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2015.12.27

「ツインズ」を見る

パルコ・プロデュース「ツインズ」
作・演出 長塚圭史
出演 古田新太/多部未華子/りょう/石橋けい
    葉山奨之/中山祐一朗/吉田鋼太郎
観劇日 2015年12月26日(土曜日)午後2時開演
劇場 パルコ劇場 K列23番
料金 9500円
上演時間 2時間

 ロビーではパンフレット等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 パルコ劇場の公式Webサイト内、「ツインズ」のページはこちら。

 幕開けは暗い舞台に一人、スポットを浴びて多部未華子が立っていた。
 ピアノの音が流れ始め、その音に合わせて彼女はピアノを弾き始める。マイムというよりはもうちょっと演劇的というか大ざっぱというか、「ピアノを弾く様子を再現することが目的ではない」という感じだ。
 たった一人でこの空間を埋めてるよ、凄いよ、と思う。

 アイランドキッチンがあって、大きなダイニングテーブルがあって、海辺のちょっとお金のかかった別荘という風情のセットが組まれている。
 回り舞台が仕込んであって、ダイニングセットやソファセット、別荘の主人のベッドや海辺のバーベキュー場など、場面もよく変わる。しかし、基本はキッチンとダイニングである。

 そこにいるのは、吉田鋼太郎演じる年配と中年の間くらいのリュウゾウ、ベビーベッドに赤ちゃん、石橋けい演じるそのお母さんらしい女性ユキと、葉山奨之演じるその年若い夫タクト、中山祐一朗演じる何故か陽気に料理しているトムと、りょう演じる穏やかなかつ時代がかった雰囲気のローラと呼ばれる女性だ。
 赤ちゃんは双子であることが後に判る。
 そこに、多部未華子演じる、だぼっとした感じの服を着た若い女の子が入ってくる。最初、彼女の名前は「りな」かと思って聞いていたけれど、次第に「いら」という名前だと判った。

 普通に食事を勧める面々に対し、イラは最初は戸惑いつつ、コーヒーをもらう。
 タクトも頑なに食事を口にしようとしない。
 そこへ、古田新太演じるイラの父親ハルキがバットを片手に登場し、イラが飲もうとしていたコーヒーをぶちまけ、兄であるリュウゾウが飲んでいた青い液体もぶちまける。
 「他所でモノを食べるな」ということのようだ。娘を思う故の行動らしいけれど、元々の兄弟仲が悪そうなところへ持ってきて不穏すぎる空気が流れる。
 苦手なんじゃないかと思ってチケットを取って、苦手だろうなと思って見に行ったけれど、やっぱりこの不穏な空気は苦手だよと身構える。

 そのうち、この兄弟の真ん中にエリコという女性がいて、彼女の息子がタクトであること、ローラはもちろん日本人でこの家の主人の世話をしている看護婦であること、トムは遠縁の元軍人であること、ハルキは娘をオーストラリアに移住させるためのお金をもらうためにこの家に来たこと、リュウゾウが飲んでいる青い水は海水で海へ入って行ってしまった妹のエリコを探すために泳げるようになろうと飲んでいること、今この時期にこの面々をこの家に呼び集めたのは主人の意を受けたローラであること等々が判って来る。
 非常識な父親を冷静に抑えようとし、常識的に見える「イラ」が何となく不穏な雰囲気を醸し出しているのも怖い。

 食べ物や水、外出に異様に拒否反応を示す年若い夫の行動から、この世界は酷い状態になっていて、汚染されていて、食べ物や水から「何か」を摂取すると身体に悪いこと、外の空気も決して清浄ではないことなどが伝わって来る。
 一方で、ハルキとタクト以外はそのことに余り神経質になっていない。ローラとトムは目の前の海で漁をして食材を調達しているようだ。

 「とにかく金だ」というハルキが、家の人々をバットで殴ってお金を出させようとするけれど、リュウゾウは「ここにはお金はない」「ローラはお金のことなんか知らない」と言う。
 その答えに激高したハルキがローラに殴りかかろうとすると、それまでちゃらんぽらんに見せていたトムがそのバットを奪って反撃し、ハルキは倒れ、トムはバットも折ってしまう。
 さらに、「この金でオーストラリアに送り出してやれる」と言う父親にイラは怒りをぶちまけ、そこにあった包丁で父親の指を切り落としてしまう。

 不穏すぎる空気の中で起こったし、そのリアクションが笑わせようとする方向に倒れていたのであまり衝撃は受けなかったけれど、でも、凄い展開である。
 何より、イラが怖い。
 でも、見ているときは、これをきっかけにハルキから不穏な空気が薄れ、食卓にも着くようになり、暴力的な何かが起こりそうという感じが舞台上から薄れたことにほっとしてしまった。

 その後、舞台上の不穏な空気を担ったのはユキとタクトの夫婦で、ユキは自分の子供である双子を抱こうともしない、見ようともしないタクトに怒りといらつきを隠さない。
 一方のタクトは、ユキが平気で食卓で食事をしたり、水道水を飲んだり、双子を連れて散歩に出たりすることが信じられず、それはユキの「嫌がらせ」か「自暴自棄」だと判断しているようだ。
 それまでやはり食事に警戒感を示していたハルキがコロっと態度を変えたこともタクトを追い詰めているように見える。

 そういえば、途中でボンゴレ・ビアンコをトムが作るシーンがあって、そのときに本当にニンニクの香りが漂ってきて驚いた。
 あれは、本当に舞台上でニンニクを炒めていたんだろうか。それとも、「効果」としてニンニクの匂いを流していたんだろうか。
 いずれにしても、「生きている」ことの象徴のようにニンニクの匂いが使われていたような気がする。

 そこへ、双子が姿を消してしまう。
 最初は半狂乱になったユキだけれど、「町内会の祭だ」と浮かれるハルキとトムに釣られたのか開き直ったのかぶっとんだのか「双子の行方を知らないか聞くために祭の準備の飲み会に行ってくる」とハルキと出かけてしまう。
 別荘の面々は、どちらかというと「よくあること」と受け止めているように見えるのが怖い。生まれたての赤ん坊の行方不明が「よくあること」として描かれるというのは、かなり怖いことだ。

 もう話すこともできないこの別荘の主人の部屋にやってきたイラは、彼に「どうして父と仲が悪いのか」「どうして私の母を嫌ったのか」「どうして私に会おうとしなかったのか」と叩きつけるように質問をぶつける。
 その答えを聞こうという風情を見せたローラは、イラに、イラがボートに乗せて双子を海に流したことを知っていると告げる。
 イラは、慌てふためき、「双子が自分で海に出て行ったのだ」と主張する。

 別荘の主人から話があることになっていた夕食時、ローラがさりげなく主人がもう死んでいることを告げる。
 ローラは、主人が家族を集めたのは、家族に看取られて死ぬためであり、そのための毒薬も預かっていたことも告げる。
 その毒薬にタクトは異様な興味を示す。

 多分、このシーンで幕だったと思う。
 ダイニングに今この別荘にいる人が全て揃い、タクトはあくまでも食事をしようとせず、他の面々は食事をする。
 イラの気持ちの揺れは治まっていない。イラが双子を流してしまったことをローラは口にせずイラも告白しない。リュウゾウはエリコが海に入ったと信じタクトはエリコは街に行っただけだと主張する。

 食べ物も飲み物も口にすれば身体に悪影響があり、空気ですら清浄ではない。でも、人々は海辺に集まって暮らし、祭も開催しようとしている。
 世界の終わりという絶望を語ろうとしているのか、終わりかけた世界の希望を語ろうとしているのか、それは受取方次第のような気がする。語られているのは多分、単なる「世界の終わり」だ。
 ただ、タイトルにもなっている双子が、若い女性の手で失われてしまったことで、天秤が絶望の方に傾いているようにも思う。

 どういう幕切れだったかどうしても思い出せない自分が情けないけれど、それも仕方がない。
 多分、「世界の終わり」を語ろうとする舞台だったと思う。

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コメント

 アンソニーさま、コメントありがとうございます。
 そして、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 「2015年の5本」のコメントにも書きましたが、確かに灰色の「何か」を目にはしているんですが、それが何かということに気がついていなかったんですよね・・・。
 双子よりもローラに気を取られておりました(笑)。

 ではでは、次のコメントでお目にかかります!

投稿: 姫林檎 | 2016.01.15 23:38

姫林檎様、お久しぶりです。
今年も宜しくお願いします(^O^)/

今更ですが。
私もこれ観ました!
ラスト、宇宙人のような双子がキッチンの後ろに立ってましたよね。

えっ?と思ったら終演でした。

投稿: アンソニー | 2016.01.15 10:47

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