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2016.12.17

「天獄界 ~哀しき金糸鳥」を見る

玉造小劇店「天獄界 ~哀しき金糸鳥」
作・演出・出演 わかぎゑふ
出演 コング桑田/野田晋市/うえだひろし/桂憲一(花組芝居)
    八代進一(花組芝居)/鈴木健介/浅野彰一(あさの@しょーいち堂)
    大井靖彦(花組芝居)/小椋あずき/長橋遼也/畝岡歩未
    村上陸/山像かおり(文学座)/わかぎゑふ/植本潤(花組芝居)
観劇日 2016年12月16日(金曜日)午後7時開演
劇場 ザ・スズナリ
上演時間 2時間
料金 4500円
 
 今回公演から(と言っていたと思う)、終演後のサイン会(?)は行わず、パンフレットに出演者全員のサインを予め入れておくようになったそうだ。
 ちょっと寂しい。

 ネタバレありの感想は以下に。

 玉造小劇店の公式Webサイト内、「天獄界 ~哀しき金糸鳥」のページはこちら。

 予習をしていなかったので、甘粕事件で幕を開けた冒頭「中華芝居じゃないじゃん!」と思わず心の中でツッコミを入れてしまった。
 「久しぶりに中華芝居」という謳い文句にかなり惹かれていたからだ。
 芝居を見た後、玉造小劇店のサイトを見てみたら、満州を描いた芝居第2弾だと書いてあった。
 しかし、ここで「なるほど」と思えるほど私は日本史に詳しくない。「甘粕事件」と言われてもピンと来なかったくらいだ。大杉栄よりも伊藤野枝の名前の方に聞き覚えがある、という程度である。

 甘粕大尉により殺された大杉栄と伊藤野枝夫妻の子ども達のうち、小椋あずき演じる三女の「ルイズ」、改名して留意子の物語だと理解したのは、彼女が作り物の鬘を外した後のことだ。
 それまでは、一体この物語はどこへ行くのだろう、中華芝居は止めたんだろうか、どこかで中華芝居に行くんだろうか、でもこれまでのところ登場人物はみんな日本人だし、と思っていた。
 物語は、甘粕大尉が出所して満州の満映の理事長となり、留意子が軍人と結婚して夫と共に満州に到着した辺りから動き出す。
 この動きだしまでがかなり長かったけれど、見終わってみればこの「子供時代」の話は絶対に必要だったのだと判る。

 留意子は、夫が出張した機会に甘粕大尉の家に女中として入り込む。
 本名を名乗る訳には行かないから、祖母の名前である「伊藤梅」を名乗り、野田晋市演じる甘粕大尉の家に大杉栄の書簡集があることに驚き、うえだひろし演じる運転手に大杉栄のことを教えてもらう。
 そうこうしているうちに、何故か山像かおり演じる川島芳子が甘粕大尉の暗殺を指示し、甘粕大尉の家で仮面舞踏会を開くように手配する。
 一方、甘粕大尉が接触した日本の官僚は、逆にこれを川島芳子暗殺の好機だと捉えたようだ。

 満映に森繁久弥がNHKのアナウンサーとして居たとは知らなかったよと思っていると、川島芳子に「仮面を付けてこない」ように注進したのは甘粕大尉自身だったことが判り、川島芳子が甘粕大尉の死を望んだのは日本に住んでいた頃に心服していた伊藤野枝を殺したのが甘粕大尉だったからだということが判る。
 甘粕大尉危機一髪のところでピストルを携えてやってきた留意子を殺そうとした川島芳子に、甘粕大尉は「その娘は伊藤野枝の子供だ」と告げる。
 もちろん、留意子は自分の正体がばれていたことに驚く。

 一方、野枝の遺児達に贈り物をして気遣っていたのが川島芳子だったことが判明し、そういえばこの二人には何の遺恨もなかったのだけれど、川島芳子と留意子は和解し抱き合い涙する。
 川島芳子が「本当に大杉栄と伊藤野枝を殺したのはおまえなのか」と追求する場面で、13年ぶりだというミュージックハラスメントがあったのが可笑しい。久々に見たけど、13年もナマでは見ていなかったのねと思う。時が経つのは早い。
 結局、ここで甘粕大尉がミュージックハラスメントに屈せずに何も語らなかったことで、「実は二人を殺したのは甘粕大尉ではない」という印象を強める効果もあるのだから、何と貪欲な脚本なんだろうと思う。

 甘粕大尉が「一時休戦」を申し入れ、何故か和気藹々と談笑したその後、甘粕大尉は留意子に自分を殺すように迫る。
 「あまりにも想像と違っていた」甘粕大尉を助けるためではなく、他人に殺されるよりは自分が殺そうと思ったから拳銃を持って乱入したのだと聞いたときには驚いた。
 どちらかというと、この甘粕大尉の造型が非常に「変だけどいい人」だったので、留意子も甘粕大尉に好意的になったものだと思っていたからだ。
 当然、そういう甘粕大尉の迫力に対して、いくら「強くなりたい」と願っていたといっても留意子が適う訳もなく、しかしそこに運転手の彼が飛び込んできて、自分が留意子の異父兄だと告げる。

 留意子の正体に気がついていた甘粕大尉も、3ヶ月前に雇った運転手が伊藤野枝の関係者だとは気がついていなかったらしい。
 ついでに、この異父兄は、留意子の正体に最初に会ったときから気がついていたという。まぁ、自分の祖母の名前を名乗られ、大杉栄の書簡集を呆然と眺めている同じ年頃の娘を見れば、それは何かあると思うに決まっている。
 この運転手が異父兄だと私は気がついてたわ、と得意になっても仕方がない。

 いつもながら、あちこち様々に張り巡らした伏線を一気に綺麗に見事に回収する芝居は凄いし、本当にスカっとする。殺陣のシーンももちろんスカっとするけれど、この「一気に収束して大団円」という終わり方の芝居ほどスカっとするものはない。
 引き揚げ船の中で、満映の社員たちが話しているところに留意子が通りがかり、甘粕大尉が亡くなったことと、異父兄が先に日本に帰っていることを知るという流れも気が利いている。

 そして、ラストシーンの留意子の独白で、ずっとこれまで「おじさま」という呼びかけでもう一人の異父兄に書いた手紙を読み上げているかのように見せかけて、実はその手紙は心の中だけで書かれたもので、1通も出していないということが明かされる。
 上手すぎる。
 端々の隅々にまで行き届いた本とはこういうものかと思う。
 本当に堪能した。

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コメント

 いっしー様、お久しぶりです&コメントありがとうございます。

 いっしーさんは初日をご覧になったのですね。
 そして、サインは行われていたと・・・。ちょっとショック。そんなに最近まで終演後のサイン会があったなんて!

 ほんと、ストンと落ちるって気持ちいいですよね。
 私的にはもの凄く満足度が高いです(笑)。

 「おもてなし」の再演も楽しみです。
 東京はスペースゼロということで、舞台が広くなるだろうことがちょっと心配。あの「みっしり」した感じが再現されるといいなぁと思います。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2016.12.18 05:51

お久しぶりにお邪魔します。私は大阪公演の初日に見ましたが、サイン会は行われてました。途中で変更されたんですね。
甘粕大尉の名前は聞いたことあるな。川島芳子と何かのドラマに出ていたな。くらいの知識で見ても最後に物語がストンと落ち着くのは、スッキリします。次の公演は「おもてなし」の再演なようで楽しみです。またお邪魔させていただきます。

投稿: いっしー | 2016.12.17 21:55

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