「Vamp Bamboo Burn~ヴァン・バン・バーン~」を見る
2016年劇団☆新感線夏秋興行 SHINKANSEN☆R「Vamp Bamboo Burn~ヴァン・バン・バーン~」
作 宮藤官九郎
演出 いのうえひでのり
出演 生田斗真/小池栄子/中村倫也/神山智洋(ジャニーズWEST)
橋本じゅん/高田聖子/粟根まこと/篠井英介 ほか
観劇日 2016年8月27日(土曜日)午後6時開演
劇場 赤坂ACTシアター 1階E列30番
上演時間 3時間35分
料金13800円
ロビーではパンフレット(2000円)等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
お話のベースの一つは、タイトルの二つ目の「バン」つまりBambooで予告されているとおり、竹取物語である。
オープニングのダンスの後(考えてみたら、新感線のオープニングも殺陣かダンスであることがほとんどのような気がする。度肝を抜くことで観客を一気に舞台の世界に引き込むという意味で、蜷川演出との共通点と言えるのかも知れない。)、竹取の翁が出てきたところで、あらと思う。
何しろ、予習していなかったし、チラシの字体が凝っていてアルファベット部分を読む気がせず、「Bamboo」という単語がタイトルに入っていることにも気がついていなかったのだ。
それで、どうして「あら」と思ったかというと、先月に別役実作の”「かぐや姫伝説」より 月・こうこう, 風・そうそう”を見ていたからだ。
こちらも新作で、タイトルからも明らかなとおり、竹取物語をベースにしている。
たまたま私が続けて見たから気になっただけといえばそれまでだけれど、でも、二人の作家が同じ時期に新作を書いて、「竹取物語」をベースにしようと思ったのはどうしてなんだろう。偶然なんだろうか。もちろん示し合わせて書いた訳ではないだろうから、そういう意味では偶然だ。でも、「竹取物語を選ぶ」ことにお二人とも必然があったんじゃないかなと思う。
もっとも、両作品を見終わった今でも、その「必然」が何だったかは全く判っていない私である。
こちらは、「竹取物語」のかぐや姫に恋して振られた男が吸血鬼になってしまう。しかも恋敵兼、自分からかぐや姫を奪った(と思っているに違いない)のは、家人である。「俺が俺が」タイプのこの男は納得せず、そこを吸血鬼につけ込まれ、自分も吸血鬼になってしまう。
そういえば、ここで生田斗真演じる藤志櫻を吸血鬼にしてしまう虫麻呂という吸血鬼は、通常バージョンを篠井英介が、血が足りずに年老いた風貌になったバージョンを右近健一が演じていたけれど、配布されたフライヤーでは、篠井英介のところに虫麻呂(劣)と書いてあって、あれ? と思った。
私の目がおかしいのか?
それはともかくとして、後になって明らかにされるところでは、藤志櫻は、明日がかぐや姫との結婚式だという家人の蛍太郎を死なせてしまい、小池栄子演じる実はエイリアンであるかぐや姫に強引に思いを遂げようとするけれど、そのことでかぐや姫を死なせてしまう。
要するに、エイリアンとヴァンパイアの食べ合わせは最悪らしい。彼らの体液や血液が混ざると双方が消えたり燃えたり、とにかく死んでしまうようだ。
にも関わらず、藤志櫻は、生まれ変わっているだろうかぐや姫を追い求めてひたすら1000年にわたって生き続けている。
それが現代だ。
物語は、この「現代」と「かぐや姫が生きていた平安時代」を行ったり来たりしながら進む。
ついでに、かぐや姫がエイリアンであることも、藤志櫻がヴァンパイアになってしまっていることも、物語の最初に明かされているけれど、エイリアンとヴァンパイアとの関係が明らかにされるのは、物語のかなり終盤になってからである。
「謎が謎を呼ぶ」展開で引っ張るパターンである。
現代の物語は、藤志櫻がビジュアル系バンドのボーカルで人気者、という設定のため、プロダクションとヤクザの関係やら、歌舞伎町を舞台にしたそのヤクザの跡目争いや新興勢力との抗争やら、どこかで聞いたことのある設定を皮肉を込めて描いている。
いっそのこと、藤志櫻改めTOSHIROのかぐや姫捜しよりも、ヤクザの話の方がメインストリームになってしまっているんじゃないかというくらいだ。
このビジュアル系バンドのボーカルで、かつかぐや姫を1000年かけて捜し求めているという嘘っぽい役を、生田斗真が楽しそうになりきって笑いをとりつつ演じているのがいい感じである。
小池栄子演じる看護師アリサがかぐや姫の生まれ変わりなのかと思いきや、そして、徳永ゆうき演じる西武線の駅員がかぐや姫の生まれ変わりなのだと篠井英介演じる占い師のマダム馬場が断言したりしつつ、実際のところは、中村倫也演じる新興勢力の親玉竹井がかぐや姫の生まれ変わりであると判明する。
このかぐや姫は、もちろんエイリアンだ。
エイリアンは、取り憑いた人間が死んでしまうと次の人間に宿主を求め、それで1000年の間生き続けてきたようだ。あら、転生した訳ではなかったのねと思う。
RXだから、歌もふんだんに入っている。今回はフライヤーに歌詞が書かれていないのが残念だ。
そして、出演者のみなさんの歌が上手い。徳永ゆうきの歌が上手いのは「本職」だから当然としても、その歌もだけれど駅のアナウンスが異様に上手いのは何故なんだと思う。本当に鉄ちゃんなんだろうなと思うとちょっと可笑しい。それとも、設定に合わせた特訓の成果なんだろうか。
新感線劇団員の歌の上手さはいつも通りで、高田聖子と村木よし子が歌うシーンがほとんどなかった(全くなかったような気もする)のは勿体ない。そしてまた、橋本じゅんが「こんなに上手かったっけ?」と見直すくらい、歌が上手くて改めて驚いた。
驚いたといえば、中村倫也といえば蜷川幸雄演出のオールメールシリーズで女性を演じているイメージがあまりにも強かったので、「男の子の役を演っているよ!」ともの凄く個人的に驚いた。
動くし、歌も上手い。
そして、生田斗真と声質がとても似ていたように思う。二人で歌わせたら迫力だったろうなぁと思う。それともこれまた私の記憶力の衰えのせいで、そういうシーンがあっただろうか。
ヤクザの跡目争いは、エイリアン対ヴァンパイアの争いともなり、そしてTOSHIROと竹井とが決着を付けようと戦うシーンへとなだれ込む。
設定的に、彼らが争ったら双方共倒れになるしかないんじゃないかと思うのだけれど、その辺りの整合性の付け方がよく判らなかった。
かぐや姫の心の弱さといえばいいのか、実はほだされていたといえばいいのか、二人の争いはTOSHIROが勝利を収める。
しかし、竹井から抜け出したかぐや姫たるエイリアンの「本体」は、ヴァンパイアとして陽の光を浴びて死んでしまったアリサの身体に入り込み、ラストは、TOSHIROとアリサとが1対1で得物を持って向かい合うところで終わる。
おい! どうしてそうなるんだ、と思うけれども仕方がない。やっぱりかぐや姫はTOSHIROを恨んだままなのか、今度は勝ちを収めるのか、この後はどうなる、という設定だったんだろう。
そういう意味では、かぐや姫が元の姿を取り戻したところで幕という、割とあっさりしたラストシーンだったと思う。
とにかく楽しんだ!
殺陣がちょっと雑に見えたのは、多分、席がかなり前方で全体を見渡せなかった故だと思う。表情まで見えるのが嬉しいけれど、やはり新感線の舞台は全体が見渡せる方が楽しいと思う。近いとついつい役者さん一人一人の表情や立ち姿に注目してしまう。
でも、ほんと、楽しかった。
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コメント
アンソニー様、コメントありがとうございます。
うんうん、楽しかったですよね。
徳永ゆうきさんって今回の舞台で初めて(テレビとかも含めて)拝見しました。
毎回って、この公演のステージ数だけのレパートリーがあるってことですよね?
確かに、地元とか普段使っている駅のアナウンスが出てきたら嬉しいかも。でも、駅名を言ってもらわなかったら、普段使っている駅のアナウンスだと気がつく自信がなかったりしますが・・・。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2016.09.12 23:00
はにー様、中村くんへの愛溢れるコメント(笑)、ありがとうございます。
すみません、私は蜷川さんのシェイクスピアシリーズで拝見したのが多分初めてで、その印象がとても強いのです。
虫麻呂、キャスト表で合っていますか〜。
逆に思えてしまうのは、「篠井さんの方がキレイじゃない!」という私の思い込みのせいですね、きっと。
教えていただいてありがとうございます。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2016.09.12 22:57
こちらにもお邪魔してますw
とりあえずこれは楽しかったです。
生田さんと中村さんは最後に一緒に歌われてましたね。ライブみたいでかっこいいわなんやら楽しめました。
それから徳永ゆうきさんは歌手ですがモノマネもうまいことで有名らしいですよ。
毎回モノマネする駅名やら路線を変えてるようです、すごいレパートリーですよね。
地元の駅があればかなり楽しめるでしょうね。
投稿: アンソニー | 2016.09.12 01:01
中村倫也君は、蜷川さんのに出る前から出来る子なんですよ。男の子やらせても女性をやらせても。踊れるし歌えるし死角なしです(笑)。
愛の反対後は憎しみじゃなくて無関心だから、かぐや姫(のエイリアン)は、ああやって次の千年も藤志櫻を憎んで行くのでしょうね。それも、また別の「愛」だったりして。
さて、虫麻呂の件ですが、キャスト表で合ってますよ。
本体が右近さん、劣化したら篠井さんです。
投稿: はにー | 2016.09.11 22:19