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2017.02.06

「陥没」を見る

シアターコクーン・オンレパートリー+キューブ 2017 昭和三部作・完結編「陥没」
作・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 井上芳雄/小池栄子/瀬戸康史/松岡茉優
    山西惇/犬山イヌコ/山内圭哉/近藤公園
    趣里/緒川たまき/山崎一/高橋惠子/生瀬勝久
観劇日 2017年2月5日(日曜日)午後6時30分開演
劇場 シアターコクーン
上演時間 3時間20分(15分の休憩あり)
料金 8000円
 
 ロビーではパンフレット等を販売していたようだけれど、チェックしそびれた。
 ネタバレありの感想は以下に。

 シアターコクーンの公式Webサイト内、「陥没」のページはこちら。

 見終わって、「ケラさんのお芝居なのに、毒がない!」、「ケラさんのお芝居なのに、ハッピーエンドだ!」という感想がまず頭に浮かんだ。
 我ながら「ケラさんのお芝居なのに」という部分は余計だろうと突っ込みたくなるけれど、しかし、実際にその前口上付きで感想が浮かんだことも本当である。

 昭和三部作の完結編と銘打って、第1作の「東京月光魔曲」、第2作の「黴菌」と続き、そこから7年ぶりでの上演である。
 しかし、きっぱりと内容は忘れてしまっている。
 この感想を書き始めるときに、自分で書いた感想を読んでみたけれど、それでも思い出せないという体たらくだった。
 昭和4年、昭和20年ときて、この芝居の舞台は東京オリンピック直前の昭和38年だ。
 4年前のエピソードがプロローグとして語られた後は、東京オリンピック前の開業を目指し、ホテルのプレオープン翌日の一日を描く物語だ。

 小池栄子演じるひとみは、山崎一演じる父親の遺志を継ぎ、井上芳雄演じる元夫と離縁して生瀬勝久演じる男と再婚し、何とか東京オリンピック前年にホテルを始めとする複合型施設をオープンさせる。
 そのオープン翌日、元夫の再婚婚約パーティが開催されることになっており、舞台は一貫してこのホテルのロビーだ。
 生瀬勝久演じる夫は、イヤな奴で腹に一物も二物もありそうな感じである。大きなホテルのオーナーであるひとみは、しかし同時に借金を抱えており、ホテルの内装も手抜き工事なのか色々と問題があり、中古で購入したテレビも壊れてしまった。

 2階の後方席からだったので、舞台までの距離は近いけれどかなり角度がキツイ。本当に見下ろしている感じがある。
 舞台上にもキャットウォークが設けられてセットがかなり立体的だったのでそれほど違和感はなく、死角がないようにかなり配慮されていたと思う。
 映像を使うシーンでは逆に舞台全体を見られた方がその迫力を感じられるし、シアターコクーンの2階席も悪くないなと思った。

 もの凄く乱暴にまとめると、元夫の浮気が原因で別れた夫婦のお話である。
 元妻ひとみは、今は父の遺志を継いでホテルオーナーになっているが、その経営は苦しい。夫は父の会社の社員で、その割に働こうとしないし威張っているし、裏で何か画策しているし全く「好印象」とはかけ離れた男である。
 元夫は、若くて嫉妬深い女性と再婚しようとしており、その婚約パーティのために、彼の母親や弟、婚約者は天涯孤独で彼女の高校時代の恩師が代わりに来ており、ホテルに滞在している。
 ひとみを助けるべくホテルで働いている彼女の従姉妹や、突拍子もないことを言い出す元夫の弟、弟が連れて来た正体不明の長髪の男、ホテルを潰すことを目的に夫が呼び集めた浮浪舎に借金取り、元夫の婚約者の友人である歌手とそのマネージャー、プレオープンパーティに招かれた手品師と、役者は揃っている。

 そこへ、2年もたって、神様との将棋に勝ってちょっとだけ現世に戻ることを許されたひとみの父親が幽霊としてやってきて、娘の苦境に奮起したものだから、彼にくっついてきた神様の妻と息子が生きている人間に取り憑いて父親を掣肘しようとする。
 そういう、二重のドタバタを描いている。
 私は全く分からなかったけれど、「神様の妻と息子の声は、三宅弘毅と峯村リエじゃないか」と教えてもらって納得した。言われてみれば全くその通りである。

 どう考えてもドタバタするしかないこの状況で、不条理も毒もほとんど感じず、ただこの夫はロクなもんじゃないぞ〜と思っているだけでいいというのは、単細胞な私には有り難い。
 それなのに、「さてどうなるんだ」という興味が尽きず、異様な集中力を発揮している自分がいて、自分でも驚いた。「この先どうなるのか」が気になっていたのか、「いつうっちゃりがくるか」と身構えていたのか、どちらだろう。

 若い女の子同士の張り合いがあったり、あんまり上手じゃない手品師がいたり、神様が「七つ道具」を持っていて、本音を喋らせたりほれ薬を盛ったり、神様に取り憑かれた人間はその間のことを覚えていなかったり、どこかで見たことのあるようなと言ってしまえばそれまでの仕掛けが次々と繰り出される。
 そして、このお芝居は、くすぐりのような笑いが多い。しょっちゅう、笑わせられていたと思う。
 父親は、駄目な今の夫と別れさせ、婚約中の元夫とよりを戻させようと奮闘しようとするけれどあまり役に立っていない。さてどうするという話だ。

 自分の借金を肩代わりさせるためのホテルの評判を落として売らせようという夫の悪巧みが暴かれ、最後に粘ってはいたもののその男も出て行き、元夫の婚約者は元妻に悋気を発揮した挙げ句に初対面の男に心を移し、元夫の母親と高校教師は再婚を決め、ひとみと元夫はいい雰囲気になってどうやらよりを戻しそうだ。
 そこで幕である。

 大団円じゃないか! ハッピーエンドじゃないか! と思う。
 何かのインタビューで「全員を着地させたい」とケラリーノ・サンドロヴィッチが語っていて、全員が着地したかどうかは今ひとつ確信が持てないけれど、なるほどこれが「着地」ということかと思う。
 この複雑な世の中で単純明快なことを語っても仕方がないとも語っていたし、東京オリンピックという盛り上がりの裏を描きたいとも語っていたケラリーノ・サンドロヴィッチが、珍しく、物語を選び、不条理を封印し、「組み上げる」ことに注進した舞台という感じもする。
 そういう「感想」も含めて、ケラリーノ・サンドロヴィッチにしてやられているのかも知れない。

 その「してやられた」感を増幅させたのが、この贅沢にして癖のある役者陣で、結果として井上芳雄の品の良さがもの凄く際立っていた。それも狙いだったんだろうか。
 逆に、小池栄子の彼女らしさが封印され、もちろん彼女の物語なのだけれど、役者としては「舞台を支える」側に回っているような印象を受けた。

 幽霊が出て来たり、神様が出て来たり、神様が七つ道具を持っていたり、「夏の夜の夢」っぽい、私のイメージするケラリーノ・サンドロヴィッチっぽくない物語であり、舞台で、でも何故かやたらと集中してしまう力のある舞台だった。
 やっぱり、大団円が好きだ。
 でも、せっかくケラリーノ・サンドロヴィッチを見るなら毒のある舞台を見たい。
 相反する感想が両方浮かんだ。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 みずえさんも「陥没」をご覧になったんですね。
 確かに、「沈没」はチラシも何だか「壊れて行く」感が溢れていましたね。
 その割に、舞台上には壊れて行く人がほとんどいなかったような・・・。生瀬さんくらいでしょうか。何しろ、「ミーコですものね。

 もっとブラックな感じを期待していたなぁと思ったり、いやいや、そもそも私はあんまりブラックな舞台は得意じゃなかったんだと思ったり。
 色々な気持ちを呼び起こす舞台でした。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2017.02.13 23:35

姫林檎さま

私も観ましたよー!
私はチラシの印象から、もっと暗い舞台を予想していたのですが、見事裏切られましたね。
そして私も、「真夏の夜の夢」を思い浮かべました。
惚れ薬が出てくる群像劇なんて、ほんとそれっぽいですよね。
ケラさんて、振り幅の広い人だなあと改めて思いました。

悪役と言えるのは生瀬さんくらいでしたが、彼もどこか憎めなかったり。
ミーコに恋をするシーンはまさかの大爆笑。
欲を言えば、カテコには彼女を抱いて出てきて欲しかったくらい。
彼だけ一人での登場でしたからね。

私はこういうの大好きです。

投稿: みずえ | 2017.02.13 15:21

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