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2015.12.23

「才原警部の終わらない明日」を見る

シス・カンパニー「才原警部の終わらない明日」
作・演出 福田雄一
出演 堤真一/勝地涼/清水富美加/鈴木浩介
    上地春奈/池谷のぶえ/志賀廣太郎/小池栄子
観劇日 2015年12月23日(水曜日)午後2時開演
劇場 世田谷パブリックシアター 2階B列14番
料金 9000円
上演時間 1時間50分

 ロビーではパンフレット(900円)などが販売されているようだった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 シス・カンパニーの公式Webサイト内、「才原警部の終わらない明日」 のページはこちら。

 年末らしい、楽しい舞台だった、というのがまず第一の感想だ、
 タイトルがタイトルだし、チラシやポスターの堤真一のポーズを見ればそれはコメディに決まっているし、ましてや作・演出が福田雄一とくれば、これはやはり笑いを追求した舞台だろう。出演者陣を見たって、芸達者で「笑わせられる」方々が勢揃いだ。
 もっとも、タイトルと芝居の内容は、「警部」の部分は除いてあんまり関係なかったような気もする。パブリシティ等々のために先にタイトルを決めて、内容は後追いだったんだろうなと思う。

 某大臣が「日本から受験を無くす」ことを目指し、1回勝負の受験ではなく定期的な模試で進路を決めるべきだと法案を提出したらしい。
 その法案の審議が翌日に迫る中、大臣の娘が誘拐され、犯人からの電話がかかってくる。
 大臣は法案審議に全力を尽くすべく、娘の誘拐は「公安のあの男なら!」と警察に任せることにしたらしい。

 小池栄子演じる女性警部と何故か警部にくっついて見学している警視総監の娘が待つところに、堤真一演じるインターポールの才原警部が踊りながらやってくる。階段を降りつつ、音楽に乗りつつ、ポーズを決め、踊る。
 おかしいだろう! とツッコミを入れるのがどうやら小池栄子の役回りらしい。
 そして、さらに「誘拐捜査のプロフェッショナル」とマイク片手に才原警部が紹介したのが「サイバラズ5」と名づけられた、どこからどう見ても才原警部の家族ですね、という面々だ。
 その中で、勝地涼演じるマイクだけは「本物の刑事」らしい。
 さらに、池谷のぶえ演じる家政婦は、本当に「見る」だけの役回りらしい。

 捜査の見学中である警視総監令嬢が、シーンとシーンの間にスポットを浴びて観客に向けて現状を報告する形で、物語の進行を司る。
 1シーン1コントといった感じで、オチを付け、「じゃん!」という音がしそうな感じで照明をパッと消してシーンを終わらせることが多いから、彼女の「解説」がないと、多分、ストーリーが通らない。
 翌日の24時までにこの誘拐事件を解決する必要があるということが繰り返し語られる。
 「タイムリミットまで**時間」と言われると、宇宙戦艦ヤマトの「地球滅亡の日まであと**日」というテロップを思い出すのは私だけかも知れない。でも、年代的には合っているよなぁと思う。

 年代的に合っているかどうかといえば、途中で、身代金を持って行った警視総監令嬢と家政婦さんが、電話で誘拐犯の指示を受け、ピンク・レディーの「ペッパー警部」と、少年隊の「仮面舞踏会」を踊るシーンがあった。
 この2曲を知っている世代がターゲットの舞台なのかなぁとふと思う。何しろ、登場人物である警視総監令嬢自身が「古くて知らない」と言っている。

 途中で、某大臣に政治献金として5億円を渡した教科書会社社長が移動中の機内で心臓発作を起こし、その場にいた堤真一演じるブラックジャックがなかなか周囲の人間に気付いてもらえず、「気がつかれるまでは出て行かない」とすね、池谷のぶえ演じるぴのこに「もうあなたを知っている世代じゃないのよ」みたいに言われてさらにすねるシーンが入っていた。
 ピンクレディーと言い、仮面舞踏会と言い、ブラックジャックと言い、昭和の香りがする舞台である。
 結局、ブラックジャックは病人を助けて5億円を要求し、その要求を聞いて逆上したスチュワーデスに機外に放り出されてしまう。

 あるいは、何故かミュージカルのオーディションシーンが始まり、そこに、堤真一演じる「高倉健のような」、「自分、不器用ですから」と繰り返す男が登場したりする。
 このシーンは、どこからどう見ても「誘拐」とは全く何の関係もない。
 そんなに滅茶苦茶面白いコントが展開される訳でもなく、このシーンは一体、何なんだろうという感じすらする。

 そんな「意味があるのか?」と首を傾げさせられるシーンが挟みつつも、サイバラズ5は活躍なんだか活躍ではないんだか、よく判らないまま捜査らしきことを続け、一方の女性警部は何故か同時発生した社長令嬢誘拐事件の捜査まで命じられる。
 こちらの社長令嬢は、誘拐されること12回目だそうで全く危機感がないし、父親である社長は何故か報道番組に出演して「中途半端なイケメン」と何度も言われる勝地涼演じる刑事とともに、どうでもいいスキャンダル話に花を咲かせたりして訳が判らない。
 こういう訳の判らなさはコントの醍醐味だよね、とも思う。

 いわばピースのようなコントを散らばせた後、一気に舞台は収束に向かう。
 同時並行で起きていた、社長誘拐事件は、実は才原警部らが起こした狂言誘拐で、もう一方の誘拐事件が大々的に報道されれば、全く報道されない某大臣令嬢誘拐事件の犯人が動き出すだろうという予測の元で起こされていたと明かされる。
 一人何役も演じていたのであまり気にしていなかったけれど、確かに、社長令嬢誘拐事件の犯人は、堤真一と勝地涼が演じていた。この辺りの目くらましはいかにも計算ずくだと思う。

 女警部を庇って誘拐犯に警視総監令嬢が撃たれてしまい、亡くなった直後、そういえば飛行機から突き落とされていたブラックジャックがちょうどそこに落ちてくる。
 結局、法案は通らず、しかし某大臣の令嬢は無事に戻り、「好きに使ってくれ」と残された5億がその場にあったため、ブラックジャックが要求した治療費5億に対して、その場にいた全員が「よろしくお願いします!」と声を上げる。
 飛行機のシーンはこのためだったのね、と納得だ。

 そして、最後の大どんでん返しである。
 実は、才原警部は警部などではなく、そういえばオーディションを受けていたあの高倉健もどきの役者で、彼は公安部長だったか警視総監だったかが「某大臣の汚職」事件を追及するため、令嬢誘拐事件を奇貨として仕組んだ大きな罠の一環として「インターポールの警部」を演じていたのだという。
 最後にそう落としますか、と思った。やられた感が満載である。

 その「やられた感」をそのままにしないところがこの舞台の凄いところで、最後は、宝塚を意識したのだろう階段を舞台に登場させ、出演者全員で、脳天気といえば脳天気、未来への希望を感じさせるといえば感じさせる歌と踊りをかなり長い時間続けた。
 もちろん、客席は手拍子で盛り上げる。
 最後の最後、いい気分で帰ってもらおうじゃないか、という役者さんたちの熱が伝わって来る。

 警視総監令嬢が撃たれたのにそれを気にしていない警察官僚(あるいは親)ってどうなんだとか、某大臣はそもそも「公安の頼りになる男」に頼もうと自分で決めていた筈がどうして才原がそこに介入できたのか、気になる。いくら何でも、「1年かけて役作りをした」とはいえ、1年前から公安刑事として活動し某大臣と繋がりを造っていたというのは無理だろうし、それを押し通すなら、更なる一押し二押しが必要だったと思う。
 こまで全部含めて伏線を張って回収してくれてたら、さらにこのスッキリ感とカタルシスが何倍にもなったのになぁと残念な気持ちもあるけれど、やっぱりここは楽しんじゃった者勝ちだと思う。
 かなり、笑って来た。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 馬鹿馬鹿しさが光る舞台っていいですね。
 本当にそんな感じでした。
 年末に馬鹿馬鹿しく笑える楽しい舞台っていいですよね。

 小池栄子は、今年のシス・カンパニー公演のグッドバイが印象に残っています。
 あれも上手かった!

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2015.12.25 23:01

姫林檎さま

私も観ましたよ。
福田雄一さんらしい、馬鹿馬鹿しさが光る舞台でしたね。
皆さん何役もこなすから、訳わからなくなってくるし。
でも、楽しんで演じてるようなので、こちらも楽しかったです。

小池栄子の舞台って、何回か観てるんですが、滑舌もいいし、舞台に映える女優になりましたね。

投稿: みずえ | 2015.12.25 16:13

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