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「黒いハンカチーフ」
脚本 マキノノゾミ
演出 河原雅彦
出演 矢崎広/いしのようこ/浅利陽介/橋本淳
松田凌/桑野晃輔/村岡希美/宮菜穂子
まりゑ/武藤晃子/加藤未和/吉田メタル
鳥肌実/神農直隆/高木稟/三上市朗
おかやまはじめ/伊藤正之
観劇日 2015年10月3日(土曜日)午後7時開演
劇場 東新国立劇場中劇場 14列38番
料金 7800円
上演時間 2時間30分(15分の休憩あり)
ロビーではパンフレットが販売されていた。その他の物販についてはチェックしそびれた。
客席でマキノノゾミ夫妻の姿を見かけた。
ネタバレありの感想は以下に。
昼間に見た「語る室」が、多視点だったためにそれを俯瞰できるのは我々客席にいる人間だけだったとすると、「黒いハンカチーフ」はもう直球ど真ん中のストレートで、時系列順に話は進み、登場人物たちの心情はこちらには判らず、客席は「騙される側」と同じ立ち位置にいる。
ただ、全てが終わった後で、舞台上の詐欺師達が「してやったり」と叫んだり「やられた!」と叫んだりするのを見て、初めて、悪党がどう騙されたかが判るという仕組みだ。
もう、乗っかったもの勝ちだし、どうぞ気持ち良く騙してくださいと見入るしかないし、それが楽しい。
何しろ、詐欺師達の物語なのだ。
時は昭和30年代初め、「戦後は終わった」と言われ、ついでに政財界の汚職も華やかなりし頃、売春防止法施行直前という設定である。
その施行に絡んだ汚職事件で、組の事務所から「怪しげなメモ」を発掘した下っ端の男・宮下が大物政治家を強請ろうとして取引に向かわせた夢子という娼婦が車に轢かれて殺されてしまう。
夢子の娼婦仲間の女性たちや宮下、彼らがたむろするカフェのママに迫られて、この街で医者をやっていた日根は、彼らの仇討ちに加勢することになる。
「黒いハンカチーフを拾った。落とし主の連絡を乞う」という三行広告が、希代の詐欺師であった日根の父親が仲間を集めるときの合図だったらしい。
その三行広告に目を留めたのは詐欺師仲間だけでなく、この詐欺師たちを追っていた銭田警部補もで、彼は連絡先となった喫茶ノアールを見張り始める。
まずは軍資金を稼ごうと、宮下の親分を見事にハメて、500万ばかりを手に入れる。
詐欺師という稼業を嫌っていた筈の日根が堂々と詐欺を働くところが謎だけれど、ここは「東京地検」を名乗って乗り込んできた男たちが実は詐欺師仲間だった、という仕掛けに驚くところだ。
さらに、大騒ぎで喜んでいた彼らのところに銭田が乗り込んできて、「お前らのやったことは判っている。」と脅しをかけに来る。だからもう詐欺は止めろということだ。
そして、日根の父親が何故自首をしたのか、その理由を教えてくれと言う。
この銭田が乗り込んできたときの、詐欺師たちとの会話や、夢子を殺した政治家には手を出すなと言われて全てをしゃべってしまう宮下と女たちの言動が、後々への伏線になっているところが凄い。
ついでに言うと、喫茶ノアールの周りでホルンを吹いている戦傷を受けたらしい復員軍人の存在も、後になって効いてくる。この辺りまでは、彼の存在意義は、ホルンで吹かれる哀愁ただようメロディにあるんだと思い込まされてしまっているのだ。
後半は、銭田警部補に詐欺の計画を完全に見抜かれてしまい、「これでは計画の練り直しだ」というところから始まるけれど、その「練り直した計画」は観客には示されない。
いきなり彼らが詐欺にかけようという大本命の代議士のところに出向き、5000万円の絵を売って1億円で買い戻すという贈収賄を装い、そこで使われる小切手を全て詐取しようという場面から始まる。
「世紀の詐欺」というほどの規模なのかなぁという疑問が頭を掠めたけれど、与党の大物代議士が相手で、昭和30年代の1億円だから、やっぱり「世紀の詐欺」ってことになるんだろう。
ここまで来ると、元々の「復讐してやる!」という動機や、それを言い出した女たちの姿は出てこない。
夢子を実際に轢いたのが代議士秘書であることもしゃべらせ、5000万円の小切手詐欺が成功しようという寸前、「そろそろいいでしょう」というセリフとともに、銭田警部補が隣の部屋から現れる。
直前に代議士のところに来ていた息子に「ベッドルームにいるのは誰です?」と言わせておく、その匂わせ方が上手い。そうして、詐欺師仲間の一人が銭田警部補に半ば脅され、半ばは詐欺師稼業を嫌っていた日根への繁閑から仲間を裏切ったことも明かされる。
代議士から全ての罪を押しつけられそうになった秘書はもう崩壊寸前ではあるけれど、しかし、何かの記念パーティとやらに出かけて行く。
残された銭田警部補は、詐欺師らを逮捕するのかと思いきや、実は昨日付で退官しており、日根たちの仲間になってここまでの一連の出来事が全て最初から仕組まれた「詐欺」であることが明かされる。
もちろん、ここで使われた小切手は全て「本物」を摺り取ってある。
シャンパンで乾杯しようとしたところに、ホテルのボーイがやってきて「銃声が聞こえたというお客様からの連絡がありまして」と言って慌てさせるのはご愛敬だ。
銭田警部補がなぜ詐欺師仲間になったのかというところが説明されず(少なくとも私は気がつくことができなかった)、しかし詐欺師仲間の一人が裏切るかも知れない事情があったことは事前に提示されているので、ちょっとスッキリしないところは残る。
折角の「大どんでん返し」が勿体ないなぁという気もする。
そして、売春防止法の施行を前にして勤めていた店が閉店してしまった女たちは、喫茶ノアールのママの親戚が営む旅館で仲居として働くことになったと、電車で名古屋に向かう。
ホルンを吹いていた復員兵は、実は、記憶を失ったママの弟だったということもここで明かされる。
名残を惜しんでいるところで、日根が「人の良さ」を発揮して、彼女らに更なる餞別を贈る。嬉しさにしゃっくりが止まらなくなるママを見て、弟が記憶を取り戻し、大騒ぎの中、彼女たちは出発して行く。そこに夢子そっくりの女が紛れ込んでいて、もう一押し、何か起こればいいのにと期待したけど残念ながらそれだけだ。
そうして、彼女たちが出発し、日根の診療所で働く看護婦の素性も明かされたところで、銭田が「あ!」と大声を出す。ママの弟が、関西から来た女詐欺師と組んで大仕事をしていた男だと突然思い出したのだ。
当然、そうなればママは「女詐欺師」ということになる。
慌ててポケットを探った日根は、預金通帳がすり替えられて自分たちの手元には1000万円しか残されていないことが判り、また、ママに抱きつかれたもう一人の詐欺師のポケットには「楽しかったわ、坊やたち」という彼女の手紙が残されている。
完敗だ。
おぉ、ここでさらにどんでん返しが待っていましたか! と思う。
どんでん返しの連続って楽しい。
もっともっと騙して欲しいという欲が出てくる。
そして、多少は落ち込みつつも彼らが「1000万円あれば次の軍資金には十分!」と前向きなのも何となく嬉しい。日根は詐欺師稼業を嫌っていたんじゃないのかとか、そこからして既に「詐欺」だったのかも知れないとか、色々と考えてしまう。
河原雅彦の演出は新国立劇場中劇場の広くて様々に使える舞台を駆使して、回り舞台を使ったり、奥行きを使ったりして、場面転換をテンポ良く進める。
登場人物も多いけれど、それぞれが個性的でこちらが混乱することもない。こういう「騙される」お芝居は、そこはかなり重要だと思う。
それと同時に、このお芝居はもっと空間を小さく、劇団という密な集団によって上演される方がやっぱり似合うし、凝縮されてより楽しさが増すんじゃないかという気もする。
騙されるまいとしてガっと集中して見て、でもあっさりと騙される、楽しい舞台だった。
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コメント
アンソニー様、コメントありがとうございます。
アンソニーさんも楽しく騙され、気に入ってくださって私も嬉しいです。
ホント、気持ち良く騙してくれる舞台でしたよね。
銭田警部補の気持ち、アンソニーさんはお分かりになったんですね。私はやっぱり今ひとつ釈然としないなぁ、説明してよねぇ、と思っております(笑)。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.10.04 22:22
姫林檎様、こんばんは。
楽しく騙されましたねー。でも観たあと爽快でした。私のときは演出の河原さんが後ろの列にいらっしゃいました。
そういえば警部が仲間になっていたのは突然でしたね。理由はなんかわかる気はしますが。
行けてよかったです、ありがとうございました!
投稿: アンソニー | 2015.10.04 20:14