「女学生とムッシュ・アンリ」 を見る
加藤健一事務所「女学生とムッシュ・アンリ」
作 イヴァン・カルベラック
訳 中村まり子
演出 小笠原響
出演 加藤健一/瀬戸早妃/斉藤直樹/加藤忍
観劇日 2015年12月5日(土曜日)午後2時開演
劇場 紀伊國屋サザンシアター 17列23番
料金 5940円
上演時間 2時間
珍しく当日券で芝居を見に行った。でも、事前に電話予約してしまう小心者である。
ロビーでは、パンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台はフランスで、だから多分フランスの作家が書いた戯曲なのだと思う。
正直に言うと「よく判らなかった」ということに尽きる。この話はそもそもコメディだったんだろうか。
ストーリーとしては、上手く行っていない父親と息子がいて、いつもいがみ合っている。それでも息子は目眩で倒れて腕を怪我した父親を心配し、一人暮らしの父親のマンションでルームメイト募集の広告を出す。
それに応じてやってきた若い女学生に、父親は、「息子を誘惑して、離婚する気にさせたら家賃を6ヶ月無料にする」と持ちかけ、女学生はこれに応じる。
果たして、という展開だ。
加藤健一演じるアンリは引退した公認会計士で孤独を好み性狷介な老人だ。斉藤直樹演じる息子のポールは小心者でおどおどしていてでもいい年齢をして父親に反発しつつしかし公認会計士の事務所を継いでいる。
アンリはポールの妻である加藤忍演じるヴァレリーが気に入っていない。
確かに「気の利かない」女性としてヴァレリーは描かれているけれど、その描かれ方が何となく釈然としなかったのは私だけなんだろうか。何というか、彼女に対する視線が優しくないというか、彼女をネタに笑いを取るというのがどうも気持ちのいい笑いではない気がしてしまう。
それは、ポールの小心ぶりで笑いを取るシーンでも同じように感じる。
一方で、ルームシェアの広告を見てやってきた瀬戸早妃演じるコンスタンスへの視線は優しい。
この視線の差は、アンリの心持ちの差なんだろうか。
コンスタンスはアンリの依頼を引き受ける。
アンリの妻の形見であるピアノに勝手に触ってしまった失点を取り返そうとしてのこととはいえ、どうしてそんな取引に応じるのか、これまた理解に苦しむ。
だから、この芝居に対して感じた私の違和感は、芝居というよりも、戯曲に対する違和感なんだと思う。
フランスは離婚が多いって言うしなぁ、フランス人が見るとこの芝居の印象は違うんだろうなぁなどと、余計なことを考えてしまう。
コンスタンスは、自分と父親との関係や、学業が上手く行っていないこと、やりたいことが見つからないこと等々、様々な屈託を抱えているらしい。
そのコンスタンスとやりとりをするうち、アンリは結構親身になって彼女に対応するようになるし、コンスタンスの方もかなり要領よくアンリと付き合っているようだ。
その様子は、ポール夫妻にとっては驚きに値するらしい。
アンリの指導に則ってコンスタンスはポールの誘惑を開始する。
コンスタンスには今ひとつ見分けがつかないけれど、アンリによれば、ポールはかなりコンスタンスに惹かれているらしい。しかし、コンスタンスには判らないその変化も妻のヴァレリーには一目瞭然のようで、ヴァレリーがアンリの家にやってきて、コンスタンスに「夫を盗まないで」と求めるシーンは何とも切ない。それまで、ぶっとんでいるようにしかしゃべっていなかったヴァレリーが、深刻に憂いを秘めて語るのだから、客席にはもちろん、コンスタンスにだって響いている筈だ。
それでも、ポール誘惑大作戦を続けるコンスタンスがやっぱりよく判らない。
ポールはヴァレリーとの離婚を考えるようになり、アンリの思うつぼになりつつあったところ、別居を始めた後でヴァレリーの妊娠が判る。
一方、何をすれば判らない、何をやってもダメだと言い続けていたコンスタンスは、ピアノが好きで作曲の才能もあることが判り、アンリはロンドンにある音楽学校に進学するよう勧める。
そうして、物語は大団円に向かい始めたように見える。
ポールはヴァレリーとやり直そうと決め、コンスタンスは元々がポールに好かれても困ると思っていた訳でそちらもあまり問題ない、アンリの企みはポールやヴァレリーにはばれなかったようだし、コンスタンスは父親との関係で悩みつつも音楽学校の受験を決める。
コンスタンスのピアノは、この芝居の中では大抵が「場のおかしくなった雰囲気を誤魔化す」ために求められて弾いている。そうして弾くことで彼女が「自分はピアノが好きだ」ということを認識し直して行くということなのかも知れない。
でも、唐突にピアノ演奏が始まるようにも思えてしまう。
カーテンコールで加藤健一が紹介していたところでは、ピアノ演奏は全て瀬戸早妃自身が弾いていたそうだ。
ポールとヴァレリー夫妻を、アンリは祝福する。沈んだようにも見えるけれど、とりあえず怒ったり皮肉を言ったりすることはなく、息子夫婦がずっと求めていた「生前贈与」の書類へのサインが二人への餞のようにも見える。
アンリは、ヴァレリーを追い出すことを諦めたようにも見える。
そして、音楽学校への入学試験でもあるコンクールに出発するコンスタンスを見送る。
アンリにとっては「風邪をひくなよ」という台詞が、妻やポールやコンスタンスに対する精一杯の愛情表現だったらしい。
そして、コンスタンスがロンドンに行っている間に、アンリは亡くなってしまう。
戻ったコンスタンスにポールがアンリの様子を語り、「合格を心から喜んでいた」と告げると、コンスタンスは「実は落ちちゃったの」と返す。
しかし、どうしてか「その方がいいと思って」合格したと嘘の電話をしていたのらしい。
コンスタンスはアンリの死を予期していたということになるのだろうけれど、その兆しを見ていない(と思う)ので、何だかよく判らない、という印象が残ってしまう。
それでも、亡くなる直前にアンリが書いたというコンスタンスへの手紙で泣いてしまう私は、何というか、あっさりあざとさに負けてるなぁと思う。
何というか、全体としてバランスが悪いというか、ピンと来ていない、登場人物たちの心の揺れみたいなものがあまり丁寧に整合性が取れるように構成されていないなぁと思ってしまった芝居なので、涙は浮かべつつも、何だか釈然としない気持ちが残ってしまう。
笑いも涙も、もっと違う方法で取れるんじゃないか、もっと違う方向から笑ったり泣いたりできる芝居が好きだなぁと思った舞台だった。
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