「七つの秘密」を見る
AGAPE store「七つの秘密」
脚本 細川徹
演出 G2
出演 松尾貴史/シルビアグラブ/池田純矢
東加奈子/坂田聡/宮崎秋人/大高洋夫
観劇日 2016年1月16日(土曜日)午後2時開演
劇場 紀伊國屋ホール E列16番
料金 6800円
上演時間 1時間45分
ロビーではパンフレットや、これまでの上演作品のDVDが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は、どこかの会社の何とかという課の一室である。
何をしている会社の何をしている部署なのかは今ひとつ判らないし明かされないけれど、何でも切っちゃえるような何かを開発して特許を取って売ろうとしていることは確からしい。
大高洋夫演じる課長、シルビア・グラブ演じる川島と宮崎秋人演じる鈴木の二人が経理、松尾貴史演じる市川と池田純矢演じる勅使河原が事務、東加奈子演じる黒木と坂田聡演じる水野が営業という七人体制である。
七人いるから一人一つの秘密を抱えているのかと思ったらそうではない。
「秘密を知ったらすぐにでもしゃべりたくなって実際にしゃべってしまう」ミズノは当然のことながら秘密はない。
他の6人が七つの秘密を抱えて、表面上はごく穏やかに会社での日々を送っている。
秘密を持たない役だからなのか、坂田聡だけは一人三役を演じている。
部署での飲み会の日、市川が「体調が悪い」と言い出してパスして会社に居残る。課長のパソコンのパスワードを破って、何やら「何でも切れちゃえるもの」の開発状況やら設計図やらを盗んで、それを手土産にライバル会社に移籍しようとしているらしい。
その辺りの事情を、独り言と、ライバル会社の担当者からの電話対応とでしゃべらせて判らせてしまうところが見事だ。そこが判らないと全く前に進めない。
そうして産業スパイをしているところに、経理の川島が何故か戻って来る。もちろん、課長のパソコンを触っている市川を見て疑惑の目を向け、パソコンを覗き込もうとした川島を市川は殴って気絶させてしまう。
おいおいと思うけれど、何故か次の日、川島は「昨日は何も見ませんでした」といった態度を取る。市川は訳が判らずに川島の表情を探ろうとついつい目で追ってしまう。
その市川に疑惑の目を向け、黒木が「どうして川島さんのことばかり見ているのか」と迫る。何かと思えば、この二人は不倫の関係にあるらしく、「藤子不二雄Aが来た」と部署内の人間が全て出払ったスキに抱き合っているところを、一足先に戻って来た鈴木が目撃してしまう。
鈴木は「言いたい、けど言えない」という葛藤に一人ではまり込む。
この辺りの「独り言」や「心の声」は、周りの人間はストップモーション、舞台を暗くして、「心の声」を語っている役者さんにスポットを当てるという割と古典的な手法で表されていて、それが結構効いている。
その鈴木が飲みに行こうと声を上げると、答えるのは市川と黒木の二人だけで、いたたまれずに「残業する」と言い張り、一度言い始めると課長が「飲みに行けよ」と言っても何故か強行に残業すると言い張る。
課長が気を使って残業の陣中見舞いに戻ってみると、鈴木は、課長も知らないロッカーの壁の向こうの隠し部屋に籠もって、ドラッグを作っている真っ最中だったらしい。そこに「ドラッグを早く寄越せ」と言いに来たヤクザっぽい男とのやりとりを全て聞いた課長は仰天する。
課長はもちろん、翌日から鈴木のことが気になって仕方がない。一挙手一投足を目で追ってしまう。
その様子に不審を感じたのが今度は勅使河原で、二人きりになった事務室で勅使河原が課長に「どうしてずっと鈴木を目で追っているんだ」と迫る。
ずっと勅使河原が「空気の読めない、ノリの軽い、てきとーそうなお兄ちゃん」な感じだったので、これだけで可笑しい。
さらに、先ほどの市川と黒木のやりとりの再現(ただし、今度は男同士)されるから、噴き出してしまう。「似ている」とか「繰り返し」ってどうしてこんなに笑いを生むんだろうか。
もちろん、その様子をロッカーに隠れていた黒木が全て聞いてしまう。
何だかよく判らないけれどどんどん派手になってきた川島に、鈴木は随分前から好意を抱いていたらしい。もちろん全く相手にされておらず、鈴木はどうしようもなくなったらしく、市川に対して「ボクの恋を応援してください」という内容のパワポを作ってプレゼンする。
それもまた可笑しい。
パワポ作ってる間に自分の口で言えば! という可笑しさである。
その市川の(渋々ながらの)応援を得て、鈴木は川島に「鈴木が川島をどう思っているか」のパワポを使ってプレゼンする。
しかし、そのプレゼンの最中に、市川と川島は「あの夜の出来事は、決して自分の秘密がばれたようなものではない」ということを確認して上機嫌となり、もちろん鈴木はあえなく失恋する。
そうして上機嫌になった市川が声をかけて、課長と勅使河原と黒木と4人で飲みに行く。
普段は「飲めません」と言っているらしい黒木はガンガン飲んで、どんどんガラが悪くなって行く。
そうして、酔っ払った課長と介抱する市川がトイレに消えると、黒木の口が俄然軽くなって、自ら「私は整形しているんだ」「整形したのは指名手配犯だからだ」ととんでもないことを勅使河原に告白する。
そんなこんなで水野を除いた6人が疑心暗鬼の塊になったところへ、川島が「疑われていた訳ではなかった!」と浮かれてまた一段と派手な格好で出社した上で「横領がバレていなくて良かった!」と叫んだものだから、均衡は一気に崩れ、「それは犯罪だ!」と叫ぶ鈴木に、「オマエが言うな!」と課長が切れ、いや、違う順番だったような気もするけれど、順繰りに自分が知っている誰かの秘密を叫んで行くことになる。
まさに阿鼻叫喚の沙汰、という感じだ。
こうして見事に一巡して、6人の持つ七つの秘密が・・・と書いて思ったけれど、秘密は六つしかないのは気のせいか。
不倫の関係、同性愛、ドラッグ生成、指名手配、横領、産業スパイで六つである。黒木については、「整形」というのも秘密に加わるんだろうか。だとすると、黒木は一人で三つの秘密を持っていることになる。
それはともかくとして、とにかく七つの秘密が明らかにされ、しかしそこに脳天気な水野の声が響くと、6人は何故か「水野に知られてはならない」と一致団結する。
戻って来た水野が「クレジットカードがない!」と騒いで警察を呼ぶと、さらに6人の一致団結振りが加速する。
最初は呑気そうにしていた課長と勅使河原も「警察が来たら、何もかもが詳らかにされてしまう」という市川の脅しに屈し、あっさりと「秘密はなかったことにする」側に回ってしまう。
それはおかしいだろう! と私は力一杯言いたいけれど、6人の結束は固くて水野のクレジットカードも無事発見される。
そうして、ほっとした6人が全員揃って朝っぱらから飲みに行き、一人残った水野がぐずぐずしているところへ、市川と黒木が戻ってくる。
懲りずに産業スパイを続ける市川とそれに協力することにしたらしい黒木は、水野が課長の机の下に潜って500円を探していることに気付かず、自分たちも含めて全員の秘密をぺらぺらしゃべり、そのまま出て行ってしまう。
水野は、驚愕の表情になっていたけれど、あっさりと社内電話を取り上げて、受付の女の子に今聞いたばかりの秘密をしゃべり始める。
そして幕だ。
面白かったし笑った。
カーテンコールで何故か「今日は、新宿界隈で気に入っているレストラン(だったかな?)を全員が披露して終わります」なんてことを言っていたのも楽しかった。
でも、これをやるなら、もっと緻密に行けたんじゃないか、ラフではなくもっとカッチリ設定を作り込んであった方が面白かったんじゃないかという気もしてしまう。
秘密の大きさがかなり違うのに、全員が「自分を守る代わりに他人の秘密は見なかったことにする」という選択をするところにやっぱりどうしても違和感を感じてしまう。
私の好みとしては、あともう一押し欲しかったなぁという感じが残った。
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コメント
ひびき様、コメントありがとうございます。
そして、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
ひびきさんも音響が気になっていらしたんですね。
そうすると、私は、席の位置がラッキーだったか、鈍感だったか(こちらのような気も・・・)という感じですね。
そして、おっしゃるとおり、空席が目立って残念でした。
私が見た回は、後ろ1/3か1/4くらい空席だったかも知れません。
チケットがとても取りにくい公演と、何だか両極端になってきているような気がします。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2016.01.30 09:02
姫林檎さん、こんにちは♪
今年もレポ楽しみにしています。
先週、七つの秘密観劇しました~。
姫林檎さんのレポを読んで自分でも確かめてみましたが確かに七つ目の秘密が「…?」ですね(笑)
鈴木が川島のことが好き…が秘密かな?と思いましたが、そんなのみんな知ってるみたいに言われてましたもんねー。
↓みずえ様と同じく、私も音響の音が少し気になりました。
E列の1番でした。スピーカーの近くだったのかもしれませんね。
それと、空席の多さがとても残念に思いました。
G2さん演出の舞台は好きで良く観に行くのですが昨年の「ベイビーさん~」に続いて、勿体ないなぁ~と思いました。
私が行った時のカテコのお題(?)は好きな格言、ことわざでしたよ~♪
ああいう役者さんの素の部分が見られる一瞬って何か嬉しいですよね。
投稿: ひびき | 2016.01.29 14:49
みずえ様、コメントありがとうございます。
そして、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
みずえさんも「七つの秘密」をご覧になったのですね。
笑いましたよね〜。
音響は気がつきませんでした。もしかして席の位置にもよるのかも知れませんね。
カーテンコールのお題は日替わりなんですね。
毎日、ホームページでお題と出演者のみなさんの答えを公開してくれたら楽しそうですね〜。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2016.01.21 22:39
姫林檎さま
今年初コメです。
今年もブログ、楽しみにしていますね。
私はこの舞台、昨夜観ました。
古典的というか、単純なコメディーでしたね。
気楽に観れました、笑ったなあ。
松尾さんの台詞は、アドリブも入ってますよね。
私は音響の大きさが気になりました。
ちょっとうるさく感じました。
昨夜のカテコは、「前日オフだったので、何をして過ごしたか?」がテーマでしたよ!
投稿: みずえ | 2016.01.21 10:22