「虚仮威」を見る
柿喰う客「虚仮威」
作・演出 中屋敷法仁
出演 七味まゆ味/玉置玲央/深谷由梨香/永島敬三
大村わたる/葉丸あすか/牧田哲也/加藤ひろたか
原田理央/田中穂先/長尾友里花/福井夏
観劇日 2017年1月7日(土曜日)午後2時開演
劇場 本多劇場
上演時間 1時間50分(アフタートークあり)
料金 4800円
ロビーでは、パンフレットやグッズ、過去公演のDVD等が販売され、相変わらず盛況だった。
客席に、役者さんを始めとする演劇関係者が多いような感じがしたのは気のせいだろうか。
2017年の私の観劇は、この「虚仮威」でスタートである。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台の中央に小さめの櫓のようなジャングルジムのようなものが木材で組まれ、さらにその間から赤く塗られた枝のようなものが飛び出ている。
全体として黒っぽい舞台である。不穏な感じとでも言えばいいんだろうか。
風の音が大きくなり、「間もなく始まります」というアナウンスが繰り返され、赤と黒の、それぞれが異なる衣裳を着けた役者さん達が登場して開幕である。
物語は、今の時代に、クリスマスイブの夜に妻子を置いて女性からの「すぐ来て」という電話に応じて出かけてしまった男が、彼女に「私の家の話をしてあげる」と言われるところから始まる。
その話は、彼女のひいおじいさんが若くして村の長者になり、そして、という話だ。
衣裳とのギャップが激しい。一人で何役もやるから、役柄と直結しない衣裳にしているという意味もあるのかも知れない。
村では何かが起こると山から「おろし」が吹いていて、山の神からお呼びがかかる。そこで山の神と話したり交渉したりするのが長者のお役目だ。
逆に、山の恵みをいただこうとするときは、前もって山の神のお許しを得なければならない。その許しを請うのも長者のお役目である。
長者の長男が10歳の誕生日、彼は「世界征服」の誓いを立て、自らの血でその誓いを書き記す。
そしてその日はクリスマスで、長者の家にはサンタクロースがやってきて子ども達3人にクリスマスプレゼントを置いて行く。長男の彼には鉛筆を、次男の彼には女の子を誘うために格好いい山高帽を、三男の彼には食べたいと願っていたドーナツを。
そして、長男は鉛筆で猛勉強し、東京の中学に行きたいと願い、隣村の庄屋の家に行き、枕元に置かれたキューピー人形を利用してそこにいた座敷童を連れ帰る。
そういった感じで、長男10歳の誕生日から毎年の彼の誕生日であるクリスマスの1日、村の長者の家での出来事を重ねて語って行く。
東京の中学に進学した長男は、ありとあらゆる運動に参加し、「世界征服」を目指して活動を続ける。
サンタクロースについて知識をかき集め、サンタクロースを捕まえようと、村に棲み着いた陰陽師の力を借りて結界を張ったものの、サンタクロースの力の方が強かったらしい。
逆に次の年には、サンタクロースを持てなそうと雉の丸焼きとクリスマスツリーを用意するが、山の神のお許しを得ていなかったため、山の神の怒りに触れ、長男本人も彼の父親も何も言えなかったところ、三男が「身替わり」を申し出て死んでしまう。
その三男はサンタクロースに弟子入りし、次の年、生まれた自分の家にやってくる。
この辺りからは、怒濤の展開で、長者自身がサンタクロースを銃で殺してしまったり、次男が河童の娘と結婚してしまったり、座敷童が一家のお母さんに懐いて「長者の家の子」のようになってしまったり、最後には「長男」が望んだものが「ウエディングドレス」であったことから、実は「長女」であったことが語られる。
何故だか「えー!」という感じにはならないところが不思議だ。何でもアリ感が随所にあったせいかも知れないし、長男の登場シーンが実は初潮を迎えたシーンだったのだという説明も上手い。どちらかというと「やられた!」感の方が強い。
サンタクロースが長者の家にやってきたのは、日本進出のためのサンプル調査で、なぜ長者の家を選んだのかといえば、「助けて!」という声が聞こえていたからだという。
そういう設定も上手い。
そこでジェンダーを持ってきた理由や動機はよく判らないし、必要だったのかと考えると頭が痛くなってくるけれど、仕掛け、伏線の張り方ということでいうと、ピタリとはまって見事だよな、すっきりだよ、と思う。
山の神は陰陽師との戦いに破れて死に、「長者」の家は、ちりぢりバラバラになってしまう。
それまでも時々、妻から電話がかかってきたりして話は平成と大正を行ったり来たりしていたところ、サンタクロースの話が終わり、話は本格的に平成に戻る。
彼女のおばあさんが、その「長男」であるそうだ。
「長男」が女に戻り、結婚し、子供にも恵まれたということが判る。
しかし、「長男」の孫である彼女は、付き合っていた、のかも知れない彼が「もう会わない」と言い出すことが判っていたらしい。
元々は男であった彼女は、サンタクロースの話を信じてくれた彼に感謝し、それまで別れ際に必ず「じゃあな」と言っていたところ、「またな」と言って手を振る。
家に帰った彼は、サンタクロースを信じるようになっており、サンタクロースを信じるようになった彼の家には、娘宛のプレゼントが届いている。
それは、彼の「娘」が欲しいものが入っている筈の、かなり大きな段ボールだ。
しかし、開けてみると中味は空っぽである。
空っぽの段ボールの内側に何か書いてあり、夫婦が揃って何を書いてあるのか見ようと中に入ったところで、段ボールが檻のような音を立てて閉まり、夫婦は閉じ込められてしまう。
段ボールの外からは、高笑いしている娘の声が聞こえている。
そこで幕である。
うーん、と思う。
ここだけは「どういう意味なんだろう?」と考えてしまった。アフタートークで質問すればいいようなものだけれど、あの場で質問するのはなかなかハードルが高い。
彼の「娘」は何を望んでいたんだろう。両親が離婚しようとしていることを知っていて、二人が離婚しないように我が家に「閉じ込める」ことを望んだのか、それとも不仲である両親を「二度と目にすることがない」ようにすることを望んだのか、解釈としてどちらもあるような気がする。
とりあえず、見ているときには可能性としてこの二つが浮かび、どっちもあり得るよなと思い、どっちなんだろうと考えた。
もちろん、今になっても答えは出ていない。
考えさせるような、考えなくてもいいような、展開に引きずられて集中して見ることの出来たお芝居だった。
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