「八百屋のお告げ」を見る
グループる・ぱる 第23回公演「八百屋のお告げ」
作 鈴木聡
演出 木野花
出演 松金よね子/岡本麗/田岡美也子
大谷亮介/酒向芳/本間剛
観劇日 2016年9月3日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場シアターウエスト J列19番
上演時間 2時間
料金 4500円
ロビーでは、ル・バル結成30周年記念としてTシャツが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「八百屋のお告げ」を見たことはあって、でもどんな内容だったかはさっぱり忘れたまま見に行った。
今見てみたら、2006年に観劇していたようだ。る・ばるのメンバーは役柄も含めて変更なし、客演の男優陣は3人とも変わっている。
ざっと読んでみたところ、あらすじ等々は変わっていないようなので、その辺りは割愛。
ただ、出演者が変わったこともあるし、演出が変わったこともあるし、そして、見ているこちらにも舞台の上のる・ばるのお三方にも10年の月日が流れていることもあって、多分、印象はだいぶ違っているような気がする。
チラシを見たときから、八百屋に「**日の12時に死ぬ」とお告げを受ける女性の役は松金よね子だろうと何となく思っていたとおり、彼女が演じる多佳子は熟年離婚し、子ども達は遠く離れて暮らし、大きな家に一人住まいしているようだ。
そこに「姪の結婚式で歌ううたの替え歌の歌詞を教えろ」とやってくるのは、田岡美也子演じる、多佳子に熟年離婚を勧めつつ自分は今も夫と二人で仲良く暮らしている真知子である。
彼女は多佳子にその「八百屋のお告げ」を聞かされるけれど、もちろん本気になどしない。笑い飛ばせと笑っている。それでも、冷蔵庫の中味を整理しようと野菜炒めを作り続ける多佳子に不安を感じ、ちょうどそこにやってきた邦江に後を託してとりあえず結婚式に出かける。
岡本麗演じる邦江は独身で不倫を続けて7人目の彼が前日に亡くなったからお通夜に行く喪服を貸してくれと多佳子の家にやってきたところだ。
この多佳子の異常な行動が真知子と邦江の不審を呼んで問い質す結果になる。真知子は結婚式だし、邦江はお通夜だし、それぞれ「非日常」のまっただ中だ。
そうして、本来は「あうんの呼吸」でお互い説明など必要ないだろう女3人の関係や現在の状況を一気に説明してしまうところが上手いなぁと思う。こちらはあっという間に、この女3人の姦しいおしゃべりに付き合うことができるようになる。
また、3人が「それぞれ違う」境遇にいて、女の人として誰かには間違いなく共感したり自分を投影したりできるバランスが上手いと思う。
同じような3人が集ったって面白くも何ともない。
八百屋のお告げはともかく、結構いい年齢の3人である。
その辺り、手堅そうな多佳子はなかなかはっちゃけられないけれど、やり残したことはないのか、もし死んじゃうとしてやるべきことはあるか、そういうことを考えて思い切ったことをバンバンやるチャンスじゃないかと真知子と邦江は多佳子を焚きつけ続ける。
女友達っていいよねと思うし、女友達って大変だよねとも思う。
そして、何だかんだ言っても、人間は一人だよね、ということがやけに強調されているように感じるのは、自分が3人からかなり遠いところ、しかも「一人」の方向に遠いところにいるという自覚があり過ぎるせいだと思われる。
何だかんだ言っても、この3人の女たちは幸せなのだ。
布団圧縮袋のセールスマンに、同じお告げを受けた宅配便の運転手、学生時代に憧れの君だったオトコの息子と、次々と見ず知らずの男達を巻き込んで鍋パーティを開催するバイタリティがあり、多佳子がお告げを受けた12時が近づくと、その男達を「12時は女だけで迎えたい」と追い出す気概も持っている。
パワフルで格好いい女たちじゃないかと思う。
でも、何となく諸手を挙げて賛成、応援という気持ちになれないのは、こちらの嫉妬心のせいだろうか。あとン十年後、私は彼女たちのようにはなれそうにない。どちらかというと、ナサケナイ男達に近い心持ちにしかなれていないのではなかろうか。
前に見たときの感想で一言も触れていないのが我ながら不思議だけれど、フニクリ・フニクラの歌がやけに印象に残っている。
大学時代の合唱サークルの活動で、重いものを持ち上げるときにこの歌を歌っていたという。
多佳子を励ますために、鍋パーティ参加者全員でレコードに合わせてこの歌を歌う。
その多佳子が「思ったよりもいい歌詞じゃない」と途中でレコードを止めてしまうのも可笑しい。
大学時代のテーマソングであり、明日からあれもやろうこれもやりたいと数え出し始めた多佳子のテーマソングになるんだろうなと思う。
前に書いた感想に、やり残したことがあるではなく、やりたいことがたくさんあるという思いは格好いいと書いていて、我ながらいい感想を書いているなと思った。
多分、この芝居のテーマはそういうことだ。
そこに嫉妬を感じてしまうのは、こちらの「生命エネルギー」が落ちてきているということなのかも知れない。ちょっと暑苦しい男たちだよと思ってしまったり、格好良すぎるじゃんと女たちに妬心を抱いてしまったり、そもそも28才の男が亡くなった父親の学生時代の友人(女)の家に電話で呼ばれたからといっていきなり行ったりしないだろうと思ってしまったり、そういうことは多分、こちらの心持ちが為せる業という気がする。
そういうことをひっくるめ、ちょっとがんばろうと思った。
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コメント
みき様、コメントありがとうございます。
ふふふ、また同じ公演を見ていたなんてご縁がありますね。
10年前の「八百屋のお告げ」にブログネタあったかしら??? 覚えていませんが、新たにネタとして入れるとしたらTwitterとかFACEBOOKじゃないかと思うので、初演のときからブログネタがあったんじゃないかと思います。
多佳子たち3人は、境遇というか今の生活がかけ離れているから友達づきあいが続いているんじゃないかと思って見ていました。
職場の愚痴じゃないおしゃべりって重要です(笑)。
私もワイドショー的に気になったクチですが、舞台だからこそワイドショーがどこかに行っちゃうのよね、とも思っておりました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2016.09.05 22:25
みずえ様、コメントありがとうございます。
みずえさん、佐藤二朗と井之上隆志がお好きだなんて通ですね(笑)。
カクスコ、懐かしいですよね〜。復活公演とかあれば絶対に行っちゃうのにと思います。
なるほど、真知子と邦江が来なかったときの多佳子のことは全く考えませんでした。
そうか、そうですね。
そして、「そんなことある訳ないじゃない」と笑い飛ばしつつ、その日を一緒に過ごしてくれる友人がいるって羨ましいなぁと思います。
でも、やっぱり、死んじゃわなくて良かったですよ、きっと。
そんなこんな、身につまされるお芝居だったと思います。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2016.09.05 22:20
またまた同じ時間にA列15番で観ていました。私は初見でしたが、前回より15分も短くなっているのですね。10年前にもブログネタがあったのでしょうか?あのくだりを見ていて、私も姫林檎さんに会えたら感動するだろうな~なんて思っていました。
いいお芝居を観たな~としみじみしましたが、よく考えると女性3人は学生時代の思い出以外に共通の話題はないだろうな、と思ってしまいました。特に邦江は主婦の敵とも言える不倫を繰り返しているのだし。疎遠にならないなんて奇跡じゃないかなって。
そして熱演している大谷亮介さんを見て、痛々しく感じてしまう私はワイドショウの見すぎですね。
投稿: みき | 2016.09.05 21:18
私も観ました。
る・ばるは、去年に続き二回目です。
これ、再演で、前回とは演出も違うんですね。
私は佐藤二朗と井之上隆志が好きなので、そのバージョンも観たかったです。
さすが全員上手だし、先も気になるしで、引き込まれるようにして観ました。
私が気になったのは、男性三人はともかく、真知子と邦江も、多佳子に呼ばれたからではなく、偶然あの家に訪れて、気になって居座ることになったんですよね。
もし結婚式だの通夜だのがなく、真知子たちが来なかったら、多佳子はこの日どう過ごすつもりだったんだろうと思いました。
私だったら、一人で過ごすのは耐えられないですね。
いくらなんでも死ぬラストにはならないだろうと思いながら観ていましたが、もしそうなっても、多佳子は幸せだったんじゃないかな、と思いました。
子供がいるようですが、友人たちに看取られて、元気なうちに逝けるのって、最高の人生の終幕ではないでしょうか。
多佳子が先々、あのとき死んでれば……と思ってしまうことになりませんように、なんて考えてしまいました。
投稿: みずえ | 2016.09.05 14:24