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「ベイビーさん ~あるいは笑う曲馬団について」
作 中島らも
演出 G2
出演 池田純矢/鈴木勝吾/井澤勇貴/入来茉里
久保酎吉/植本潤/木下政治/林希
坂元健児/小須田康人/松尾貴史
観劇日 2015年11月14日(土曜日)午後1時開演
劇場 Zeppブルーシアター六本木 13列31番
料金 8500円
上演時間 1時間40分
ロビーでは、パンフレットやリピーターチケット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
客席に入ると、後方の空席が目立つ。目立つというよりは、15列目から後ろは空席である。
ちょっと勿体ない気がする。
ロビーにはお花が多く届いていて、プレゼント受付の箱も用意され、(申し訳ないことながら私はほとんど知らなかったけれど)少尉やみなしごを演じた若手の役者さんのファンも多く来ていたのではないかと思う。
古手の観客の私としては、久々に舞台で拝見する小須田康人や、抜群の安定感を誇る植本潤に木下政治、G2の舞台で拝見することの意外と多い久保酎吉の面子が目当てである。
舞台上にはサーカスのセットが組まれており、そこで松尾貴史演じるピエロが一升瓶を抱えて一人酒をしている。
恐らくは幻の観客に向かって、何やら語り続ける。台本があったのか、アドリブが多かったのか、正直言ってよく判らない。見ているときは「一億総活躍」や「坂本龍一」などについて語っている様子を見て、舞台のストーリーに関わるところは台本があるにしても、「語りで笑いを取る」部分は全部アドリブなんじゃないかと思っていた。
そして、上演時間1時間半の舞台で、一体この一人語りはいつまで続くんだろうと思っていると、さらりと「この話を聞いてくれたのは、中島の他にはあんちゃんが二人目だ」と語ったりして、何だかじんと来た。
そうして、ピエロが語り始める最初のシーンは昭和6年、小須田康人演じる八代中尉と、久保酎吉演じる堂山大尉とが塹壕に隠れて敵襲を逃れようとしていたところ、爆弾(なのか?)が飛び込んできて、堂山大尉はその直撃を受けてしまう。
そして、10年後、満州に慰問に来ているサーカスが物語の舞台である。若かりし頃のピエロやその仲間達は、大佐となった八代の部下たちの検閲を受け、「サーカスではなく曲技団だ」「不穏当な演し物があったら即刻中止だ」等々と言われつつ、それを笑い飛ばす気概の持ち主たちのようだ。
そこに「両親が落盤事故で死んだ」という少年が紛れ込んできて、「1週間で一輪車に乗れるようになったらここに置いてやる」と言われる。
彼は馬が好きでだから馬賊になろうと考え、馬が好きだからサーカスに紛れ込んできたらしい。
その彼には、サーカスにいる「ベイビーさん」という餌の要らない動物が馬に見えているようだし、八代大佐には虎に見え、八代大佐の部下の内海少尉には熊(だったと思うけど記憶が定かでない)に見えているようだ。
怪力を見せる「力」や動物たちの世話をしている「象」、軽業師のママさんや手品師のタズマさんら、とにかくサーカスのメンバーは濃すぎるくらいに濃い。植本潤なんて、昔は綱渡りで鳴らしたというカタカタさんと、サーカスのゴハンの支度を一手に担っている年配女性(呼び名があったと思うけど思い出せない)との二役である。
そんな濃すぎるメンバーの中でも、久保酎吉演じる団長は何故か「ぴよーん」等としか鳴けないドードーで、しかも手が使えない。それくらい「濃い」存在でないと、ここまで濃い人々を率いることはできないんだろうなと何故か納得してしまう。
歌も踊りも、そして曲芸の数々も明るくたくましくそして楽しい。
八代大佐や内海少尉等の堅すぎるほどの固さや傲岸過ぎるほどの傲岸さとは本当に対照的である。
中島らもの戯曲がそこで何を狙っていたのか、今の「一億総活躍」を聞いて中島らもは一体どんな風に思い、どう反応していたのか、なんていうことをちょっと考えてしまう。
少年は、「自分は三界に家なし」などと言っていたけれど、サーカスの面々に「父親も母親もじじばばも兄弟もこんなにいるのに、何を馬鹿なことを言っているんだ」と言われて涙を浮かべる。
何だかじんと来てしまう。
でも、この「じんと来る」感じがこのまま続く訳ではないのだ。
内海少尉と、サーカスでアクロバットを見せている玉ちゃんが恋に落ちる話が展開する一方で、八代大佐が何故か(虎に見えている)ベイビーさんに執着し、その肉を持って来るように内海少尉に命令する。
ちなみに、ベイビーさんは、舞台上では何というか大きな白い布である。
風船が入っているのか、上から吊っているのか、出演者たちがそのふわふわと浮かぶ布を押さえるように引っ張るように移動させる。
どうやらベイビーさんは、見た人の見たいものの姿で目に映っている存在、であるようだ。
そして、時に鳴き声を発し、サーカスの団員たちにとても好かれ、大切にされているようだ。
そのベイビーさんを虎鍋の具にしてしまおうという内海少尉に対して、サーカスの団員たちは「実は馬賊」と正体を明かすことまでして守ろうとする。この辺りの、内海少尉ら3人とサーカス団員たちとの丁々発止のやりとりや立ち回りも楽しい。
また、ドードーの団長は、八代大佐の前に「堂山中尉」として現れ、ベイビーさんを徴集しろという命令を撤回するよう望む。
しかし、内海少尉はついには拳銃まで持ち出してベイビーさんを射殺してしまう。
と思わせておいて、内海少尉は実はサーカス団員たちの味方になっており、部下達を証人に使うことで八代大佐を騙し、ベイビー助ける側に回ったらしい。
そして、サーカス団員らに、南米行きの船を手配したから満州から逃げ出せと言う。
その少尉を、ドードー団長らサーカス団員等は笑い、自分たちはサーカスのテントを気球にしてどこへでも自由に行けるのだと晴れやかな顔をしている。
ドードー団長に「どこに行きたい?」と尋ねられた少年は、「戦争のない国ならどこへでも!」と答える。
そして、幕だ。
全くオリジナルの戯曲通りだったのか、アレンジが加えられていたのか、その辺りはよく判らない。
歌に踊りに曲芸に立ち回りと、派手で楽しいシーンが多いから、単純に楽しんでしまうこともできるし、私自身はそうしていたと思う。
でも、見終わって少しして振り返ってみると、今のキナ臭い時代に上演されるべき戯曲だし舞台だよなという気持ちがふつふつと湧き上がって来る。
そういう舞台だった。
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コメント
アンソニーさま、コメントありがとうございます。
確かにおっしゃるとおり、もっと小さい劇場、もっと小さい舞台の上でぎゅぎゅっと上演された方がこの世界を楽しめたように思います。
極端なことを言えば、例えば、スズナリとか。
オリジナルの戯曲が出版されているみたいですね。
でも高い・・・。
戯曲を読むのが苦手な私としては躊躇するお値段です・・・。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.11.17 22:51
こんばんは、姫林檎様。
お元気ですか?
私も先日観てきました。
後方席のシートには驚きました。
それなら少し小さい箱でやったほうがサーカスの
雰囲気にもあったんじゃないかと思ってしまいました、なんだか勿体無いですよね(^_^;)
原作に少しアレンジしてるようなことも聞いたので今度また読んでみたいです。
投稿: アンソニー | 2015.11.17 00:49