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2016.08.20

「イヌの日」を見る

「イヌの日」
作 長塚圭史
演出: 松居大悟
出演者 尾上寛之/玉置玲央/青柳文子/大窪人衛
    目次立樹/川村紗也/菊池明明/松居大悟
    本折最強さとし/村上航/加藤葵/一色絢巳
観劇日 2016年8月20日(土曜日)午後1時開演
劇場 ザ・スズナリ F列10番
上演時間 1時間50分
料金 4500円
 
 明日が千秋楽ということで、劇場は満員、客入れにかなり手間取っている様子だった。
 ロビーではパンフレットが販売されていたけれど、値段等はチェックしそびれた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 阿佐ヶ谷スパイダースの芝居を、ゴジゲンの松居大悟が演出した芝居である。
 といっても、私は阿佐ヶ谷スパイダースは「アンチクロックワイズ・ワンダーランド」を見たことがあるだけだし、ゴジゲンの芝居は見たことがない。
 どんな内容のお芝居か知らず、実はチラシも見た記憶がなく、「玉置玲央と大窪人衛」の名前に釣られて見に行った口だ。

 だから、のっけからの嫌な感じの展開に思わず歯を食いしばった。
 何というか、ダメダメなのに、やけに強気で、我が儘で、人をコントロールしようとして、お金を持っておらず人のお金を自分のもののように思っており、どころか、人を人とも思っていないような男が出てくる。
 まぁ、本当に嫌な感じである。
 その辺の道で見かけたら、絶対に避けると思う。

 その男はもちろんのこと、連んでいる仲間の男たちもダメダメな感じである。
 というか、そもそも「男たち」という感じではない。現実の世の中にそんな人間はいないのかも知れないけれど、そこに成熟した人間ではない。
 自分の好きなように思う通りに他人を殴ったり馬鹿にしたりして圧倒しようとし、言いなりにさせようとしている。ほとんどケモノという感じだ。

 ナカちゃんと呼ばれる男が、ヒロセと呼ばれる男を自宅の裏手にある防空壕に連れて行く。
 そこには、彼が15年間にわたって監禁してきた4人の人間がいる。彼らは小学5年生の頃、ナカちゃんの「何か気に入らないんだよな」というただそれだけの理由で防空壕に閉じ込められ、「外は大気汚染が酷く、街も店もほとんどなく、地獄のようだ」という言葉を信じて、防空壕の中で暮らして来たらしい。
 ヒロセは最初「これは犯罪だよ」と比較的常識的なことを言い募るけれど、結局のところ、ナカちゃんの強引かつ暴力的なやり方に負けて、ナカちゃんがどこかへ「金儲け」に出かけている間の彼らの世話を引き受けることになる。

 最初に出てきたカップルの男や、ナカちゃん、何故か警察官をできている男や、最初に出てきた女が「新しい彼氏」と連れて来た男など、もう「確かにこういう人がいるんだろうな」と思いつつも、生理的に受け付けない感じだ。
 止めてくれ! と思う。
 ただ気に入らないからって、人間を15年間も防空壕に監禁して、そのことに何の良心の呵責も覚えないってそんなことがおあるのかと思う。
 これが、「国家」とかではなく、単なる個人の話であるところがまた、ある意味で恐ろしい気がする。

 ここまで嫌悪感を持ってしまうというのは、役者さんたちの醸し出すリアリティが確かなものだということなんだろう。
 といって、監禁されていた側に対してシンパシーや同情を覚えるかというとそういうことはない。彼らは彼らでやっぱりどこかおかしな感じを醸し出している。
 防空壕の中で何故か育っている茸なのかアスパラみたいなものを食べてはトリップしている。
 その場空気を定めているのは、実は「キクサワ」と呼ばれている、言われてみればちょっと暗い感じの女のようだ。少しずつ誰もが彼女の意向を気にし、気を使っている。彼女の側には「そうさせている」という自覚はないようだし、求めてそうしている訳ではなさそうだ。

 こうした登場人物たちの中ではヒロセが比較的まともな人に見えて来て、彼が200万円と引き換えに「世話をする」」ことになった彼らのもとに食料を運んだりしつつ、ナカちゃんとの約束を破って自分の家に居候している男を連れて来たり、その彼女を結果的に防空壕に案内してしまったりする。
 ついでにキクサワに誘われてその気になったりする。もっとも彼女に見境はなさそうな感じがする。
 やっぱりみんなおかしいんだよ! と見終わった今は思うけれど、見ているときは、その平衡感覚みたいなものがどんどん狂ってくるような気がした。

 最後、ナカちゃんは彼らを外に出すことを決め、同時に彼らをさらし者にして儲けることも考え始める。
 「逮捕されるんだぞ」とここは哄笑するヒロセに対し、「俺がそんなことになる訳がない」と強気なのは、全てをヒロセにおっかぶせようとしているのだとこちらには伝わるけれど、ヒロセには判っていないようだ。
 そうしてナカちゃんたちが、「下準備」に出て行ってしまった後、4人と意気投合した男がヒロセに手榴弾を渡し、「これで入り口を塞いでくれ」と言う。「このまま彼らが出て行くことがいいこととは思えない」と言う。自分もそして防空壕に残るつもりだ。

 そもそもはヒロセが「彼らを外に出そう」と興奮していたのに(その興奮は、多分、ナカちゃんが商売にしようとして失敗した、防空壕に生えていて4人がトリップするのに使っていた謎の植物を食べたためだと思われる)、こう言われて、割と簡単に抵抗して見せただけで、手榴弾で入り口を塞ぐことを請け負い、「ナカちゃん達のことのことは任せろ」とちょっと格好いいことを言う。
 しかし、実際のところ、ラストシーンは、懐中電灯を手にして防空壕を案内するナカちゃんと、それを手伝っているヒロセという絵面だ。

 手榴弾の爆発で防空壕の入り口がふさがるのではなく崩れ、しかし、5人の遺体は見つかっていないらしい。少なくとも、ナカちゃんのお客への説明はそうだ。
 そして、まんまとお金儲けの手段としたナカちゃんと、結局はそれに引きずられたヒロセ、という構図のようだ。
 だから、どこまでも悪運強いナカちゃんと、どこまでもその男に引きづられるヒロセという構図はいつまでたっても、どんなにヒロセが格好良く啖呵を切っても、変えることはできないらしい。

 そして、ヒロセは、防空壕の中で、5人が楽しげに遊ぶ声を聞く。
 それはもちろん幻聴だろう。
 しかし、彼らの笑い声は何度も何度も聞こえて来る。そこで幕である。

 比較的まともかつかなり弱気な人物を演じた玉置玲央がちょっと意外な感じだった。声を張る役の方が「らしさ」が出るなぁと思うけれど、しかし、これもまた役者の引き出しの一つなんだと思う。
 一方の大窪人衛は、イキウメでの役柄に割と近いところを演じていたのではないかと思う。こちらはもうちょっと意外性のあるところを見てみたい。

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コメント

 みき様、コメントありがとうございます。

 あら、本当にニアミスですね。
 私の斜め後ろの席に深沢敦さんがいらっしゃいました(笑)。

 みきさん、「よくわからなかった」という記憶があるなんて凄いです。実は私は、自分が書いた感想を読んでも丸っきり思い出せませんでした・・・。

 このお芝居、自分でも中途半端な感想の書き方終わり方だなと思っているんですが、まだよく判らない、という感じです。
 もうちょっと時間がたてばこなれてくるかなぁと思うのですが、そうしているうちに忘れちゃうと大変なので、とにかく「今の感想」をアップしました。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2016.08.20 23:07

同じ時間に見てました!しかも私はH7だったのでニアミスでしたね。前の席に深沢敦さんがいました。
私が1本だけ見たことがある阿佐ヶ谷スパイダースも同じ芝居でした。でも私はさっぱりよくわからなかったという記憶しかないです。
で、今日の芝居ですが。前半は、なんでお金を払って時間をつかって、こんな思いをしに来たんだろうと、正直後悔しました。あの柴奈緒の絶叫するセリフが耳障りで、堪らなかったです。
後半はマインドコントロールというのでしょうか、人の心をいいように操る中津と、明夫を生かしておいたりと少しずつ自分たちで考えて行動するようになった4人がどうなるのか、と興味が湧きましたが、出られるのに出て行かないことを選ぶ(宮本の影響もありましたが)ことで、問題の根の深さを思いました。

投稿: みき | 2016.08.20 22:55

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