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パルコ・プロデュース公演 「メルシー!おもてなし」~志の輔らくごMIX~
原作 立川志の輔
脚本・演出 G2
出演 中井貴一/勝村政信/音尾琢真/YOU
阿南健治/明星真由美/サヘル・ローズ/陰山泰
関秀人/有川マコト/高橋珠美子/高橋克明
観劇日 2016年6月11日(土曜日)午後2時開演
劇場 パルコ劇場 N列10番
上演時間 2時間10分
料金 8700円
ロビーではパンフレット等が販売されていた。
そろそろ、現パルコ劇場で観劇できる日々も終わりに近づいてきた。
ネタバレありの観劇は以下に。
パルコ劇場の入口に「美珠商店街」のアーチが作られていた。なかなか凝っている。
また、開演前に、パルコ劇場への感謝の言葉(なんだと思う)を主演の中井貴一が語っていた。
幕開けは、音尾琢真演じるいかにも切れ者っぽい外務省の職員と、サヘル・ローズ演じるいかにも有能そうな通訳の女性との電話のシーンである。
フランスから来た特使の夫人と娘が帰国当日のスケジュールを変更したいと希望し、その特使との関係を重視している大臣等々から直々の命令が出て、特例でその夫人と娘の希望に応えることになった、ついては通訳をお願いしたいという仕事の依頼の電話だ。
この外務省職員が「田舎だから!」と言い切る訪問先がどこなのかという疑問も残しつつ、とりあえず必要な情報を「仕事の依頼電話」という形で伝える上手い導入だと思う。
舞台は一転、中井貴一演じる商店街の会長の吉田と、You演じるみちこ夫婦の家に変わる。
二人は吉田薬局を営んでいるらしい。
勝村政信演じる魚屋と吉田が二人で役員を務めた歳末大売り出しの福引きで1等を7つも出してしまった顛末や、フランス特使の家族がやって来ることで知名度を上げ、その名誉挽回を果たそうという意気込み等々も語られる。
ついでに間違いファックスが届き、振られた女性が自殺を仄めかす内容だったことから、最初は「間違いファックスが届きました」とファックスで連絡しようという割と普通の反応だったところが、その女性から「盗み読むするなんて!」という回答ファックスが届いたことから、ほとんど小学生みたいな悪口合戦になる過程も可笑しい。
こういう、次から次へと話が派生して行く感じは落語っぽいのかしらと思う。
落語をきちんと聞いたことがないので単なるイメージだけれど、落語は登場人物も場面転換も自由自在な感じがする。話をするうちにどんどん横道に逸れて行ってしまうのは、落語ならお手の物だけれど、それが舞台になると「横道に逸れた」感が出てしまう。
井戸端会議の感じを再現するのは落語の方が得意なのかも知れない。
場面転換もやはりそうで、この舞台でも、例えば福引きの様子を回想しているシーンでは、紅白の幕をバサッと下ろし、その前だけで芝居をして表していた。
もちろん、会話だけで回想して実際の福引きのシーンは演じないという選択肢もあるのだし、舞台だからそういうシーンはできないということではない。しかし、映像や落語なら一瞬で可能な場面転換が、舞台ではやはり「変えました」という印象を与えてしまうことになる。
さらに、舞台の場合には、「今は回想シーンですよ」ということを伝えるのも実は難しいのかも知れない。
落語を舞台にするというのは、かなり難しい、色々な工夫が必要なことなんだなと思う。
その一方で、開演前の中井貴一のアナウンスの中にもあったけれど、落語は落語家一人で演じているけれど、この舞台では10人以上の役者さんが出演している。
それぞれの役者さんは一人一役を演じていて、当たり前だけれど、中井貴一がしゃべっていればそれは吉田薬局主人がしゃべっているんだなと判る。
落語では10人以上の登場人物をどうやって演じ分けていたのだろうと思う。
もしかして、舞台化するに当たって判りやすくするために登場人物を増やしたりしているんだろうか。
そもそもフランス特使のご家族は、雑誌で見かけた「美しいお人形」を見るために美珠商店街に来たところ、美珠商店街にいる人形師のおじさんは「頭師」で、そのお店にはお人形の「頭」しか置いていない。
お人形の顔だけが並んでいる姿を、「お雛様」を見ることを楽しみにして来た5歳の女の子に見せる訳には行かない。
さぁ、どうする、というところが物語のクライマックスである。
クライマックスだけれど、個人的には「それがそんなに問題か?」と思ってしまった。
いや、ここにいるのはお人形の「顔」を作っている職人で、お店には「顔」しか並んでいない、お人形自体はない、そう説明しちゃいけないのか? と思ってしまうと、どうも舞台上の外務省職員が完全に壊れてしまうのも、商店街の面々が深刻そうに話し合うのも、何だか嘘っぽく見えてしまう。
恐らくは、5歳のお嬢さんに「お雛様」を見せたいと言われて安請け合いしちゃってましたとか、そういう事情が間に挟まるのだろうけれど、その説明がないものだから、何だかなぁと思ってしまった。
中井貴一のべらんめえ調が珍しく、江戸っ子っぽい(成田空港近くの千葉県内だから江戸っ子ではないのだろうけれど)やりとりも可笑しく、「日本らしい」と見学先に選ばれた和菓子屋と豆腐屋と仏具屋の面々もすっとぼけていて可笑しい。
ずっと笑わせてもらった。
でも、同時に、このクライマックスに納得がゆかないせいで、「偉そうにしてるし、状況判断状況判断といいながら、結局は上役の機嫌と自分の出世だけを気にしている、使えない小役人」をくさして終わるのかという気持ちにもなってしまった。笑いの取り方として余りにも使い古されたパターンじゃないかと思ってしまう。
もちろん、この物語としては、吉田薬局店主の「神社の階段をひな壇に見立て、商店街の面々がお雛様っぽい格好でフランスにちなんだものを持ってお見送りする」というアイデアを実行し、その様子がフランス特使の夫人とその娘の心を打つ、ついでに外務省職員の心も打つ、というハートウォーミングなエンディングを迎える。
ラストに向けたクライマックス以降のあれこれに今ひとつピンと来なかったのは確かだけれど、ハッピーエンディングが王道だと思っているのでこの終わり方には全く文句はないし、かなり笑わせてもらった。
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コメント
アンソニーさま、コメントありがとうございます。
はい、アンソニーさんのこちらへのコメントは今日初めて拝見しました(笑)。
落語は一度も見ていない、聞いていない私です。
寄席も一生に一度は行ってみたい場所の一つなのですが、なかなか実現できていません。
志の輔落語も談春さんの落語も評判を聞くにつけ、ぜひ一度はお聞きしたいものだと思いますが、やはりチケット入手は難しいのですね・・・。
こちらも「一生に一度は行ってみたい」シリーズに心の中で加えようと思います(笑)。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2016.07.15 22:52
姫林檎様、こんにちは。
お久しぶりです。
お元気ですか?
これ、笑いましたね。
そしてやはり志の輔落語行きたいなと思いました。なかなか取れなくて。
と、コメントしていたつもりが。
出来てなかったですね(^_^;)
投稿: アンソニー | 2016.07.15 12:10
サボテン様、コメントありがとうございます。
そして、私の間抜けな間違いのご指摘をありがとうございます!
うっかりしておりました。
早速、直させていただきました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
取り急ぎ、お礼まで。
投稿: 姫林檎 | 2016.06.14 07:09
いつも楽しく読ませていただいております!
で、気になってしまいまして・・・
「汚名挽回」ではなく
「汚名返上」もしくは「名誉挽回」であります。
もちろんご存じでいらっしゃるとは思いつつ。。。
いやしかし、アクトシアターで本家「志の輔らくご」を堪能した直後でしたので
なおさら楽しめました!
投稿: サボテン | 2016.06.13 13:19