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「夜の姉妹」
脚本・演出 わかぎゑふ
出演 山本裕典/彩乃かなみ/佐藤永典/平野良
宮下雄也/原嶋元久/田中崇士/中野咲希
菊地美香/黄川田将也/八代進一
近江谷太朗/粟根まこと
観劇日 2015年12月12日(土曜日)午後1時開演
劇場 品川プリンスホテル クラブeX Cブロック7列6番
料金 6800円
上演時間 2時間
品川プリンスホテル クラブeXに行ったのは初めてで、品川駅から近いのにちょっと迷ってしまった。
ロビーではパンフレット等が販売されていた、と思う。
ネタバレありの感想は以下に。
品川プリンスホテル内にあるクラブエックスは、初めて行った。
青山円形劇場と東京グローブ座を足して2で割ったような場所だ。客席は平らで椅子を並べてある。壁に沿ってソファが一部並んでいる。
舞台は三方を客席で囲われていて、一番奥に柱が並び、その奥にかけられたカーテンの陰から役者さんたちは舞台に出入りしている。横ではなく前後に動いて舞台に出入りするというのは、ちょっとハンデかも知れない。必ず正面向きで登場し、必ず背中を見せて退場することになる。
その柱は5本あって、上の方には蜘蛛の巣が張っている。
寂れた感じもあって、前に男性4人と女性4人バージョンで、それぞれが男女二役ずつ演じたわかぎえふの芝居を思い出した。しばらく考えて「ワンダーガーデン」だったと思い出す。
男女入れ替えという配役も、思い出させられた理由かも知れない。
ヴィクトリア女王時代のバーデン公国が舞台である。
その皇太子であるラインハルト、実は女性であった椿姫の作者であるアレクサンドル・デュマ、女子校や男爵夫人が登場する舞台だから、やろうと思えば思い切り耽美的にも作れただろうに、これだけの芸達者を揃えて、そこを笑いに持って行くのが何とも贅沢だと思う。
男優が女性を、女優が男性を演じる。
といっても、女優はほとんど登場しない。メインキャストと言えるのは、彩乃かなみ演じるラインハルトだけだ。
この芝居を男女入れ替えではなく上演したらどんな感じになるのだろう。
ちらしの惹句などから、殺人事件が起こってアレクサンドル・デュマが探偵役をこなすのかと思っていたけれど、いつまでたっても事件が起こらない。
どうやら「起こってしまった」事件を探偵するのではなく、現在進行形で起きている事件をデュマがリアルタイムで経験し、真相に迫って行くという形だったようだ。
だから、最初のうちは、怪しげな動きはあるもののいつまでたっても事件が起きないのでやきもきしてしまった。
本気でやきもきしたけれど、家に帰って来てから検索し、自分が2007年に上演されたリリパットアーミーⅡバージョンの「夜の姉妹」を見ていたことが判明した。
そのときの感想はこちらで、ストーリーも変わっていないし、どうしてまた綺麗サッパリと見たことすら忘れていたのかと情けなくなった。
配役としては、リリパットアーミーⅡバージョンではデュマは男性という設定で女性が演じており、そこが一番大きな違いだ。デュマとラインハルトとの関係も結構変わる筈で、だからデュマがかなり「女性を感じさせない」女性という設定になっていたのだと納得した。
八代進一は、ラインハルトの母であるバーデン公国の王妃を演じている。
さすがに、この出演者陣の中では、女性役をこれまで多く演じてきていることもあって、女性として綺麗だ。スレンダーな作りのドレスがよく似合う。
粟根まことがめがねをかけずに舞台に立っているのはかなり珍しい気がする。
腹に一物ありそうな厳格そうな男爵夫人の感じが非常によく似合う。この男爵夫人は、ことの裏側を全て把握し、計画し、やってのけようという黒幕の役で、かなり「美味しい」役だと思う。
これまた突き詰めようとすればとことん黒幕で嫌な感じにも作れるだろうに、その辺りを笑いに持って行くから楽しい。
近江谷太朗演じるハンナは、男爵夫人の家の厨房を預かっている女性だ。もう年配の女性で、彼女が示す、森の教会で育てられて育ての親を失ってしまった少年への愛情や「子供は宝だ、みなで守らなければ」という発言、ラインハルトの子供を宿している若い女性に対する心配りなどは、笑いを散りばめつつもその場で起こっていることは悲惨なことばかりのこの芝居の中で、唯一と言っていい救いのような気がする。
彼らと、山本裕典演じるデュマや女子高生達といった若い女の子たちを繋いでいるのが、男爵夫人の秘書であり、男爵夫人が校長を務める女子校で教師をしているヨハンナだ。黄川田将也演じるヨハンナもまた、ある意味でキーパースンで、彼女もまた男爵夫人の秘書として物事の全容を把握している立場にいる。
彼女が、ラインハルトの恋人に向かって言った「女の子ならいいわね」という発言は、実はかなり重いキーワードだ。恋人であるローザは、それを「世継ぎになる男の子だったら困る」という発言だと受け止めたらしいところがまた、後になって切ない。
ラインハルトもデュマも、ローザと同じように考え、また女子校がバーデン公の側室を見繕うための学校だと推理し、ラインハルトがついに真相究明に乗り出す。
その場で、王妃と男爵夫人が姉妹だったことが明かされ、しかし、王妃と男爵夫人とが何を企み何を考えていたのかはラインハルトにのみ明かされ、デュマにも客席にも知らされない。そして、ラインハルトは、納得してしまったように描かれる。
最後の最後、お金をお礼に送って来たラインハルトのやり方に疑問を持ったデュマが男爵夫人邸に乗り込み、王妃が血友病の潜在保因者であったこと、そのためにラインハルトの弟は亡くなり、ラインハルト自身も内出血が止まらずに間もなく死を迎えるだろうこと、公国の体面を守るためにラインハルトの子供が男の子だったならその場で彼を傷つけて血友病であるかどうか判別しなければと決めていることが明かされる。
そして、病院にいた筈のラインハルトがローザの出産直後に現れ、男の子であった我が子にナイフを立て、そして共に死んで行く。
それが、この物語の「謎」の帰結だ。
ラインハルトがデュマに当てた手紙が読まれ、ヨーロッパ王室に娘達を嫁がせた英国のヴィクトリア女王もまた血友病の潜在保因者あったことが語られて、終わる。
悲劇が語られ、さらに悲劇が繰り返されるだろうことを預言して終わっていることになる。
舞台は、ここでは終わらない。
出演者達が、男優陣は燕尾服、女優陣はドレスに着替え、元々の性別に戻り、ダンスを披露して終わる。
男女入れ替えの悲劇の終わりをこれほど切り替えよく教えてくれるやり方は他になかなかないと思う。
楽しく笑い、謎に引き込まれ、男女入れ替えの妙を堪能し、いい時間を過ごした。
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コメント
いっしー様、お久しぶりです&コメントありがとうございます。
「夜の姉妹」は、今、関西で上演中なんですね。
面白かったですよね〜。
デュマはもうちょっと活躍してもいいと思いましたけど。
わかぎさんの作品は私も大好きです。鉄板という感じ。
昨年の「おもてなし」は本当に凄かったです。
才原警部、楽しんでいらしてくださいね。
投稿: 姫林檎 | 2015.12.25 23:06
こんばんは、お久しぶりにコメントします。夜の姉妹を見てきました。関西ではこのクリスマス時期に上演されました。
欧風な感じがクリスマスっぽく、ゴシックホラーな内容でしたが、ふたを開けるとこんなに笑わせて、どうする?というくらい笑えました。
誰が主役か?わからないな、男爵夫人と大公妃が目立っていると思っていたら、姉妹でタイトルが夜の姉妹。なるほどと思いました。
和洋、時代を問わずわかぎさんの作品は、すごいと改めて思いました。
また、おじゃまいたします。才原警部も来月なので、感想を参考に昭和を楽しんできます。
投稿: いっしー | 2015.12.25 18:17