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「オーファンズ」
劇作・脚本 ライル・ケスラー
翻訳 谷賢一
演出 宮田慶子
出演 柳下大/平埜生成/高橋和也
観劇日 2016年2月20日(土曜日)午後1時開演
劇場 東京芸術劇場シアターウエスト J列13番
料金 6800円
上演時間 2時間15分(15分の休憩あり)
ロビーではパンフレット(お値段はチェックしそびれてしまった)等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
ボロボロだけれど、実は結構広いのじゃないかと思わせる家が舞台だ。米国の家というのはどこもこんな感じなんだろうか。時代設定がいつなのかはよく判らない。
ソファがあり、食卓があり、クローゼットがあり、2階への階段がある。怯えるようにして隠れている平埜生成演じるフィリップのところに、柳下大演じるトリートが帰ってくる。
どうやらこの二人は兄弟で、両親がいなくなってから兄が盗みなのか恐喝なのかでお金を稼ぎ、心も身体も弱そうな弟の面倒を見ているようだ。そうした関係のためか、二人の力関係は明らかで、兄が弟を完全に制圧しているように見える。弟は兄を慕いつつ、突然見せる凶暴さに恐怖を覚えているようだ。
またある日、兄のトリートが高橋和也演じるハロルドという男性を家に連れ帰ってくる。
このハロルドはいい気分で酔っ払い、トリートを「デッドエンドキッズ」を呼び、やけに気に入っているようだ。そしてご機嫌である。
そのハロルドが酔いつぶれるのを見澄まして、トリートは彼のカバンをこじ開けて多額の株券を見つけ出し、財布を懐から抜き出す。
フィリップのひょんな一言がきっかけで、トリートは、ハロルドを誘拐して身代金をせしめようと思いつく。
フィリップにハロルドを見張るように命じたトリートは出かけてしまう。
ハロルドは、食卓の椅子に縛り付けられつつ移動し、いつの間にか口に張られたガムテープを剥がし、ロープを外し、フィリップに話しかけて彼を魅了してしまう。
戻って来たトリートは、自由に振る舞っているハロルドに激高し、さらにハロルドの財布にあった名刺の人々に電話したところ誰にも相手にされなかったと怒り狂っている。
どうやら、ハロルドの知り合いは誰もハロルドを心配しようなどとはしなかったらしい。
ハロルドはトリートに対して、身代金を取るなどということはせず、お金が欲しいなら自分と一緒に働けと提案する。
完全にブチ切れてナイフを取り出したトリートに対し、ハロルドは拳銃を向け、自分が何もかも教えてやると話しかける。
トリートではないけれど、果たしてハロルドが何者なのか、何を考えて自分を拐かそうとした見ず知らずの若者とその弟を抱え込もうとしているのか、全く説明はない。
そこのところは完全に置いておいて、話は(そして舞台は)完全にハロルドのペースで進んで行く。
そして、トリートもフィリップも完全にハロルドのペースに巻き込まれてしまったらしい。
しかし、それは多分「いい変化」だ。
ハロルドのやっている「仕事」というのが決して表の仕事ではないことが察せられるし、その仕事を手伝うトリートが果たして「まともに働いている」と言えるのか、さっぱり判らないけれど、とりあえず、トリートは少し落ち着き、身なりを整えるようにはなっている。
より変化を遂げているのはフィリップで、少しずつトリートのくびきから解き放たれて行くように見える。
トリートが、自分のためにフィリップが何も出来ないままにしていたのは見え見えで、そのフィリップにハロルドは一つずつ自信を与え、できることを増やす手伝いをしている。
それにしても、どうしてハロルドはこんなにもこの兄弟に対して親切なのか、本当にさっぱり判らない。
絶対にとんでもない悪事に手を染めている人物だけれど、やけに魅力的で、ついでに、演じている高橋和也も久々に見たらいい感じになっているなぁとしみじみした。
そう思うと、兄弟の方がやけに型にはまった感じに見えてしまうのが何とも勿体ない感じがする。
少しずつ仕事を任されるようになったトリートは、しかし、どうしても「自分を抑える」ことができない。
ハロルドは、バスの中で傍若無人な振る舞いをしようとした男を撃ちそうになったというトリートに、同じシチュエーションを作って自分を抑えることを練習させようとする。トリートは、トリートの考える「正義」に反する人や振る舞いが許せず、怒りを抑えきれずに気絶してしまい、そして家を飛び出して行く。
その機会を捕まえて、今まで外に出たことのなかったフィリップを外に連れ出すハロルドがまた理解出来ない。トリートを探しに行こうというのでもなく、ただ、トリートが許さなかった「外出」をフィリップに体験させるためであったようだ。
後になって思ったけれど、これは、フィリップに対してトリートなしでも生きていけるようにというハロルドの配慮だったのかも知れないと思う。
先にトリートが家に戻り、フィリップが本を読み赤いハイヒールを後生大事にしていたことに気がついて怒り狂っているところにフィリップも帰ってくる。
外出できたフィリップは、怒れるトリートに対して、「何も教えてくれなかった!」と不満をぶつける。
トリートは、もちろん、フィリップが自分だけを頼るように仕向けていた訳で、「養ってやってきたのは俺だ」という言い分も言い訳に聞こえて来る。
あと少しで逆転だ、という感じがする。
ふとトリートがハロルドの行方を尋ねると、歩いていたらそのまま歩いて行けと言われ、気がついたらハロルドは消えていたとフィリップが答える。
いや、ここでおかしいと思えと二人の兄弟にツッコミたいところだけれど、二人は全くそのことに「意味」に気がついていない。
そこへ、ハロルドが帰ってきて「俺はここを出て行く」と言う。上着がはだけると、その腹部は真っ赤な血に染まっている。明らかに撃たれたのだ。
最初はその傷をフィリップに見せないようにしていたハロルドだけれど、兄弟の家を出て行こうとしてソファに倒れ込んでしまう。
ハロルドは「励まそう」と言ってフィリップの肩をよく抱いていたけれど、トリートは決して触れさせようとしない。
ハロルドが死に瀕した状態でも頑なにトリートは触れさせようとはせず、そしてハロルドは死んでしまう。
そうなってようやく、トリートは初めてハロルドの手を握り、肩を抱かれようとし、慟哭の余り暴れそうになるトリートをフィリップが後ろから抱きかかえる。
多分、トリートが初めて「励まされた」瞬間だ。
そこで、幕である。
この後、家を出ようとさえしていたフィリップと、そしてトリートはどうなったのか。
二人で穏やかに暮らして行ったのか、やはり決別は避けられなかったのか、その後が少しだけ見たかったなぁと思う。
いい芝居を見た。
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