「どどめ雪」を見る
月影番外地「どどめ雪」
作:福原充則
演出:木野花
出演:高田聖子/峯村リエ/内田慈
藤田記子/田村健太郎/利重剛
観劇日 2016年12月10日(土曜日)午後1時開演
劇場 ザ・スズナリ
上演時間 1時間55分
料金 5500円
開演時間ギリギリに行ったので、物販等はチェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
「細雪」ならぬ「どどめ雪」は、四季それぞれになぞらえ、四人姉妹の日常というにはちょっとぶっとんだ日々を綴った物語である。
多分、そうだと思う。
「細雪」は読んだことがないので、実際のところ「四姉妹の物語」と「三女の見合い」と「姉妹の名前」という要素以外に重なっている部分があるのかないのか、判らなかった。
主な舞台は、牛久大仏近くにある次女夫婦の家である。
高田聖子演じる次女幸子は、近くにあるショッピングセンターの警備主任を務める夫を婿養子に迎え、多分それなりに平凡な毎日を送っている。
平凡ではないのは他の姉妹たちで、春の章を飾った三女の雪子は、見合いをした近所のレストランに勤める気の良さそうな気の弱そうな男を我が家に連れて来ている。その場で彼女は、自分の裸の写真がネットにさらされていることを男に告げる。
雪子に刺さっている棘は、それだ。
紆余曲折あって、「若旦那」と呼ばれるようになる彼と雪子は同棲するようになる。
季節と、その季節の「主役」は、カレンダーで語られる。
夏は、峯村リエ演じる長女の季節だ。どうしても大蔵卿の局に見えてしまうけれど、やっぱり舞台とテレビでは声が全然違うなぁと思う。発声の仕方が多分全然違うから、声までまるで違って聞こえる。
それはそれとして、長女は、自分が出したクレームが原因で夫の会社が倒産してしまい、離婚し、精神的に追い詰められて実家に戻って来ているようだ。
言動も何だかおかしい。
その際限ないおしゃべりは、「落ちがない」と言えばいいのか、支離滅裂で起承転結がない。
そのおしゃべりを聞いている幸子はもう相当に嫌気が差しているようだ。
そのうち、鶴子は、ショッピングセンターに反対する人々が、ショッピングセンターの店舗だけではなく、警備員である幸子の夫が住む家にまでガラスを割るなどの攻撃を加え、弾劾する文書を投函するようになっていたところ、その彼らに感化されて文通を始めてしまう。
そうして、ショッピングセンターの「悪」を糾弾する鶴子に、幸子が「正しい世の中になったとしても、そこにいられるほどお姉ちゃんも私も正しくない」と怒鳴り、それを聞いた鶴子は「そうだね」と家を飛び出して、赤信号なのに車道にも飛び出してしまう。
その鶴子を幸子が身を以て庇う。
この辺りから、物語が何と言うか重層的になってくる。
それまで小出しにされていた「まだ主役を張っていない」姉妹と、主役を張ったことで露わになった姉妹の「事情」とが、重なり合って、何だかあまり嬉しくない幸せにならなさそうな方向に向かってうねって行くように感じられる。
薄幸というのとは違うけれど、始終、怒鳴り合っているような、決して仲が良さそうには見えない感じでありつつ、何とも不幸な雰囲気を醸し出している姉妹なのだ。
そこに入り込んだ力がなく頼りない男二人、という感じがする。
この家の「不幸」は、どうやら秋に主役を張った藤田記子演じる四女の妙子にあるようだ。
妙子は不穏な言動をしていたし、雪子と悉く合わない、反りの合わない、反発し合っている感じがあったけれど、さらに大きなところで、彼女は子どもの頃、友人を川に突き落としたとされて民事裁判で5700万円の賠償金支払いを命じる判決が下されているらしい。
のみならず、その賠償金を全く支払っておらず、最近、賠償金支払いを命じる判決が出て、そのことが報道され、次女の夫も三女もそれが原因で解雇されてしまったようだ。
雪子が妙子を許せないのは、妙子が「すまなさそう」にしておらず、開き直っているところにあるらしい。
そりゃそうだよね、と私は完全に雪子の味方になって見てしまう。
しかし、実際のところ、妙子は「友人を突き落としてはいない」ことが妙子自身によって初めて語られ、初めて語られたことに姉妹は呆然としつつ「語らなくちゃ判らないよ」と言う。
そうして、最終章はやはり次女の幸子である。
若草物語もそうだけれど、四人姉妹というとやはり次女がリーダー格になるのだろうか。
実は、幸子がもしかしたら一番深い「業」のようなものを背負っていて、彼女は実は超能力者である。
こう書いてしまうと、もの凄くぶっとんだというか、現実離れした設定のようになってしまうけれど、それがどうも自然に舞台の上で語られて、これまでの芝居の雰囲気を全く壊さないところが不思議だ。
少しずつ、幸子が超能力を使うシーンを小出しにばらまいていたからだろうか。
妙子の賠償金のためなのか、この街では生計が立たないということなのか、姉妹は家を売ることにしたようだ。その引っ越しの日である。
近くでマンション工事を行っていたところ、鶴子が何故かその工事現場に入り込み、基礎工事の杭を勝手に打とうとして失敗し、その機械ごと倒れて瀕死の重傷を負い、亡くなってしまう。
その「死んでしまった」鶴子を前に、超能力について語られていた若旦那が、「物を動かす幸子パワーを使って、鶴子さんの心臓を動かしましょう」と必死で説得する。
幸子が「人に幸子パワーを語らなくなった」理由と同じ理由で幸子は嫌がるけれど、最後にはその力を発揮し、鶴子は生き返る。
最後、幸子によって後日談が語られる。
その幸子は、50代で亡くなったそうで、ここで語っている幸子は幽霊だ。
雪子夫婦は男の子を授かり、妙子は幸子の夫と再婚して仲睦まじく暮らし、鶴子は3年がかりで健康を取り戻す。
幸子が通り魔に喉を掻ききられたときに側に居たのは鶴子だ。
幸子は、鶴子が「幸子パワー」を発揮しようと野次馬に語りかけている様子を最後に見たと語る。
考えてみたらもの凄い設定だし、もの凄い物語だし、特に妙子のキャラクターは決して愉快なものではないし、「楽しい」要素はあまりないような気がするのだけれど、でも、何故か見終わってほっこりする。
その「ほっこり」の大本は、高田聖子の笑顔のような気がする。
それぞれの季節を四姉妹がそれぞれ主役を張って語るように見せつつ、その四つの季節や物語の間にはきめ細かく計算し尽くされた感じで伏線が張られ、着実に回収される。
とんでもない設定ととんでもない物語を、役者さん、特に女優陣のとんでもない演技力で日常にまで持ってきて、力強く語りきってしまう、そんな舞台だった。
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