「たとえば野に咲く花のように」を見る
鄭義信 三部作 Vol.2「たとえば野に咲く花のように」
作 鄭義信
演出 鈴木裕美
出演 ともさかりえ/山口馬木也/村川絵梨/石田卓也
大石継太/池谷のぶえ/黄川田将也
猪野学/小飯塚貴世江/吉井一肇
観劇日 2016年4月16日(土曜日)午後1時開演
劇場 新国立劇場小劇場 1C5列2番
料金 6000円
上演時間 2時間10分
ロビーではパンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
今、感想を書こうと自分のブログを検索して、10年前にこのお芝居を見ていたことが判った。
ところが、自分で書いた感想を読んでも、どんなお芝居だったのか全く思い出せないところが情けない。
やっぱり、記録するって重要よねと思う。
配役は新たになっている。大石継太だけは別役で出演している。
舞台装置などは覚えていないけれど、当たり前のことながら、ストーリーは2007年10月に見たときと変わらない。
ただ、ダンスホールで働く女性3人の職業が、女中からダンサーに変わっているようだ。
女性3人の職業を変えたことによって何が変わって何が変わらなかったのか、正直に言ってよく判らない。
それよりも、少し前に「焼肉ドラゴン」を見ていて、そこから「三部作」として連続上演されていることにより、このお芝居にも朝鮮の人々や歴史、日本と朝鮮との関係が深く関わっているという知識があるということが、見ている私の側に大きな違いを生んでいたように思う。
もっとも、このお芝居ではともさかりえ演じる満喜が朝鮮から来たことはなかなか語られない。
「向こうには帰れない」「帰る場所もない」といった台詞で、彼女と黄川田将也演じる彼女の弟がもう故郷には帰れないということが割と早い内に伝えられるのみだ。
逆に言うと、前回見たときは、山口馬木也演じる近所に出来た新しいダンスホールのオーナーは満喜を追いかける、村川絵梨演じるあかねは婚約者である康雄を追いかける、石田卓也演じる康雄のダンスホールで支配人を務める直也はあかねを追いかける、でも、満喜は戦争に行ったきり戻って来ない夫を待ち続けているという四角関係をベースに、満喜たちダンスホールで働く3人の女性のたくましさが描かれているように思っていた。
でも、今回は、火炎瓶を投げ込んだ少年や満喜の弟たちの葛藤や、朝鮮戦争から起きた朝鮮特需、海上保安庁の掃海艇が朝鮮戦争の船上で機雷撤去に当たっていたことなど、日本人と朝鮮人との関わりに焦点が当てられているように感じた。
少年や、満喜の弟、池谷のぶえ演じる珠枝と恋仲である海上保安庁で掃海艇に乗り込んでいる男などが話の中心であるように感じられる。
これは、「三部作」ということを意識した演出の違いかも知れないし、単なる私の気持ちの違いかも知れない。
そうなってくると、感想を書くのも難しいなと思ってしまう。
その「難しいな」「下手なことを書けないな」という曖昧な感情や躊躇いは、多分、何かの象徴であるように思う。
その部分をとりあえず横に置いておいて感想を書くと、結局、「希望」というのは子供のことである、みたいな描き方はちょっとイヤだなぁと感じた。
「焼肉ドラゴン」のときも、ラストシーンには妊婦さんが登場していた。そのことが確かに未来へ続く時間や希望を感じさせてくれたけど、2作品続くと、「他に希望はない訳?」と言いたくなってしまう。
今回は、ダンスホールの女性が3人とも妊婦姿で登場したから、余計に複雑な気持ちになった。
この舞台では「OVER THE RAINBOW」の曲が効果的に使われている。
特にダンスホールで働く女性3人は、いつもいつも、「虹の彼方に」自分の願いを叶えてくれる誰か、自分が幸せになれる国があると夢見ているように見える。
もちろん、一番夢見がちな鈴子も含め、彼女たちは現実的に振る舞っている。男どもよりもよっぽど目の前の現実を見つめている。
それでも、やっぱり彼女たちは「自分が幸せになる」という夢だけは後生大事に抱えているように見える。
そして、珠枝が結婚して妊娠し(いや、順番が逆だったようだけれども)、ダンスホールを離れようというとき、大石継太演じるマスターがコーヒーを入れ、満喜の弟と結婚した鈴子や、満喜も参加してブレイクタイムというとき、満喜が「OVER THE RAINBOW」のレコードをかけ、珠枝が彼女に深く頭を下げたとき、何だかうるっとしてしまった。
いいシーンだったなぁと思う。
珠枝は幸せを掴んだけれども、康雄は(恐らく)朝鮮戦争に行っており帰って来られるかどうかも判らない。
その状況で満喜が自分を励まし、餞の曲をかけてくれたことに対する自然で深い感謝の気持ちだったのだと思う。
確かに笑いのシーンもあったし、ダンスホールだから踊るシーンもあった。けれど、決して派手な舞台ではない。
色々と言いたいこともある。
けど、いい舞台だった。
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