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2016.04.30

「嗚呼いま、だから愛。」を見る

モダンスイマーズ「嗚呼いま、だから愛。」
作・演出 蓬莱竜太
出演 川上友里 (はえぎわ)/太田緑ロランス/奥貫薫
    古山憲太郎/津村知与支/小椋毅/生越千晴/西條義将(以上モダンスイマーズ)
観劇日 2016年4月29日(金曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場シアターイースト RB列8番
料金 3000円
上演時間 1時間50分
 
 ロビーでの物販は、あったかどうかも含めてチェックしそびれてしまった。

 終演後、当日券の販売だったか、席の案内だったかで不手際があり開演時間が遅れて申し訳ありませんでしたというご挨拶があった。確かに、いったん通路に案内された方が「こちらの最後列に空席があります」と移動を促され、結局前から3列目くらいの席に着席するところを見かけたから、多分そのことを言っていたのだと思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 モダンスイマーズの公式Webサイトはこちら。

 サイトやチラシなどで「セックスレスのお話です」と書いてあったので、そうなんだろうなと思って見に行ったら、本当に割と真っ向勝負でセックスレスの話だったので驚いた。
 そういえば、チラシの謳い文句と舞台の内容がぴったり一致していることは意外と少ないので、何だか意外だったように思う。

 初モダンスイマーズなので、実は劇団員がどなたかなのかもよく判っていないまま見た。
 生越千晴が新人ということだから、彼女が入る前は男優のみだったんだろうか。何だかMONOっぽい。
 舞台は細長くダイニングキッチンにお茶の間に寝室(というかベッド)と、マンションの一室という感じに作られていて、三方を客席に囲まれている。客席がない一面には壁があり、「*時間前」といった感じで時々文字が映し出されている。
 白っぽいおうちのセットで、若夫婦の家、という感じだ。

 開演してすぐ、川上友里演じる多喜子が説明してくれて(彼女の説明やモノローグで話が転がされるシーンが割と多い)、舞台の端っこに置かれたグレーの直方体や三角錐等々が、古山憲太郎演じる彼女の夫の一孝の趣味である鉄道模型の「家々」だと判った。
 判ったけれど、その説明が入る前は「墓?」と思っていた私である。グレー一色だし、特に家っぽい形をしている訳でもないし、灰色の直方体とくればやはりイメージはお墓である。
 「セックスレスの話である」という宣言ともバッチリ合っているではないか。

 多喜子と一孝夫婦のセックスレスの話が真ん中に据えられていて、多喜子が子供の頃に増水した用水路に突き落とされたという事実と記憶、奥貫薫演じる多喜子の姉で女優として成功している慎子に一孝が惚れていたということもあるし、慎子がそもそも「美人だ」というところにも多喜子のわだかまりはある。
 多喜子が「唯一、友人と呼べる」と言う、大田緑ロランス演じる美幸はフランス人とのハーフでハルマゲドンを信じているという、ある意味で「はぐれている」女性ではある。「ハルマゲドンが近いから子供は作らない」と言っていた彼女が実は妊娠5ヶ月で、そのことを多喜子にはなかなか言えなかったという事情もある。
 多喜子はイラストレーターの仕事をしていて、生越千晴演じる千恵子がアシスタントに付いているけれど、アシスタントの方が絵が上手いし、自分の仕事を取られたし、千恵子が描いた似顔絵があまりにも自分とは違うと多喜子はかなり怒っている。

 大体、多喜子は夫とのセックスレスを気にしてはいるし、夫と姉との接近を心地よくは思っていないけれど、その多喜子自身が担当編集者と不倫しているのだから、多喜子はもう八方ふさがりの状況である。
 それってセックスレスを問題にしている場合ではないのでは? という気がする。

 舞台上の時間は、「*時間前」と壁に映し出されることで、通常通りに流れてはいない。
 その「*時間前」がいつから「*時間前」なのかが今ひとつ掴めなくて、時間の流れに付いて行くのが大変だった。
 何となく、作・演出の蓬莱竜太自身も「セックスレス」というテーマと何もないところで向き合うのがしんどかったり、気恥ずかしかったりして、そのしんどさや気恥ずかしさがこの芝居のストレートなのに見ているこちらが気恥ずかしさを感じない雰囲気を作り上げているような気がする。

 それはもちろん、多喜ちゃんを演じた川上友里の声の説得力と、負のスパイラルに陥っている感じと、「私は信仰の世界に生きています」とやっぱり生きづらさを感じていること認めようとしない美幸、我が儘放題やっているようで、実は妹に大して「問題はあんたが不細工なことです。でもそれはあんたとは関係のない話です。あんたは結婚していて、こんな似顔絵を描いてくれる人がいて、それで愛されていないなんてことはない」とキッパリと言い渡せる姉との対比が生む雰囲気でもあると思う。
 そこに、生越千晴の生硬な感じが上手くアクセントになって生きていると思う。

 どうしてこう、女性陣の内緒話はあけすけで、男性陣の内緒話は情けないのか。
 なのに、多喜ちゃんはどうしてこんなに生きづらいのか。
 セックスレスで始まったお話は、いつしか、女子の生きづらさに到達しているようにも思う。

 そこで幕が降りていたら私としてはストンと落ちたのだけれど、「私を用水路に落とした同級生の男の子達の中に一孝がいた」と多喜子が語り、その多喜子に一孝は、大学で授業の後にネタをやろうと言い出し、緊張することもなくやってのけ、自分は付いて行っただけなのに拍手をもらった、その教室の前に飛び出して行く背中が格好良かったと語る。
 その一孝の思い出で多喜子が救われたという訳ではないと思う。
 だったら、この二人が語るそれぞれの「結婚相手」は一体何なのだろう。これで何となくセックスレスが解消し、仲直りしたように見えるその機微が私には判らなかった。

 そして、さらに話はそこで終わらない。
 行方不明になっていた千恵子が多喜子の部屋に現れて、夫婦の様子を眺めたところで終わる。
 そこに現れた千恵子はいつの千恵子なのか、何故千恵子が現れたのか、うーんと思っていたら幕だった。

 最後がちょっともやもやしているけれど、ガッと集中してしまうお芝居だった。
 ナサケナイ男たちのモダンスイマーズをまた見てみたいと思う。

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コメント

 はにー様、コメントありがとうございます。
 そして、今回も私の疑問にお答えくださってありがとうございます。

 パリのテロ事件の「*時間前」だったんですね・・・。
 17時間前とかは見た記憶があるのですが、カウントゼロは全く見落としておりました。
 美幸さんに電話がかかってきて、慌ててテレビのスイッチを入れたときに0時間が映し出されていたのだとすると、全く壁には注目しておりませんでした・・・。
 正面から見ていたら気がついていたと思うのですが(と言い訳)。

 またどうぞ遊びにいらして(そして色々と教えて)くださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2016.05.01 18:45

お久しぶりです。
『乱鶯』の時に、コメントさせていただきました。
もう、すみません、こんな時だけ出て来て。
あの「**時間前」という表示の件ですが、あれはパリのテロ事件へのカウントダウンですね。
私は、最初、アシスタントちゃんの失踪に関連する何か〜かと思ったのですが、0時間は、テレビに映し出された「あの事件」でした。そして、その時に多喜ちゃんが感じた、ある衝動へのカウントダウンでもあるんでしょうね。
蓬莱さんって「女」描くのがうまいな〜と毎度感心します。

投稿: はにー | 2016.04.30 21:45

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