「家族の基礎~大道寺家の人々~」を見る
M&Oplaysプロデュース「家族の基礎~大道寺家の人々~」
作・演出 倉持裕
出演 松重豊/鈴木京香/夏帆/林遣都
堀井新太/黒川芽以/山本圭祐/坪倉由幸
眞島秀和/六角精児/長田奈麻/児玉貴志
粕谷吉洋/水間ロン/山口航太/近藤フク
観劇日 2016年9月24日(土曜日)午後1時開演
劇場 シアターコクーン 1階D列7番
上演時間 2時間55分(15分の休憩あり)
料金 9500円
ロビーではパンフレットやTシャツ等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
幕開けは、松重豊演じる父が息子からインタビューされているシーンだ。
何かを書こうとして、その題材として息子は父親にインタビューしているらしい。そこに「きわさん」呼ばれる女性が何故かつかず離れずで話に入ろうとしている。
息子の質問に答え、父親は、自らの子供時代のことから語り起こす。
ここでいきなり松重豊が「父親」から「10才のコドモ」になるところがポイントだ。
もの凄いインパクトである。
半袖半ズボンになり、「なおぼう」と呼ばれても、とてもとても10才には見えない。10才には見えないし、笑いも誘われるけれど、何故か違和感がないところが不思議だ。
よく跳ぶなぁ、動くなぁ、とそちらに感心してしまうくらいだ。
ほとんど育児放棄されていた「父親」は、自宅に旅芝居の一座を招き、自宅を劇場として使ってもらっていたらしい。
六角精児演じる「座長」との出会いはこのときで、この後の彼の人生に暗雲をもたらすのは常にこの座長である。
彼の弁護士事務所に駆け込んできた女優の卵が「私を騙した!」と告発した相手もこの座長で、この出会いが結婚に繋がったけれど、これは決して座長がもたらした幸福ではない。
結婚に至る当たりまでがプロローグに当たるだろうか。
母の溺愛と英才教育により長男は勉強のよくできる少年に育ち、しかし本人は勉強よりも芸術方面に進みたいようだ。
その妹の長女は、逆に完全に母から無視され、兄が教育係に任命されたけれど、兄弟仲の悪さからほとんど「教育」は行われなかったのかも知れない。こちらは現実的な知恵に長けた子供のようだ。
こんな一家が、女優志望だった母の知り合いの演出家のきわさん、長男の同級生で両親を亡くして親戚の家に引き取られた近所の少年、弁護士である父親に裁判で救われた元汚職刑事、長女の友人らしいヒッピーの娘らに囲まれ、というよりも突き回され、様々な出来事に巻き込まれたり巻き込んだりする。
忙しすぎて家族の時間が持てなかった父親は反省して酒屋を始め、長男がデザインした傘が長女の販売戦略により爆発的に売れて一家は大金持ちになり、長女は家出を敢行しようとし、母親は父親に秋波を送る娘の友人の追い出しを元刑事に依頼する。
そうして、長男の左手が失われてしまうところまでが前半であったと思う。
長女の毒舌が嫌な感じではあるけれどかなり小気味よく、父親の駄目な感じ、父親とは方向が違うけれどやっぱり駄目な感じの母親、天才ともてはやされつつ現実的な能力は皆無な感じの長男と、それぞれに個性的な家族だ。
笑いも取りつつ、変な人々が「日常」の振りをして変な家族を形作っている様子が語られていた、と思う。
どこに向かっているのかさっぱり判らないけれど、何故か目が離せない不思議な舞台である。
その原動力になっていたのは、長女の毒舌を撒き散らしつつ実は意外とマトモなことを言っているというキャラと造型にあったんじゃないかという気がした。
前半だって、この大道寺一家が家族として暮らしていたかという点では保証しかねるところがあるけれど、後半はその一家が壊れて行くところから始まる。
左手を失った長男のために、何故か父親が元々自分が暮らしていた家があったところに、再度劇場を建て、一家で移ってくる。
長男は戯作を始め、俳優のオーディションをしているが、掲げたハードルが高すぎて(と父親は思っているけれど、別にそれほど高望みしているようには見えない)なかなか人が集まらない。
ここで冒頭のシーンが再現され、最初のインタビューが、家族のことを戯曲に書こうとしている長男のネタ集めのために行われていたことが判る。
そこへまたあの座長が登場し、見た目に怪しい男たち3人を裏方として雇ってくれと言う。
母親の大反対を押し切って雇ったところ、実は彼らは極左集団の一員で、演出家として応募しようとしてすげなく長男にあしらわれていたきわさんが手引きし、こけら落とし公演の日に警察に踏み込まれて彼らは逮捕され、その際に撃たれた男に母親は取りすがり、父親も「彼らを匿った」罪で逮捕されてしまう。
えー、と思う。
展開が突然すぎる。
そういえば、新しく雇った男達が昔、長女が店番をしていたときに大道寺酒店で万引きをした男達だったり、本読みをしようとして長女が全く字が読めないことが明らかになったり、その長女が妊娠していたり、様々な事件が起こるけれど、それらの事件の印象が薄いのはどうしてなんだろう。
落ち着いて考えればどれも重いエピソードの筈なのに、何故だかすーっと流されてしまう。
よく判らないけれど、目が離せない。
そうして、父親は刑務所に収監され、一家はバラバラになる。
3年がたって出所した父親を迎えに来たのは、元刑事と、孫(長女の息子)の二人だけだ。この孫がまだ3才なのに見た目が30才という凄い設定である。成長が異様に早い、ということになっている。
だからそういう凄い設定をあっさり流してしまわないでくれと思うし、あっさりそれで済ましちゃうところが凄いよなとも思う。
母親は、撃たれた男とよりを戻して「女優を支援する団体」を仕切って生き生きと働いている。
再婚を求める父親に対して、「それはない」と言い切る。理不尽を感じるけれど、その理不尽もほとんど追求されない。
長男を訪ねた父親は、彼が劇作家として成功していることを知り、彼にくっついていた「座長」を「もう我々家族にまとわりつかないでくれ」と追い出す。それがもっと早くできていたらねぇと思うが致し方ない。そういう人だし、そういう家族だったのだ。
長男は何故か結構丸くなっていて、父親が長女のところに行くのに付き合うと言う。
彼女はヤクルトレディになっていて、昔近所に住んでいた長男の友人と暮らし、子供も妊娠している。
長男の友人の男は印刷工場で働きつつ実は脚本家になっていて、長男が「憧れる」と言うそのまさに脚本家なのだという。
そう告白した彼に、長女は「何で地道に働かずにそんな変わったことをするんだ」とネギで叩きまくる。
「どうして普通に暮らせないんだ」と言う長女に、父親が「そんなに必死に普通を求めなくても、お前はいつでも一家で一番普通だった」と抱きしめるシーンで何故か感動してしまった。
落ち着いて考えると、こーんなに変な一家の中で一番普通であることに意味があるのかとか、普通でないと自認する父親に普通だと太鼓判を押されることに意味があるのかとか、色々とツッコミたいところではあるけれど、でも何だか凄くいいシーンだったと思う。
このシーンが書きたくてこの芝居があるのね、と思ったくらいだ。
買い物に出た父親が車に轢かれて屋根の上に飛ばされ、そこで長男の左手を発見する。
一家を集め、父親は缶詰パーティを開く。人々が缶詰を開ける間抜けな音が響くのが可笑しい。
母親は新しいパートナーとやってくるが、そこで、「父親の母親」を演じて見せ、「家族」を手に入れた父親を誉める。
その一家が「家族ゲーム」のように一列に並んだシーンのストップモーションで幕である。
家族がテーマであることは判る。
でも、この芝居がどちらを向いているのか、それは判らない。もしかしたらどこも向いていないのかも知れない。
なのに、何故か普通以上に集中して見てしまう、不思議な舞台だった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
セット、「鎌塚氏、振り下ろす」とそっくりでしたか??? お恥ずかしながら、全く気付かず、こうして教えていただいても「鎌塚氏、振り下ろす」のセットがどうしても頭に浮かんで来ません・・・。
確かに、お父さんの今後は気になりますね。
再婚はなさそうだし。
娘や息子との同居もなさそうだし。
意外と地道にガンコ親父として酒屋を経営して行くんじゃないかという気がします。
一列に並んだあの感じが「家族ゲーム」を思い出させるような、不思議な、でもいい感じのラストシーンでした。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2016.09.27 22:43
私も観ましたよ。
同じ倉持さんの「鎌塚氏、振り下ろす」のステージとそっくりな造りでしたね。
ああいうセット、素敵だなと思いながら観ました。
そして皆さん、しゃべることしゃべること。
仲がいいんだか悪いんだか今一わからない家族だなあと思ってました。
皆自己主張が激しいし、まともな人もいないし、どうなっていくんだろうとワクワクしましたが、まさかああなるとは。
この先松重さんがどうなるのかわかりませんが、そしてあの缶詰たちは、どうしたって美味しくはないでしょうが、いいラストでしたね。
投稿: みずえ | 2016.09.26 15:43