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2016.06.26

「筋書ナシコ」を見る

ラッパ屋 第42回公演 「筋書ナシコ」
脚本・演出 鈴木聡
出演 岩橋道子/ともさと衣/木村靖司/俵木藤汰
    松村武/谷川清美/岩本淳/浦川拓海
    青野竜平/林大樹/福本伸一/弘中麻紀
    大草理乙子/宇納佑/熊川隆一/武藤直樹
観劇日 2016年6月25日(土曜日)午後7時開演
劇場 紀伊國屋ホール  D列19番
上演時間 1時間55分
料金 4800円
 
 ロビーでは、過去作品の上演題本やTシャツ等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 ラッパ屋の公式Webサイトはこちら。

 私としては鉄板のラッパ屋である。
 何も文句はない。

 チラシには、このように書いてあった。

*****
 「筋書ナシコ」はご承知の通り(さっき僕が決めたのだが)、「この先の筋書きが見えない、或いは決まっていない状態および人物」を指す言葉である。たとえば「日曜日なのにスケジュールは真っ白。何しよう・・」というのは身近な筋書ナシコだ。「経歴を詐称してしまった。番組はなくなった。明日からどうすれば・・」というのはコメンテーター関係の筋書ナシコである。「人口が減り続ける一方、老人は増え続けるのでありまして・・」というのは年金関係の筋書ナシコだし、「ヘイ!壁つくっちまいなよ、どうなるかは知らねえけどな!」というのはトランプ関係の筋書ナシコである。つまり、そこもあそこも筋書ナシコ。いま世界は筋書ナシコなのだ、という芝居を書いても良いのだが収拾がつきそうもないので、できそうな範囲でやる。
*****

 この説明で、特に書いてはいないけれど、一番最初に名前が書かれていたから岩橋道子が主演とくれば、内容は自ずと想像できようというものである。
 そして、全く悪い意味ではなく、想像の通りだった。それが楽しい。相変わらず、励まされる。

 当日に配られるフライヤー(でいいのだろうか)には、このように書いてあった。

*****
 ここにはさまざまな人々が、そしてさまざまな問題が集まってきます。出版不況、格差、人は見た目が9割問題、メディアの聞き、高齢者婚活、東京と地方、年齢詐称疑惑、舛添さん、センテンススプリング問題、ダメージジーンズ問題・・。大変とっちらかっていますが、これは僕のせいではなく、現代社会がとっちらかっているからです。このとっちらかった世界で、人生の筋書きを見失った梨子が、とっちらかってもがきます。
*****

 いきなり脚本・演出でこの文章を書いた鈴木聡にたてつくようなことを書くと、梨子が筋書きを失ったのは別に今に始まったことではないように思われる。
 「ここ」というのは、フリーのライターである梨子に発注してくれているビッグバレー出版がパーティーを開いているレストランの、その裏側である。
 裏側といっても厨房とかそういうことではなく、飲食店ビルの一角で、各飲食店への入口が面した広場のような空間である。風見鶏が回り、簡単な椅子とテーブルのセットが置かれている。
 それぞれの店舗で起こっていることは判らない。
 それぞれの店舗からちょっと「抜け出した」人々が交差し、休み、知り合う。そんな場所である。

 まずこの場所設定が上手い。
 出版社のパーティにだってさまざまな人が集まるだろうけれど、そこに集まるのは出版関係の人ばかりだし、内輪の話ばかりになれば、観客のこちらに伝わって来る情報は少なくなってしまう。
 しかし、この「ちょっと裏手」の場所であれば、抜け出してきた人々が内緒話をし、知らない同士が紹介され、久々に顔を会わせる人と再会なんてこともある。

 梨子は、唯一自分に発注してくれている出版社が倒産の危機に直面していることを知り、「付き合っている」と思っていた20歳近く年下の若者から自分よりちょっとだけ若くて自分が彼に紹介した同じライターと付き合っていることを告白され、「恋と仕事」を一編に失う危機に陥る。
 恋の方は見栄もあって割とあっさりと見送った梨子だけれど、高齢者の婚活パーティに紛れ込んで、自分の人生を「男」で解決しようか、それとも金持ち限定というそのパーティの出席者から出版社への融資を取り付けようか、その両面作戦を咄嗟に敢行する。
 いや、そのなりゆきはおかしいから、と思うけれど、見ているときはそれほどおかしいとも思わなかったのだから不思議だ。

 確かに、この日この場所で梨子は恋と仕事を失う危機に陥るけれど、だから「筋書きが失われた」訳ではないように思う。
 いやいや、例えビッグバレー出版からの仕事が引き続き発注され、若い恋人との付き合いが続いていたとしても、それは「筋書きがある」とは言えないんじゃないの、と思う。
 ただ、見ないようにしていたことが顕在化しただけなのだ。

 ビッグバレー出版の社長が進めていた融資話はご破算になり(そこに、梨子の元夫が関わっている)、専務が進めていた新規事業の話は実は詐欺だと判明し(そこに、梨子の母親が関わっている)、その二つの「起死回生策」がどちらも沈んだことで、ビッグバレー出版はパーティで倒産を発表せざるを得なくなる。
 しかし、婚活パーティ出席者の「金持ちのおじさん」二人が、「そんな結末は面白くない」と言い、「金持ちは現金を持ち歩いているんだ」と胸を張って、無期限無利子でビッグバレー出版に3000万円を出資し、彼らは4人で「マイ・ウエイ」を歌い上げる。

 こうして後になって振り返ればご都合主義も極まれりといった展開だ。
 でも、この金持ちのおじさんと梨子の父親が友人同士で、しかも亡くなった友人の法事を和食屋で開催していたり、その父親と梨子が10年ぶり以上で再会したり、詐欺の片割れを担ぐのと同時に婚活パーティを荒らしまくっていた女性が梨子の母親だと判明したりといった、大団円とは言えないまでも「そうだったのか!」という偶然の塊を経た後では、何だか普通のことのように思えてくる。
 ご都合主義じゃなくて「縁」だよね、と思うのだ。

 とりあえず仕事は確保した梨子は、同じくフリーランスでライターをやっている雅美に自分の筋書き候補を三つあげてみせる。
 父親の面倒を見る。元夫とよりを戻す。そして最後の選択肢が、貧乏だけど楽しい友人(雅美のことだ)と付き合ってがんばって行く。
 梨子はこの三つ目の「筋書き」を選び、女二人は飲み直しに出かけるべくスキップで退場する。

 私の筋書きなんてあるかしら、と思う。そんなものは見たことがないような気がする。
 「筋書きがない」と思っている梨子の方がずっと「筋書きがある」人生を送っているのかも知れない。
 つい最近、知り合いの70歳の方から「70歳の自分がこんな人生を送っているとは思わなかった」というメールをいただいた。その方は、私も20年後にどうなっているかは全く判らないですよ、とおっしゃる。
 20年後の自分について、ちょっとは考えた方がいいのかも知れないと思った。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 都合が良すぎるラストですね、確かに。
 そんなに都合良く、ポンと3000万円からの投資をしてしまう(しかも回収の見込みは非常に低い)お金持ちなんていないから! とは思います。
 いらっしゃるなら、ぜひ私の近くにいていただきたい(笑)。
 そこに都合良くヒーローが現れるところがファンタジーでおとぎ話なんだわと思っておりました。

 梨子さん達がいい人過ぎますかね。
 うーん。
 私は、梨子さんは薄々終わっていることに気がついていたし、慶応・イケメン・御曹司という条件の揃った若者に疲れてもいたんじゃないかしらと思います。
 理恵ちゃんに対して寛大すぎるというのは全く同感ですけれども。
 ドロドロして余計にみじめになりたくないというのもあるんじゃないかしら。
 いかがなものでしょう。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2016.06.27 23:06

私も観ました。
絶妙のシチュエーションで、無理なくいろんな人たちが集っていましたね。
やたらみんながナシコさんと繋がりがあるのは笑えました。

でも、私としては、ちょっと都合がよすぎるラストだった気がします。
それと、ナシコさんや雅美さんがいい人過ぎるかな、と。
私が嫌な人間だからかもしれませんが、自分だったら、自分の友人と、たった今まで彼氏だった男が付き合っているのは納得いかないし、何にも持っていない自分に比べて友人が、若い彼氏をゲットしてたら、手放しでおめでとうは言えないかな、と思ったんです。
そこはもう少し、ドロドロしてもいいんじゃないかと。

もちろん面白かったんですよ!
ただ、少し不満が残りました。

投稿: みずえ | 2016.06.27 14:27

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