「ワンピース」を見る
スーパー歌舞伎II「ワンピース」
原作 尾田栄一郎
脚本・演出 横内謙介
演出 市川猿之助
出演 市川猿之助/市川右近/坂東巳之助/中村隼人
市川春猿/市川弘太郎/市川寿猿/市川笑三郎
市川猿弥/市川笑也/市川男女蔵/市川門之助
福士誠治/嘉島典俊/浅野和之 ほか
観劇日 2015年10月17日(土曜日)午前11時開演
劇場 新橋演舞場 13列15番
料金 16500円
上演時間 4時間25分(30分、25分の休憩あり)
もちろん「ワンピース」グッズを始めとして、たくさんのお土産物が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
原作のファンなんだろう若者と、歌舞伎好きの年配の方々とが混在する不思議な客席だった。
終演後、バスが何台か横付けされていたから、何本も観劇ツアーが催行されていたのだろう。**高校の同窓会なんていう看板も立っていたし、ある意味、「鉄板」ということなのだと思う。
実際のところ、スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」は楽しい。
私は、原作漫画を読んだことはないし、アニメも見たことがない。「ワンピース」はかなり作り込まれた世界観を舞台としているし、登場人物も多い。流石に耳慣れない登場人物達の名前は聞き取れなかったけれど、ビジュアルがもの凄く特徴的なので、名前が判らなくても混乱するようなことはない。
ビジュアルといえば、見始めた頃「新感線っぽいなぁ」と思ったのだけれど、それは衣裳の担当が竹田団吾だったからだと思う。着物あり、ドレスあり、革コートあり、何でもありだ。
何かのインタビューで、市川猿之助がこの舞台では歌舞伎の台詞回しは使わずに普通のしゃべり言葉で演じると言っていた。
確かに、見栄を切るときのような「決めぜりふ」は別にして、今の普通のしゃべり言葉で戯曲は書かれていたと思う。それでもやはり歌舞伎っぽいと思うのは、リズムが歌舞伎だからなんじゃないかと思う。
同じインタビューで、市川猿之助が「それなら、歌舞伎っぽくしゃべればそれは歌舞伎なのか。古典ではない演目をやろうというときの方が、歌舞伎とは何かということを深く考えることになる」という趣旨のことを言っていた。
単純な私は、ビジュアルとしては隈取りかなぁという気はする。
隈取りをすれば歌舞伎になる訳ではないと思うけれど、隈取りをしている人が舞台上にいれば、雰囲気は歌舞伎っぽくなるというものだ。
もっとも、そこで私が隈取りをして立っていたところで意味はない。
そんなことをつらつら考えつつ1幕を見ていたのは、1幕のテンポが特にゆっくりだったからだ。
私のような「ワンピース」について全く何も知らない観客に向けてのレクチャーもところどころで「解説しよう」と始まる。
「ワンピース」の漫画は70巻以上もあって、そのうちでもかなり後の方に出てくるエピソードを舞台化しているようなので、漫画の読者には「当然に判っている」前提や物の名前や登場人物や「世界の仕組み」に馴染んで貰わなければ始まらない、ということだったと思う。
もう、どうやったって「自然に」伝えることはできないのだから、いっそ堂々と正面から解説してしまおうじゃないか、元々の世界観を知っている若者には「笑い」を提供し、「ワンピース」の漫画を知らない年配者には「知識」を提供する。
そういう開き直りはいっそ清々しいくらいで、でもやっぱり多少は冗長さを感じてしまう。
スーパー歌舞伎Ⅱの第1作の脚本を書いた前田知大が、何かで「とにかく判りやすく!」と言われたと述懐していたことも思い出した。
全てを判りやすく提供し、しかし客の興味を引きつけ続けるというのは難事業に違いない。
ストーリーはここで書くまでもないと思うのだけれど、ルフィ率いる海賊一味は、どこかで大きな熊にそれぞれ投げ飛ばされてバラバラになってしまう。だから、ルフィ一味の登場は本当に最初の最初の部分だけだ。
ルフィは、女性だけの島に飛ばされ、「男子禁制の島」で危うく殺されそうになるけれど、その仲間思いの心と前向きさ、度量の大きさで女王であるハンコックには惚れられ、島の女たちにも歓迎されるようになる。
しかし、幼い頃に一緒に山賊に預けられていた兄貴分のエースが海軍に捕まって公開処刑されると聞き、彼女らの協力を得てエースが捕らえられている監獄島に忍び込み、エースを救い出そうとする。
あと一歩のところでエースは処刑が行われる海軍本部に移送されてしまい、しかし監獄島で知り合った悪党たちに見送られ強力を得て、ルフィは海軍本部に乗り込む。
そこには、エースを救おうとする海賊の白髭一味らも集結しており、海軍との”頂上決戦”が始まる。
そういうストーリーだ。
ルフィはどこまでも前向き、男気のあるキャラクターだ。
それが、市川猿之助の満面の笑みとえらく重なる。
福士誠治演じるエースの屈折ぶりと好対照だ。
この世界観、このどこまでも明るく前向きなキャラクター、あり得ないだろうと思うのだけれど、市川猿之助が目をキラキラさせて満面の笑みを浮かべているのを見ると、何だか納得させられてしまう。きっと本性はそういうキャラクターではないと思うのだけれど、それなのにやけに似合っているように見えてくるから不思議だ。
1幕で「土台」を作ってもらったので、2幕以降はもう前のめりで楽しむのみ! という感じだ。
目の前に広がる「ワンピース」の世界、前向きで眩しすぎるくらい(実際、照明も映像も多用されている)の舞台に食らいつき、楽しむ。
外連味たっぷり、サービス精神たっぷりで、舞台一面が滝になって水が流れ出し、その水の中で立ち回りが始まったときには、ただそれだけのことなのに涙が出てきたくらいだ。
どうして涙が出てきたのか、自分でもよく判らない。そのシーンで、特に感動的な、あるいはあざとい台詞が語られた訳ではない。
でも、自分でも不思議なことに、涙がにじんで来てしまった。
2幕の最後の宙乗りもまた、もう圧巻極まりなかった。
役者達は客席に降りて来てノリノリで手拍子を求め、舞台を飛び立って3階席まで宙乗りして行った市川猿之助も客席を盛り上げる。もちろん、満面の笑みだ。
何故か客席には鯨まで登場してくる。
周り中が手拍子の嵐になっている中、思わずぽかんと見上げ、「すげえや」と呟いてしまった。
同時に、2幕の最後でこんなに盛り上げちゃって、3幕はどうするんだよ、と思っていたのも事実だ。
その3幕は、言ってしまえば「感動編」だ。
エースを一旦は救い出したものの、その海賊の親分である白髭も、そしてエース自身も、その戦いの中で死んでしまう。
でも、白髭は「親子」や「家族」の愛を語り、訴え、エースもその気持ちを受け止めて「自分は生まれてきて良かったのか」という問いに答えを得て息を引き取る。
もうどこまでも前向きに、どこまでもあざとく、物語は引っ張られる。
そして、もちろん、殺陣も存分に堪能させてくれる。
ラストシーンは、ルフィ一味の、2年後の姿だ。
ルフィは2年間の修行を送って「もっと強くなる」ことを決心し、仲間たちに2年後の集合を呼びかける。
恐らくはその2年後の姿であり、現在の姿でもある海賊船が現れて、幕だ。
市川猿之助は、3役を演じ、特にルフィとハンコックは絡みも多いので早替わりの連続だ。舞台裏は一体全体どうなっていたんだろうと思う。
そのことをうっかり忘れてしまうほど、物語の力も、ケレンの力も強い舞台だ。
「歌舞伎とは何か」「何があれば歌舞伎なのか」という問いの答えは出ないけれど、見ているときに私の頭に浮かんだのは「手法」という言葉だった。
ルフィの腕が伸びるシーンをどう見せるか。これもインタビューで市川猿之助が「色々なアイデアが出ているんですよ」と語っているのを聞いて楽しみにしていたところ、黒衣の方々が横に並んで腕だけを見せて繋げて長く伸びているように見せていた。
そういう、「歌舞伎の手法」、「蓄積された知恵」のようなものが歌舞伎なんじゃないかという風にも思える。
そんなことはともかくとして、スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」は、とにかく楽しくてわくわくして豪華絢爛で前のめりになれる舞台だった。
見て良かった!
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コメント
アンソニー様、コメントありがとうございます。
そうですよね!
私も、宙乗りの場面などぽかんと上を見上げて「すごっ」と何度も口に出してしまいました。
本当に楽しかったです。
水しぶきは、「飛んでいた」というよりも「飛ばしていた」感じでしたが(笑)、私の席まではさすがに飛んで来ませんでした。よかったよかった。
紙吹雪はもの凄く浴びましたけれども。
「歌舞伎は見たことがない」という人にも、「前に見たことがあるけどもういいやと思った」という人にも、見てもらいたいなぁと思います。
何しろ、歌舞伎なんてほっとんど何も判らない私にもこんなに楽しい舞台だったんですから!
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.10.25 14:47
姫林檎様、こんばんは。
いやいや、楽しい舞台でしたねぇ。
凄っ。と何回も口に出してしまいました。
とっても楽しかったです。
衣装が豪華で秀逸で双眼鏡で隅々まで見ちゃいました。あと時々聞こえる尺八の音色が綺麗だなぁと思っていたら私の大好きな方でした。納得。
ストーリー知ってるし。なんて生意気に思ってたので上演時間以外なにも見てなくて。
猿之助さんがハンコックもやってたことには全く気づいてませんでした(;´д`)
なんだか随分大きな扱いのラストだし、途中も随分な拍手だったから後から誰がやってるか確認しなきゃーとか思ってましたよ。
なのでそこに注目してもう一回みたいです(笑)
楽しかったし、いろいろな知恵や技術が詰まってたので周りの人に勧めてます。
そういえば、1階席は随分な所まで水しぶき飛んでましたが大丈夫でしたか?
投稿: アンソニー | 2015.10.24 22:40