのに、陰山はその忠告を振り切って事件を起こしていたから、やらせというか納得ずくでやらせた筈なのだけれど、その目的がどうしてもよく判らなかった。
ただ、そのとき妊娠していた蘭が、紋次が陰山にさせたことを察しただろうことだけは判る。
そして、舞台は「大理石の階段」を持つ紋次の邸宅に移る。しかし、そこに蘭の姿はない。
冬香や静馬のボスである代議士がやってきて、どう聞いてもロッキード事件のその「始まり」を見せ始める。彼らは紋次に「賄賂の運び屋」をやらせるためにやってきて、だいぶ落ち目になっていたらしい紋次は怒りを見せつつもその役割を引き受ける。
ここでも静馬は反対するけれど、「断れないようになっていたんだろう」と紋次は言う。
ついでに、蘭を巡って兄弟が争うのはこの場面だけだ。
もちろん、ロッキード事件は表沙汰になり、金銭の授受を直接担当した紋次は証人喚問に呼ばれているが、「体調不良」と言い訳をして逃げ回っているようだ。
事件の鍵を握る彼の家には警備が置かれ、窓一つ開けられないという状況らしい。
刑期を終えた陰山と静馬に冬香が声をかけ、久しぶりにかつての仲間が集まる。酒盛りを始めた男3人に対して、冬香が連れて来たのは蘭である。どうやら、紋次とは離婚し、再婚して米国で暮らしているらしい。この再会のシーンだけが、二人が素直に相手を思う気持ちを言葉にしていた、というのが切ない限りだ。
別居していた蘭が生活費に困り、紋次の名前を使って山形のホテルに籠もっていたことがあったらしい。
そして、その山形のホテルに籠もっていた期間が、そのまま、紋次が金銭の授受に駆け回っていた時期と重なるようだ。
冬香曰く「突き止めるのは大変だったんだから」「連絡して来てもらったのよ」ということで、このセリフを「悠然と」言いたくなる気持ちはよく判る。どうしてそこまで冬香ががんばったのかも謎で、金銭の授受の仕事を紋次に回した一端を彼女が担っていたから、その罪滅ぼしということなんだろうか。
「そこで使ったお金を返そうと思っただけ」とまたもや頑なな昔に戻ったような蘭も、やはり、そういう気持ちなんだろうか。
そこにいたメンバー全員から説得され、「アリバイ」を手に入れた紋次は、清々した顔で窓から顔を出して深呼吸する。
「アリバイ成立」を祝って、冬香が用意したクラッカーを全員で鳴らした瞬間、紋次は撃たれてしまう。
撃たれたことを隠し、マリリン・モンローの「四六時中お金の心配をしていたら、相手を愛する暇がないじゃない」と蘭が映画で見たとその昔、生き生きと語っていた台詞をもう一度語らせ、蘭から受け取った札束を放り投げて、大理石の階段に倒れ込む。
陰山が開いた窓から飛び出して行って(これがまた格好良かった)、幕である。
終演後、中学生か高校生らしい女の子がお母さんと思しき女性に「死なないで欲しかった」と何度も訴えているのが聞こえて来たけれど、いや、この芝居では紋次は死ぬしかなかったでしょう、と思う。
死なせるしかない紋次をどうやって死なせるか、というのが、この芝居のポイントだったと言えるくらいではないかと感じる。
結局のところ、紋次はずっと蘭に対して、このマリリン・モンローの台詞どおりに接していたというか、この台詞を言わせないことが愛情表現だと思い込んでいたんじゃないかという気がする。
「虹とマーブル」は、紋次の人生を色々な意味で変えた女性を象徴しているとも言えるのかも知れない。もちろん、虹が蘭で、大理石が冬香である。
しかし、それはそれとして、どうして今ロッキード事件だったのか。何故、今、ロッキード事件を扱おうと思ったのか。それも、正面からというよりは絡め手からの使い方だ。
そこの疑問が何よりも大きく残った舞台だった。
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コメント
ういんた様、お久しぶりです&コメントありがとうございます。
やっぱり、木村了さんと勝地涼さん、似ていらっしゃいますよね。賛意を示して下さる方がいらして安心しました(笑)。
でも、私はまだちゃんとお二方を認識できていないようです・・・。
私も今回は久々(1ヶ月ぶり)の観劇でした。
ういんた様も、お好きなお芝居をご覧になることができますように!
投稿: 姫林檎 | 2015.09.06 22:25
姫林檎さま、こんばんは。
いつも楽しく拝読させていただいてます。
木村了さんと、勝地涼さん、似てますよね!私も何年か前に見た「ボクの四谷怪談」で、出てるのがずっと木村了さんだと芝居を観終わるまで勘違いしてました。最近やっと、勝地さんがTVの露出が増えたので、はっきりと区別できるようになりましたが。
最近は観劇に行けてないので、姫林檎さまの感想を楽しみにしています。
投稿: ういんた | 2015.09.06 21:24