「入り口色の靴」を見る
四獣(スーショウ)×玉造小劇店(タマショウ)「入り口色の靴」
作・演出 わかぎゑふ
出演 四獣:桂憲一/植本潤/大井靖彦/八代進一
観劇日 2016年7月23日(土曜日)午後6時開演
劇場 シアター711 E列6番
上演時間 1時間45分(3分の休憩あり)
料金 4000円
明日が千秋楽ということで、パンフレットとスリッパ(いずれも500円)を売り切ろうと物販に力が入っていた。
タイトルにちなんで、靴は高かったのでスリッパを作ったそうだ。4人のテーマカラーに合わせて作り、それぞれがサインを入れたということで、「自分の色」の売り込みが激しい。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台はルーマニアの、元「宿屋」らしい。
八代進一演じる「マリー」がお人形の洋服を編んでいる。そこへ、玄関をドンドンと叩く音が聞こえ、すっかり怯えたマリーは2階に声をかけて、植本潤演じるレイを呼び、様子を見に行ってもらう。
そこに現れたのは桂憲一演じるカールで、彼はマリーの主治医だ。
この辺りが困るところなのだけれど、四獣の4人は花組芝居の役者さんたちだから、普通に女性も演じることがある。彼らでなければ、男優が女性を演じている時点で「おかしいぞ」と思うところだけれど、八代進一が演じていてもそれだけでは「ん?」という感じにならない。だからこそ、過剰に怯えるマリーの様子や、マリーを心配して語られる会話が初っぱなに展開されるのだろう。
マリーは、実は息子のマリウスが母親の死を目撃したショックで現れてしまった二重人格の人物だ。
そして、そのマリーと革命の同志だったロシア人のレイが引き取って面倒を見ているらしい。カールはドイツ人で、マリウスの主治医である。箱庭療法を実施しているらしい。
翌朝、レイが書いた小説をアジアで出版したいという香港生まれの日本人編集者笹崎がやってくる。えらく軽いノリの編集者で、止められていたにもかかわらずとっとと宿屋に姿を現してマリーと鉢合わせし、彼女を失神させてしまう。
何というか、笹崎はちょっと昔に漫画になったような「典型的な日本人観光客」を具現化したようなキャラである。
4人が揃った後はもう、ミステリーの編集者である笹崎が泣いて喜ぶ「謎が謎を呼ぶ」展開である。
笹崎はカールとレイのそれぞれから「ミステリーの編集者に身をやつした秘密の使者」扱いされる。二人ともこの「宿屋」でマリーが持っていたのだろう何かを探しているようだけれど、それが見つかっていないらしい。「もうちょっと待ってくれ」という話が出たりする。
笹崎は、これまた日本人っぽく、よく分からない話をされているのに曖昧な返事をする。おいおい、それは危険だろうと思うけれど、あまり頓着はしていないようである。
マリウスは、マリーに戻ったり、ゲオルグと名乗る今まで現れたことのない第3の人格が現れたりと混乱が深まっているらしい。
物語の背景に1989年のルーマニア革命(東欧革命において唯一武力による政権打倒が行われた革命だそうだ)があり、恥ずかしながらその辺りの知識も記憶も曖昧な私にはなかなか取っつきにくいところがあった。
マリーの設定も、チャウシェスク大統領の元愛人で、その立場を利用して革命のときには革命軍を案内するなどその先頭に立っていた、ということになっている。
それもあったのか、開演前には役者さん二人が登場して「場をあっためようと思います」とポケモンGOの話をしたり、芝居の途中で3分間の休憩があったりした。
この「3分間の休憩」がよく判らないといえば判らなくて、うーん、何のためにあったんだろうと思う。「この3分のためにこの衣裳を買いました」とそれぞれのテーマカラーに合ったシャツを着て、この芝居のために作っただろう歌を4人で披露していた。
そしてまた、この歌が上手いのだ。
「入り口色の靴」という芝居のタイトルと歌詞の内容が被っているところも上手い。
マリウスが本当に久しぶりに(らしい)マリウスに戻り、マリウスがマリーが「チャウシェスク大統領の愛人」であったと知っていたことが判明する。
ここが今ひとつよく判らなかったのだけれど、それがきっかけになって、とりあえずレイの誤解は解ける。レイは笹崎が「中国革命に関する指示を伝達しに来た仲間」だと思い込んでいたようだ。
そして、主治医としてマリウスに付き添っていた筈のカールだけれど、二人がどうも同性愛のカップルであるらしいことも示唆される。
たまに、1日に2本の芝居を見たときに、設定やテーマが不思議と繋がりを持っていることがある。何だかちょっと不思議な気がして、今考えるべきことなのかも知れないと思うのだ。
そしてまた、ここも今ひとつどういうことだかよく判らなかったのだけれど、カールとレイは電器屋のニコラスのところに出かけて行き、笹崎とマリウスが宿屋に残される。
ここで笹崎とマリウスが語ったことが、マリウスに何か疑念を生じさせたらしい。
夜中にこっそり家捜しをしていたカールは、気分が悪くて階下に降りてきた笹崎のことを相変わらず誤解していて、自分がSS親衛隊の側にいた人間であること、国外脱出するための身分を偽造した書類を頼んでいることなどを話してしまう。
元からカールを怪しんでいたマリウスや、そしてレイにもその会話を立ち聞きされ、マリウスは「マリーに近づくために僕を利用したね」と詰り、レイはカールを拘束しようとする。
その混乱の中で、レイがカールを撃とうとして、カールを庇ったマリウスを撃ってしまい、マリウスは死んでしまう。
ここで幕かと思いきや、実は彼らは役者であり、架空の劇団(名前も言っていたけど忘れてしまった)に新たに日本人の俳優が加わり、その日は1日がかりのエチュードが演じられていたのだと種明かしがされる。
そういえば、芝居の途中で音響がおかしくなったり、照明がおかしくなったりもしていて、それはこのラストへ向けた伏線だったらしい。
大どんでん返しである。
マリーがソファに座って変死を遂げていたとか、ここがトランシルヴァニア地方でドラキュラ伝説の本拠地だとか、大雨による土砂崩れでこの村に至る道が封鎖されてしまっているとか、全部が「設定」だったという訳である。
大どんでん返しではあるけれど、何故か「おぉ!」という感じがしなかった。どうしてだろう。
必然性がなかったから、なんだろうか。
劇団が各国から俳優を集めることや、ルーマニア革命をエチュードに取り上げることに事情のようなものが用意されていたら印象がかなりちがったような気もする。
もっとも、各国の役者たちがそれぞれの用を果たしにはけてしまった後、一人残された日本人の俳優(笹崎ではない名前を名乗っていたと思う)は、マリウスが「仕掛け」だと語っていた、突然に開く窓や強い風にはためくカーテン、大きく揺れる照明や人もいないのに鳴る階段の音に怯え、そこで幕である。
単純に好みの問題として、これは劇団のエチュードでした、という設定ではない方がすっきりしたかなと思う。
そんな贅沢な注文をしたくなってしまうのも、各所で遊びつつ抜群の呼吸と安定感を誇る4人と、わかぎえふ作・演出という組み合わせだからこそというのはもちろんである。
それにしても、みなさん(わかぎえふ、桂憲一、八代進一の各氏)白髪が増えたなぁというのは余計な感想である。下の年代が育っていないなぁなどとこれまた余計なことを考えてしまうのは、見ているこちらも歳を取ったということなんだろうなと思う。
イメージは、同窓会である。
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