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2016.03.06

「乱鶯」を見る

2016年劇団☆新感線春興行 いのうえ歌舞伎《黒》BLACK「乱鶯」
作 倉持裕
演出 いのうえひでのり
出演 古田新太/稲森いずみ/大東駿介/清水くるみ
    橋本じゅん/高田聖子/粟根まこと/山本亨
    大谷亮介
    右近健一/河野まさと/逆木圭一郎/村木よし子
    インディ高橋/山本カナコ/礒野慎吾/吉田メタル
    中谷さとみ/保坂エマ/村木仁/川原正嗣
    武田浩二/藤家剛/加藤学/工藤孝裕
    井上象策/菊地雄人/南誉士広/熊倉功
    藤田修平/下川真矢/縄田雄哉/永滝元太郎
    関田豊枝/南口奈々絵/金田瀬奈/高嵜百花
観劇日 2016年3月5日(土曜日)午後5時開演(初日)
劇場 新橋演舞場 1階5列36番
料金 13000円
上演時間 3時間50分(35分の休憩あり)
 
 ロビーでは、筋書き(1800円)の他、Tシャツや手ぬぐい等が販売されていた。いつもの新感線公演よりかなり控えめなラインアップだ。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「乱鶯」の公式Webサイトはこちら。

 いのうえ歌舞伎の新作は、作に倉持裕を迎え、「BLACK」と銘打って、「大人でビターな味わい」の時代劇、という触れ込みである。
 劇団員総出演、最近のいのうえ歌舞伎は市川染五郎を主演に迎えることが多かったところに来ての古田新太主演と、新感線好きとしては嬉しい公演だ。
 回り舞台を駆使し、逆に映像は控えめで、クラシックな感じの舞台になっていたと思う。

 幕開けは、殺陣のシーンである。
 黒装束の盗賊達が、「御用」の提灯に追い詰められて行く。そこへ、古田新太演じる「鶯の十三郎」と呼ばれる盗賊の頭目が現れて手下達を助けようとしたものの、その手下の一人に裏切られ、大谷亮介演じる与力の黒部に鏖殺されそうになったところを予め仕込んであったどんでん返しでその場を逃れる。
 大音量の音楽から始まり、いきなり殺陣のシーンでの幕開け、これは一体何だ? という謎の提示と、掴みとして完璧だ。

 十三郎は血だらけの姿で、どこかの家の二階で寝かされている。
 粟根まこと演じる居酒屋のオヤジと、稲森いずみ演じる女将とが二人で十三郎を恐る恐る覗き込んでいる。心配半分、興味半分というところだろうか。
 十三郎が気がついたところへ、彼をこの家に運び込んだという山本亨演じる目付の小橋がやってくる。
 小橋は十三郎の正体を知っており、昨夜の盗みを語り、その捕縛に当たって黒部が盗賊と裏取引をしているのではないかという疑念を語り、ここで足を洗えば追求はしないと諭す。

 盗みに入った先で殺生は行わず、そのために1年も仕込みに時間をかけて毎年春に盗みを行うことから「鶯の十三郎」と呼ばれていることなど、十三郎の過去が語られ、それを助ける目付の「人柄」が示され、これまた上手い入り方だよなぁと思う。
 しょっちゅう咳き込む居酒屋のオヤジの先が長くない、ここで包丁を握ってはどうかと目付が語ることで、この先の十三郎の立ち位置まで語られる。
 源三郎という彼の新しい名前までがここで決まった。

 そして7年後、居酒屋「つるたや」は、女将と源三郎が切り盛りしている。繁盛しているようだ。
 盗賊のときの後ろで一つに結んだ髪型は格好良かったけれど、料理人のときの町衆の髪の鬘が何だか似合ってない! と古田新太の髪型をしげしげと見た。かなり前方の席だったし、この鬘の似合っていない感じが最後まで気になった。
 茶髪の鬘だったからかも知れない。

 居酒屋に、大東俊介演じる若侍がやってきて、「火縄の砂吉」と呼ばれる盗賊のことを誰か知らないかと大声で呼ばわる。正直といえば正直、芸がないといえば芸がない。
 この若侍が、自分の命を救った目付の息子の勝之助だと知った十三郎は、彼に火縄の砂吉捕縛の手柄を立てさせることで、目付への恩返しにしようと考え始める。
 その十三郎の考えを女将の加代は察知して止めようとする。加代も店の常連客も、十三郎の昔を知っているらしい。

 前半40分、休憩35分、後半1時間半という感じで、確か一幕はこの辺りまでだったか、橋本じゅん火縄の砂吉自身が、鶯の十三郎と知って彼に話しかけ、大店の呉服屋の絵図面を譲ってくれという話をするところまでだったか、とにかく、休憩前は後半の怒濤の展開に向けた準備、仕込みといった感じだ。

 後半、砂吉が盗みに入ろうという大店に十三郎が台所方として(砂吉の一味の引き込み役の振りをして)入り込み、さらに剣の腕も今ひとつなら全体として「勘違いしているけど真面目で憎めない」感じの勝之助が十三郎の弟子の振りをして(もちろん砂吉捕縛のために、引き込み役を探そうとして)入り込む。
 引き込み役を探そうという熱意だけはあるものの、自分が侍であることを隠そうとする意思はあまりなさそうな勝之助は、彼に手柄を立てさせようとしている十三郎からすると危なっかしいことこの上ない。
 この芝居の笑いは、勝之助の判っていなさと、十三郎演じる古田新太の「軽め」に行こうという飄々とした演技から主に生まれていたと思う。

 笑いということで忘れてならないのは、それは加代の死んだ亭主である勘助だ。
 後半、幽霊として舞台に現れる。粟根まことが幽霊を演じているだけで可笑しい。古田新太とだけやりとりができるという設定で、そのやりとりも可笑しい。
 勘助はしきりと十三郎を焚きつけて、加代と一緒になってしまえと言う。
 居酒屋の客たちも、「加代は十三郎のことが好きだよね」という感じで振る舞うし、十三郎が台所方として潜入したばかりの呉服屋の女たちも「加代は十三郎のことが好きだよね」という感じで振る舞う。
 「加代が」というところは、特に後半になって零れるように示されたけれど、十三郎の気持ちの方は伝わって来なかったなぁという感じがする。勘助の台詞で客席に伝えられるんじゃつまらないよ、とちょっと思ってしまった。

 呉服屋の絵図面を十三郎が書き上げて砂吉に渡したところで、やっと砂吉が盗みの決行日を明かす。
 それさえ判ってしまえば、十三郎が潜入を続ける理由もない。勝之助に自分の過去から全てを語り、勝之助も最初は訳が判らず次に激高したものの、最後には「自分のために命の危険を冒してくれた」と十三郎に感謝する。

 そして、勝之助が高田聖子演じる呉服屋の女将や清水くるみ演じる新しく入った若い女中らに自らの身分から、捕縛の手順まで説明する。
 呉服屋で黒部と偶然に再会した十三郎は、勝之助に「信頼した相手にだけ話せ」と忠告したけれど、実のところ、呉服屋で十三郎と話したことで黒部は何かを察知したらしい。
 その黒部から話を聞き、砂吉は盗みに入る予定を一日早め、翌日に備えて手薄にした呉服屋では、やすやすと盗みに入られてしまう。

 多分、呉服屋で黒部は十三郎を見て、それで「コイツは鶯の十三郎だ」と気がついたという流れだと思う。
 けれど、それがどうして「盗みの決行日を一日早める」ことに繋がったのか、よく判らなかった。
 元々、砂吉は源三郎と名乗っている十三郎が呉服屋に「いる」ことは承知している。そもそも、自分が潜り込むように依頼したのだから当然である。
 その砂吉と黒部は、元々組んでいる。
 であれば、黒部に十三郎が呉服屋に入り込んでいることを知られたところで、大勢に影響はないではないか。

 これが逆に、黒部が呉服屋で勝之助に会ったというのであれば話は別だ。
 お先手組組頭の勝之助が、勝太郎と名前を変え料理人の弟子として呉服屋に入り込んでいることを黒部が知り、十三郎の弟子として入り込んでいる以上、十三郎と勝之助は組んでいる筈だ。つまり、十三郎はお先手組組頭の味方であって、砂吉を裏切っていると気付いた、というのであればまだ判る。
 単に私に見落としや聞き落としがあったり、頭が回っていないだけなのかも知れないけれど、そこがどうにも腑に落ちずにもやもやした。

 私の「BLACK」の予想は、砂吉たちに自分の正体を気付かれた、決行日が早まる筈だと気付いた十三郎が呉服屋に取って返し、勝之助を助けることはできたものの自分は再び傷だらけになってつるたやに運び込まれ、しかし今度は加代に看取られて死んでしまう、という展開だった。
 そうしたら、血だらけ包帯だらけでつるたやの2階で十三郎が寝かされているという場面だけは最初と最後で同じになるし、なかなか収まりがいいじゃないかと思ったということもある。
 それが、十三郎は間に合わず、勝之助は砂吉一味に殺されてしまう。
 えー! と思った。BLACKがそちらに転ぶとは予想外だった。

 もう一つ、もやもやしたのは、勝之助の死後、つるたやで十三郎と小橋(父)とが話すシーンだ。
 小橋(父)は、十三郎に感謝の言葉を述べていたけれど、そんなに達観していていいのかという気がするし、十三郎だって勝之助が死んでしまったことについてそんなに淡白でいいのかという気がして仕方がない。
 大体、十三郎が後悔すべきところは、「弟子として潜入したいという勝之助の依頼を引き受けたところ」なのか。
 どちらかというと、結果として嘘の決行日を伝えてしまい、わざわざ手薄にした呉服屋に砂吉等を押し入れさせ、たった一人で詰めていた勝之助を死に至らしめてしまったところなんじゃないかと思う。
 この二人のやりとりがどうにももやもやする。

 判りやすく描くことに抵抗があったのかも知れないけれど、この辺りの判りやすさ、最後に伏線をピタッと嵌めてハッピーエンドにしろアンハッピーエンドにしろ破綻させないところが新感線の魅力だと思っている私にとって、この終幕あたりの展開は、やっぱり何だかもやもやする。もっとすっきりさせてよ! と思ってしまう。

 最後は、店の常連客や小橋(父)、加代も祭の花火を見に出かけ、十三郎だけが「昔なじみが来る」と店に残る。
 一人残り、刀を取り出す十三郎に、幽霊になったオヤジも好きなようにしろと言い残して去る。
 そこへ、黒部が一人、スイカをぶら下げてやってくる。
 そこで暗転だ。

 だからどうして黒部が、十三郎の招きに応じてここへ一人で来るのかが判らない。
 すでに敵対していることはお互いに知っている二人だし、黒部は十三郎が元盗賊だと知っているのだから、手下を動かして捕縛することもできる筈である。
 なのにどうして呑気にたった一人でスイカをぶら下げてやってくるのか、そこがまた釈然としない。
 釈然としないけれど、果たして黒部と十三郎の対決はどうなったのか、その様子を全く見せることなく、黒部がつるたやに入る前に暗転で終わらせたのは格好いい終わり方だし、余韻のある終わり方だなと思う。

 見ているときは、楽しんで「やっぱり新感線はいい!」と思って見た。
 初日のためか結構台詞の言い間違いがあったのもご愛敬の範囲、という感じがする。
 でも、こうして振り返ってみると何だかもやもやするなぁと思う。
 新感線のお芝居は公演中も変わって行くことが常だし、もう1回、できれば公演期間の終わり近くで見てみようかしらと思った。

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コメント

 はにー様、コメントありがとうございます。
 そして、初めまして、ですよね?

 なるほど、黒部はお先手組の動向を知っていただけで、十三郎の正体には気がついていなかったという流れなんですね。
 そう教えていただいて、すっきりしました。ありがとうございます。

 でもでも、やっぱり最後の辺りはもやもやしますよね。
 最後のもやもやは私の誤解じゃないですよね?

 新感線のお芝居は公演中も変化することがままありますが、今回はどうだったんでしょう。気になります。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2016.03.24 23:06

いつも感想を楽しく拝見しています。
後半のモヤモヤ部分など、同感です。

ちょっと気になったので、そこのところだけ。

黒部は源三郎のの正体に最後まで気づいてないです。
気づいたのは、最後のお加代との会話で源三郎の過去を知ってから。
(つまり火縄の砂吉と話したあと)
決行が早まったのは、十三郎がどうとかじゃなくて、押し入る日取りがどういうわけかお先手組に漏れていることがわかったから。
北町奉行の与力である黒部は、お先手組が待ち構えていることを内通している砂吉に教えます(場面はないけど、これが鶴田屋で密会していた理由ですね)。
なので、砂吉は押し込みの日取りを1日早めた。
この件は、じゅんさんがちゃんとセリフで言ってます。
「(バレてたから)あわてて早くした」って。

この時点では、押し込みの日にちをお先手組に知らせたのは誰か、砂吉に確信はなかったけれど、十三郎が駆けつけた時に「やっぱりお前だったか!」って言っているので、この時、アレとコレがはっきり繋がった感じですかね。

あと細かいことですが、十三郎は丹下屋の図面は前から持っていたんですね(どこに持っていたんだ?というツッコミはありますが)。
自分たちが盗みに入る予定だったから、そしてその時すでに逃げ道の細工までしてあった。あの座敷でウロウロしていたのは、仕掛けがちゃんと動くかどうか確かめていたのかと・・・・・。

投稿: はにー | 2016.03.24 10:59

 あんみん様、お久しぶりです&コメントありがとうございます。

 あんみんさんのコメントを読んで、なるほど、勧善懲悪で悪役の側にドラマというか「そういう裏が!」みたいな背景がなかったから物足りなさを感じたのかしらと思いました。
 それはそれとして、単純な私は楽しんで見ていたのですが(笑)。

 高田聖子さんのお話は初めて知りました。
 そうすると、劇団公演に出演されるのは2本に1本とかになっちゃいそうですよね。それも寂しい気がします。

 粟根さんのブログでしたか、劇団員最年少は中谷さとみさん40歳だと書いてありましたし、「変わる」のも当たり前、という気もいたします。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2016.03.13 23:13

こんばんは、昨日観ました。
う~ん、なんだか安直な展開で先が見えてつまらなかったです。
ビターを期待したんですが、テレビ時代劇みたいでしたね。
『はっ、そんなカラクリが!』と言うのが無かったですよね。
1等席、\13000はキツいかな~?
殺陣も青息吐息で、『あ、ヨイショ』な感じでしたし。
高田さんはオポンチはもう出ないそうですので、ちょっと劇団の転換期かも知れません。
致し方無いですよね。

投稿: あんみん | 2016.03.13 19:38

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