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「BENT」
作 マーティン・シャーマン
翻訳 徐賀世子
演出 森新太郎
出演 佐々木蔵之介/北村有起哉/新納慎也/中島歩
小柳/石井英明/三輪学/駒井健介/藤木孝
観劇日 2016年7月23日(土曜日)午後1時開演
劇場 世田谷パブリックシアター 2階B列31番
上演時間 3時間(15分の休憩あり)
料金 8800円
ロビーでは、パンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
ナチスの強制収容所での同性愛者の話、という雑すぎる知識しかないまま見に行った。
それだけしか認識していなかったけれど、それだけで重い内容の舞台であることは容易に想像でき、逆に2階席で良かったという風に思った。1階の前方の席で見たら、耐えられなかったんじゃないかという気がする。結構緊迫したシーンで物を落とす人がいたけれど、その緊迫感に耐えられなかったんじゃないかと勝手に思ったりした。
舞台セットはシンプルだ。床面は全体に黒っぽく、背景は何も描かれておらず(多分)、場面場面で空の映像が映し出されたりしていた、と思う。
舞台の中央にランダムに積んだ低めの階段のような段差があり、その全体が回り舞台に載っている。そのそれぞれの段に、場面によってソファが置かれたり、大きな石の塊が置かれたりする。
何というか、天井が高いことを最大限に使っているという感じがする。
強制収容所を舞台にしたお話だと思っていたので、幕開けがベルリンのアパートという設定だったことに驚いた。
そして、ポスターやチラシからして、北村有起哉が重要な役を演じている筈なのに、なかなか舞台上に現れない。
佐々木蔵之介演じるマックスの相手は、中島歩演じる「ダンサー」のルディだ。
マックスはかなりダメダメな奴みたいで、お酒を飲んでは記憶を無くし、クラブで周り中の男達に声をかけては「お持ち帰り」もしてしまうらしい。よくもまぁ、ルディはこういう男を相手にしているものだと思う。
この日、マックスとルディの家にナチス親衛隊の男達がなだれ込み、マックスが連れ帰ってきたウルフという男を殺してしまう。
何が何だか判らないままルディの勤め先であるクラブに逃げたマックスたちは、そこの主人である新納慎也演じるグレダ(彼は女装はしているが同性愛者ではないらしい)から、その男は粛正されたナチス親衛隊のナンバー2の「彼女」だったと知らされる。
よくもそれだけの厄介事を自分で呼び込むものだとしか言い様がない。
ここで、豊臣秀次だったのに、と思ってしまうところが我ながらマヌケである。
ちょうど7月17日放送の「真田丸」で新納慎也演じる豊臣秀次が自害するシーンを見ていて、それがかなり印象的なお芝居だったので、つい思い出してしまった。
グレダはクラブの歌手でオーナーでもある人物で、女装はしているけれど本人曰く「妻子がいる」男だ。かなり深いスリットの入ったドレスを着こなして、こう言っては何だけど綺麗な足をしていた。登場シーンは僅かだったけれど、こちらも印象深かった。
グレダから事情を聞いたマックスは、ルディを連れてドイツ国内中を逃げ回る。
そして、2年がたち、伯父に頼んで書類を偽造しアムステルダムに出国する算段をどうにか付けようとしていたところ、ついにルディともどもナチス親衛隊に捕まってしまう。
護送される列車の中、ルディは「眼鏡をかけていた」ことを理由に目を付けられてしまい、その様子を見ていた北村有起哉演じるホルストに「生きのびたかったら知らない振りをしろ」と言われ、痛めつけられたルディを殴るよう命じられたマックスはついにルディを殺してしまう。
記憶が定かではないけれど、この辺りまでで休憩が入ったと思う。
強制収容所では、ユダヤ人は黄色い星を付けさせられ、同性愛者はピンクの三角形を付けさせられている。
ホルストはピンクの三角形、マックスは「取引をした」結果、黄色い星を付けている。強制収容所では、ピンクの三角を付けた人々がもっとも「下層」という扱いを受けている。
ここから後の展開は、正直に言って、強烈すぎて書きようがないというのが本音だ。
実際の場面が演じられることはほとんどなく、その強烈な彼らの体験はほとんどが、マックスとホルストの会話で語られるのみだ。
休憩後は、ほとんど「二人芝居」の状態である。
二人は、「シジフォスの岩」の作業を毎日12時間繰り返している。
正確には、マックスがお金を使ってホルストを同じ仕事に呼び寄せたのだ。
そこで、目を合わさないようにお互い触れたりしないように、見張りから目を付けられるようなことにならないよう慎重に慎重に、二人は会話し続ける。
顔も見ず、触れたりもせず、離れた場所で直立不動の状態で愛を交わすことすらする。
強烈すぎる。
そして、俳優のお二方がともに鍛え上げられた身体であることが重要なんだと思う。そこにセクシュアルな感じはない。だからこそいいんだと思う。
二人の関係は微妙だ。
裏切り者と思い、愛を告白し、人を愛することはできないと返し、咳が止まらない相手のために薬を手に入れる。
そして、秋頃から咳が止まらなかったホルストは見張りに目を付けられて高圧電流が流れる鉄条網の向こうに投げられた帽子を拾うよう命じられる。
それはつまり、死刑宣告だ。
ホルストは、マックスにだけ判る「愛」を語り、そして、鉄条網に自ら触れると見せかけてその命じた男に殴りかかり、銃殺されてしまう。
ホルストの遺体を「処分」するよう命じられたマックスは、彼を「死体を捨てる穴」に放り込み、しかし、少ししてその穴に自ら飛び込んでホルストの上着を脱がせて来る。
私は「俺はお前の分まで生きのびてやる」という終わり方だと思っていたので、マックスがホルストのピンクの三角形の付いた上着を着たことにまず驚いた。
そして、マックスは、鉄条網に自ら突っ込んでしまう。
鉄条網に触れる寸前、照明が落ちて舞台が終わる。
もう、とにかく強烈だったという言葉しか浮かばない。
ルディの名前を思い出せなくなっていたマックスは、ホルストの名前を忘れたくなかったのか。
ホルストのいない「シジフォスの岩」には耐えられないと思ったのか。
怒りだったのか。
判らない。多分、ふとした時に思い出して考えてしまうんじゃないかという気がしている。
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