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2016.05.14

「太陽」を見る

イキウメ「太陽」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/伊勢佳世
    盛隆二/岩本幸子/森下創
    大窪人衛/清水葉月/中村まこと
観劇日 2016年5月14日(土曜日)午後1時開演
劇場 シアタートラム  J列15番
上演時間 2時間15分
料金 4500円

 二日前に亡くなった演出家の蜷川幸雄が演出した「太陽2068」も含めると、3回目の「太陽」である。
 ロビーでは、イキウメの過去公演のDVDや、「太陽」の小説版などが販売されていた。

 改めて、蜷川幸雄氏のご冥福をお祈りいたします。

 イキウメの公式Webサイトはこちら。

 作・演出の前川知大がどこかで、戯曲を書いて演出して上演することを繰り返してブラッシュアップする(というのとはちょっと言い方が違っていたようにも思う)ということの意味を語っていたのを聞いたことがある。
 その内容や「言わんとするところ」が定かではないけれど、でも、「太陽」が少しずつ変化し進化していることを感じることができた。
 そして、多分、今回の「太陽」はこれまでの2作とはちょっと違った「太陽」になっていると思う。

 初演の劇団公演「太陽」も、蜷川幸雄演出の「太陽2068」も見ている。
 基本的な設定は、初演の「太陽」に近い。(私の感想はこちら。)
 配役も、生田親子が有川マコトと加茂杏子から、中村まことと清水葉月に変わった以外は一緒だと思う。
 それでも見ているときは、蜷川幸雄氏の訃報に接したばかりということもあって、「太陽2068」を思い起こしたりしていた。(私の感想はこちら。)

 ストーリー展開等は前回、前々回の感想に譲ることにする。
 3演目の今回、一番変わっていたのは、ラストシーン近くの部分だと思う。
 初演と再演では、ノクスになった娘の結が訪ねて来て、その余りにも「自分の娘」とは違う物言いや考え方に接した生田が男泣きに泣いた後で、若い頃にノクスになった友人で医師である金田から、「ノクスは病だ」「ノクスの出生率は低いままだ」「ノクスは太陽へのアレルギー(それは死を招くほどのアレルギーだ)を克服できていない」ことを注げていたと思う。
 当時書いた感想にもそう書いてある。

 でも、今回は、金田が生田に「ノクスは病だ」と語り、生田が「最初からそう言っている」と返したその後で、生田はノクスとなった娘の結と会い、そして号泣していた。
 まず、金田と生田のシーンにやられた。
 演じている中村まことと安井順平の声が大体良すぎると思う。私は「役者は声だ」と思っているので、この二人の揃い踏みは贅沢すぎる。贅沢すぎて、何だか説得力が失われちゃうんじゃないかと思うくらいだ。

 その二人のやりとりの後の号泣である。
 生田は、元々「ノクスは病だ」と思っていて、知っていて、それでも娘の結をノクスにしたいと思っていたし、娘にノクスになるよう説得していた。
 でもその「知っていた」は知識として知っていただけで、ノクスになった娘がどう変わってしまうのか、変わってしまった結は本当に自分の娘の結と言えるのか、そういうことは判っていなかったということになるのかと思う。

 自分の判断、娘の判断は、結局、娘を「病」にしただけだったんじゃないかという後悔と、そういう理屈を超えて「変わってしまった娘」への決別の涙だったのかとも思う。
 自分でもよく判らないのだけれど、この生田が号泣するシーンで、こちらも涙が止まらなかった。芝居を見てこんなに派手に泣いたのは久しぶりな気がする。
 ただ、このシーンでの「結の変化」は初演のインパクトに再演も今回の上演も敵わないと思う。初演で結を演じた加茂杏子の「変化」はとても鮮やかだったと記憶に残っている。

 この会話の順序を変えるだけで、少なくとも私の涙の量はかなり違ったと思う。
 会話の順序が変わることで、登場人物の「知っていること」と「知らないこと」が変わり、登場人物の「思うこと」が変わり、慟哭の意味が変わる。
 そして、生田の慟哭の意味が変わっただけではなく、その後、金田が上着を脱ぎ、「ここでおまえと見る夜明けを最後の夜明けにしたいと思う」と言って座り込んでしまう、その意味も変わると思う。
 この場合は、金田が「自分のしたこと」の意味を思い知ったかどうかが変わっていると思う。

 私が気がついて、以前にも自分で感想に書いていたから気づけただけで、きっと他にもたくさんの「変えた部分」があって、その変えたことにより戯曲に、舞台に、様々な変化が生じていたのだろうと思う。
 今回は「変わった」からそういう風に改めて考えたけれど、実際のところ、劇作家は常にそうした作業をしている訳で、改めて、物語を作る、世界を作る、戯曲を書く、舞台を上演するって何て緻密なことなんだろう、何て恐ろしいことなんだろうと痛感した。

 そして、3演目の今回は、終わり方がオープンになったと感じた。
 結論を出していないと言えばいいのか。生田と純子はこの先どうするのか、そもそも一緒に暮らすのか、生田だけが沖縄に行くのか、金田は本当に「朝日を浴びて」しまうのか、ノクスの森繁とキュリオの鉄彦が二人で旅に出るのか、これらのことがわざと明確には語られなくなっていたと思う。

 見ているときは、そんなややこしいことを考えていた訳ではなく、ただただ、舞台の上で起こっていることしか考えられない、つい現実の何かについて頭の隅で考えてしまったりさせない、そういう集中できる舞台はやっぱりいい、見終わって何だか憑き物が落ちたかのようにすっきりした気持ちを味わった。
 次の再演での変化もぜひ見届けたいと思う。
 そう言っている割に、映画は見ないままになりそうだし、小説もまだ読んでいない。小説は読もうかどうしようか、もの凄く迷っている。

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コメント

 あんみん様、コメントありがとうございます。

 再演の「太陽」をご覧になれなかったのですね。
 それは残念。
 ぜひ、映像でご覧になってくださいませ。そして、保存版にしてくださいね。

 私も、伊勢佳世さんと岩本幸子さんの退団に驚きました。
 でも、男優だけになったイキウメがこれからどういう感じになるのか、その変化のその一を楽しみに待ちたいと思います。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2016.07.02 20:47

こんにちは、お久しぶりです。
本日はコペンハーゲンとエリザベートのマチソワで、只今新幹線中です。

太陽の再演は日程の都合が合わず、
また初演が素晴らしく(特に加茂さん!)再演を観るのに積極的になれずに見送りました。
が、後出しで伊勢さんと岩本さんの退団を知りショック…大後悔…
ですが昨日、早速のBS-NHK 7/3深夜に放送と知り、ラッキーだと立ち直りました(笑)
録画保存で初イキウメ作品の再演を堪能します。
コペンハーゲンの演技合戦も非常に楽しみです。

投稿: あんみん | 2016.07.02 10:06

 アンソニーさま、コメントありがとうございます。

 あらら、そうでしたか・・・。
 戯曲や演出が公演中に変わったというより、私の記憶違いの可能性の方が高いような気がいたします。
 えーっと、それくらい再演の今回の方が私の涙腺が刺激された、という趣旨だとお汲み取りくださいませ。

 私はどうやらこのまま映画は見ずじまいになりそうです。
 小説も迷っています。
 小説を読むなら、その前に戯曲で読んでおきたいような気もしています。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
 映画をご覧になったらその感想もお聞かせください。

投稿: 姫林檎 | 2016.05.27 22:53

こんばんは、姫林檎様。
暑くなって来ましたねー。

すっかり安井さんのファンになってるので
本日も満足して帰りました!


さて、生田と金田のシーンですが。
初演と同じになっていたような気がします。

再演後半で演出に変更があったのでしょうか。
観た直後にこちらに来て読みながら帰る。というのが私のパターンなのですが笑
そこの順番でしばらく混乱してしまいました(^_^;)

本も読みたいし映画も見たいです。
映画担当の友人に太陽の話をしたら、
ノーマークだったようですが興味を
持ってくれて見に行くっぽいです。
私も、いけますように。

投稿: アンソニー | 2016.05.26 23:54

 みき様、コメントありがとうございます。

 車椅子に乗り、酸素吸入を受けていらっしゃりつつ演出している姿を写真で拝見してはいましたが、蜷川幸雄さんがお亡くなりになったニュースは衝撃でした。
 確かに、舞台は「観た人の記憶にしか残らない」のかも知れませんが、「観た人の記憶には残る」のだと思います。
 そのときその場所の「空気」とともにあるからこその舞台ですし、だから舞台のDVDは「舞台」ではなく「舞台のDVD」でしかないのだと思います。
 それでいいし、それだからこそ舞台はいいと思います。

 そして、「太陽」の同じ回をご覧になっていたのですね。そうしたらどこかで(案外、お手洗いとか!)ですれ違っていたかも知れませんね(笑)。

 小説は、ロビーの物販コーナーでも販売されていて、買おうかどうかちょっと迷い、結局買わずに帰って来てしまいました。
 小説には舞台の上の登場人物の「心情」が書いてあると思うのですが、それが自分が思ったのと余りにも違っていたらショックかもとか思っちゃいまして。
 別に、違っていたっていいんですけれども。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2016.05.15 16:28

こんにちは。同じ時間に観ていました。いつの日かお会いできるでしょうか。
私は井上ひさしと蜷川幸雄のコンビの舞台が大好きでした。井上ひさしが亡くなった時はガックリ落ち込みましたが、劇作家は亡くなっても戯曲は残ります。演出家と俳優がいれば上演はできます。実際、今でも井上ひさしの作品はコンスタントにこまつ座で上演されています。
でも、演出家が亡くなったら何が残るのでしょうか。舞台は生(なま)です。演じるそばから消えて行きます。観た人々の記憶にのみ残って、もう2度と観ることはできません。本当に残念です。もっとたくさん観ておけばよかったと思います。
ところで、前にコメントで宣言(笑)したとおり、映画「太陽」見ました。全体的に「太陽2068」の映画化、という感じでしょうか。神木くん人気なのか、サービスデイのせいか、意外と(ゴメンナサイ)混んでいて、しかも若い人が多くてびっくりしました。映像で見ると目を背けたくなるような、ショッキングな場面もあり、苦手な人は要注意です。神木くんの鉄彦がワーワー・ギャーギャー喚きすぎて、やっぱり鉄彦は大窪くんがいいなと思いました。
小説もあるんですね。いつか読んでみたいです。

投稿: みき | 2016.05.15 12:48

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