「オセロー」を見る
子供のためのシェイクスピア「オセロー」
作 W・シェイクスピア
翻訳 小田島雄志
脚本・演出 山崎清介
出演 伊沢磨紀/山口雅義/戸谷昌弘/若松力
河内大和/加藤記生/大井川皐月/山崎清介
観劇日 2016年7月16日(土曜日)午後1時開演
劇場 あうるすぽっと A列13番
上演時間 2時間
料金 5000円
ロビーではパンフレットの販売があり(値段はチェックしそびれた)、これまでに使われた衣裳の試着コーナーもあり、何だか楽しめるようになっていた。
開演前のイエローヘルメッツも健在である。今日は、ボーカル役の大井川皐月本人が歌っているようにも見えたけれど、実際のところはどうだったろう。「まちぶせ」を知っている観客がどれだけいたかというのも気になる。
ネタバレありの感想は以下に。
今年の子供のためのシェイクスピアシリーズはオセローだ。
イァーゴーを演じたのが山崎清介だというところにまず驚いた。演出も担当している山崎清介がメインの登場人物を演じることは滅多にないのではなかろうか。
そして、シェイクスピア人形の今回の役回りは、旗持ちだった。本来はイァーゴーが旗持ちらしいけれど、今回のイァーゴーは旗持ちを持つという「旗持ち持ち」と呼ばれていた。
もちろんそれだけではなくて、シェイクスピア人形はイァーゴーの心の声を語るという役回りも持つ。
もう一つ、珍しいと思ったのは、クラッピングの出番が少なかったことだ。というより、ほとんどなかったのではなかろうか。
代わりにということか、音響の音楽がいつもよりも目立っていたような気がする。少し、寂しい。
シンプルな机と椅子を出演者たちが組み合わせてセットにしてしまうところや、名前付きの役を演じていないときには全員が黒いマントを着るところなどはいつも通りだ。
作り手には辛いことなのかも知れないけれど、「お約束」という枠は、観ているこちらにはやはり安心だ。
正統派「オセロー」から、正統派とは言えないだろう「オセロー」まで、様々なバージョンの「オセロー」を見ているような気がする。だから、私としては珍しいことに粗筋も登場人物たちの運命も全て知っている。
それなのに、この「オセロー」はいつも以上に観ているのが辛かった。
観ているときにも、どうして今回はこんなに観ているのが辛いんだろうと考えていたのだけれど、つまるところはとにかく山崎清介が上手いということに尽きると思う。
何というか、特に憎々しげに演じている訳ではないのに、とにかくこちらの不安を煽るようなイァーゴーなのだ。
イァーゴーが嫌な奴で、自分を出世させなかった上司を逆恨みして陥れるような奴で、しかもその復讐劇が滅法上手く行くということは、何回も見ているのだからもちろん知っている。
それでもやっぱり、今回のイァーゴーは直視できない感じだった。
最前列のど真ん中という席ももちろんあったと思う。顔の表情一つ、衣装の模様から唾が飛ぶ様子までばっちり見えるし、役者さんたちの息遣いも聞こえて来る。
近すぎて舞台全体を見るのは中々難しいけれど、本当に眼の前、すぐそこにイァーゴーがいる。これは大きい。
あと、河内大和演じるオセロー将軍が物凄くいい人に見えたのもいけなかったと思う。
元々が、オセローはこの主従二人の対比の物語とも言えると思う。そこへ来て、この公演の二人を見ていると、とにかくイァーゴーの腹黒さが際立つ。
パッと見たところは、スキンヘッドももちろんそのインパクトを大々的に補強していて、いかつい感じがある。
でも、「オセロー」というこの人は実は気の弱い人なんだろうな、公明正大に生きてきたけど自分の容貌にコンプレックスを抱えて生きてきたし、それは「将軍」と人に呼ばれて崇められるようになった今も変わらないんだろうなという風情が滲み出ている。
この人を騙しちゃうんだ、という同情心がふつふつと湧いてくる。
このオセロー将軍がイァーゴーに手もなく騙されて、嫉妬に狂い、妻を殺し、自殺してしまう。
その破滅して行く過程を見なくちゃいけないのが辛かったし、そういう人物を、特に自分の得になる訳でもなく、ただ復讐のためだけに陥れるイァーゴーを見ているのがとにかく辛かった。
自分でも理由はよく判らないけれど、観ている私の心持ちやコンディションみたいなものも影響していたと思う。
とにかく舞台を直視するのも辛かったので、加藤記生が演じていた、唐突に登場した割に結構美味しいところを持って行った巫女さんや、キャシオーの相手であるビアンカの存在にほっとした。
最後には出世するキャシオーが一応は唯一の例外と言えるかも知れないというくらいで、主要登場人物全員が不幸になるこの舞台で、彼女が演じた役の存在にかなり救われた。
本当にオセローを観て自分がこれほど参るとは思わなかった。
ラストシーン近く、通常はイァーゴー自身が言う「今このときより口を開かない」という宣言を、「ココロ」という役回りでもあったシェイクスピア人形が言うことで、何か特別な感じが出ていたように思う。
どう特別かということは自分でもよく判らないけれど、シェイクスピア人形がそう言ったときに、「あぁ、違う。」と思ったことはよく覚えている。
そして、これは今ひとつ記憶が定かではないけれど、オセローという芝居では、最後の最後にイァーゴーの自殺を示唆していただろうか。子供のためのシェイクスピアシリーズ独自の解釈のようにも思う。
伊沢磨紀、戸谷昌弘、山口雅義といった「子供のためのシェイクスピアシリーズ」常連組の安定感はもちろん言うまでもない。もう何もかもがパーフェクトといった感じがする。
若松力ももう「常連」と言ってもいいのかも知れない。「若い」という印象だったけれど、確認したらもう40歳近いと知って驚いた。要するにこちらが年々、年を取ってきているということだとしみじみする。
ほぼ毎年観ている子供のためのシェイクスピアシリーズを今年も堪能した。
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コメント
いっしー様、お久しぶりです&コメントありがとうございます。
イエローヘルメッツは日替わりだったんですね。知りませんでした。
選曲は「昭和」ですね〜。お子様たちにはきっと新鮮かつ古くさく聞こえているんでしょうね。
いっしーさんも、イァーゴーを正視できない感じを受けられましたか。私のコンディションのせいではなかったのですね。
こちらもまた、子供が見たときにどう感じたのか、聞いてみたいものです。
来年は「リア王」とのこと。
随分前のことだと思いますが、何かのインタビューで、子供のためのシェイクスピアシリーズでは、有名な作品とあまり有名ではない作品を交互に上演しているという話を読んだような記憶があります。
今回は、2年連続で「有名」な作品の上演ということになりますね。
観客がなかなか入らないということなのかしらと余計なことを考えてしまいました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2016.07.23 22:56
大阪での公演が始まったので、観てきました。イエローヘルメッツのセンターは山口雅義で曲は「勝手にしやがれ」でした。毎回かわるんですね。
イアーゴーが正視できない。というのが、わかりました。何気なくオセローを陥れていく様子がたまらなかったです。最後の場面は訳本にはなかったので、オリジナルですね。イアーゴーは逮捕後の動きは書かれてないんです。脚本でエンディングらしくしたんでしょうね。
来年は「リア王」の予定だそうです。4大悲劇が続きますが、楽しみです。
投稿: いっしー | 2016.07.23 20:18