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2017.02.26

「皆、シンデレラがやりたい。」を見る

M&O plays プロデュース「皆、シンデレラがやりたい。」
作・演出 根本宗子
出演 高田聖子/猫背椿/新谷真弓
    新垣里沙/小沢道成/根本宗子
観劇日 2017年2月25日(土曜日)午後2時開演
劇場 本多劇場
上演時間 1時間45分
料金 5500円

 ロビーではパンフレット等が販売されていたようだけれど、お値段はチェックしそびれた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 M&O playsの公式Webサイト内、「皆、シンデレラがやりたい。」のページはこちら。

 作・演出・出演の根本宗子のことを全く知らず、高田聖子、猫背椿、新谷真弓のお三方の名前に惹かれてチケットを確保した。
 そして、劇場に行って驚いたことには、客席の男性率が異様に高い。こんなに男性の多い客席のお芝居はここのところ観たことがなかった。これは、根本宗子人気ということなんだろうか。あるいは、新垣里沙人気ということなんだろうか。

 舞台は、猫背椿演じる神保さんがやっているカラオケスナックのようなお店である。
 時間は連続していないけれど、一貫してお話はこのスナックの中で展開する。
 根本宗子演じる神保さんの継子(という言い方も古い)である由依がオープン前のお店で準備をしているところに、高田聖子演じる榎本さんが角川さんにもらったというワンピースを着て現れるところから物語が始まる。
 何故か話題は「貢ぐんだったら、自分で稼いだお金で!」である。
 この最初のシーンだけだと、二人の関係その他全く分からないので、?マークがひたすら頭の中に浮かぶ。

 神保さんと新谷真弓演じる角川さんという犬のぬいぐるみを抱えてメルヘンチックな格好をした女性が榎本さんの悪口で盛り上がる中で、やっと、この3人がデビュー前のアイドルの追っかけ仲間だということが判って来る。
 角川さんはどう見ても「お金は使い放題」という風情だし、神保さんだってこのお店はダンナが「買ってくれた」と言うのだからお金持ちに間違いない。その中で榎本さんだけは、ひたすら質素倹約に励む毎日を送っているようで、そのことが他の二人からの侮りと揶揄を生んでいるようだ。

 「りっくん」と彼女らが呼ぶアイドルのライブに行っては盛り上がり、「彼は私達が育てる」「彼を支えてきたのは自分たちだ」とまで言い切る彼女たちは一種異様ではある。
 さらに異常なことに、メジャーデビューの決まった女性アイドルが、「りっくん」の寝顔をツイッターにアップして炎上した(のだったか)ことをきっかけに、彼女たちの、その三村まりあというアイドルへの攻撃が一気に始まる。ツイッターで彼女の悪口を流し続け、リツイートしまくり、まとめサイトを作って更なる拡散を図る。
 1週間も睡眠も取らずにそんなことを続けるなんて常軌を逸しているだろうと思うけれど、何故か舞台上ではそれが自然だ。

 この3人の女優の掛け合いがメインで進んで来るので、その迫力というか説得力に負けてつい集中して「この人達はどこへ行くのだろう」とのめり込んで見てしまうけれど、よく考えるとここまで、彼女らの「りっくんへの愛」がひたすら語られているだけで、これといった展開はない。
 物語が動き出すのはここからで、しかも、ここからは怒濤の展開である。

 彼女らが三村まりあの悪口拡散に疲れ果てて眠ってしまったところへ、若い男がやってくる。
 どうも「若い男の子」というだけで同じ顔に見えてしまう私には、一瞬「彼がウワサのりっくんか?」と思えたけれど、デビュー前のアイドルがスーツを着ている筈もない。
 彼は、三村まりあのマネージャーで、欲付きにメジャーデビューを控えたアイドルの悪口拡散を精力的に行っている彼女たちと「話を付けに来た」ようだ。
 そこへ、当の三村まりあ本人も何故か紙袋をたくさん抱えて乗り込んでくる。

 三村まりあは、自分の悪口を書き散らすこの女たちに文句を言いたくて、逆にやっつけてやりたくて来たのかと思ったら、そういう訳でもないらしい。
 しかも、彼女本人は「りっくん」とは既に別れた気持ちらしい。
 いずれにしても、強気かつ「私は正しい」という自信に溢れた女の子で、近くにいて欲しくないなぁという感じである。
 角川さんに「リベンジポルノでしょ」と言い放たれる所以でもあるだろう。

 三村まりあの登場で、角川さんがりっくんにホストになることを勧めてそのホストクラブに通い詰めてプレゼント攻勢に出ていたこととか、実は榎本さんもそのホストクラブに行ったことがあることとか、神保さんまでかき入れ時の金曜にスナックを閉めてまでホストクラブに通っていたことが明らかになる。
 その都度、仲間割れしたり、くっついたり、罵りあったりした挙げ句、結局、彼女たち3人は「みんなホストクラブに通っていたのよね」と当初の結束(?)を取り戻す。
 しかし、落ち着いたところで、三村まりあから、りっくんがキャバ嬢に入れあげていることだとか、自分が妊娠したと告げたところLINEで「誰の子か判らないんだから堕ろしてくれ」と言われたことだとかが告げられ、神保と角川の二人はあっという間に熱が冷める。

 しかし、榎本さんだけは違う。
 彼女は、三村まりあに向かって「何をしにここに来たのか」「おせっかいだ」と言い放つ。
 それはそうだよなぁと思う。正論を言ってそうな三村まりあだけど、「あなた達のために言いに来ました」という立ち位置は腹立たしい。ここは榎本さんの立場に立ってしまう。
 そして榎本さんは、三村まりあの告白くらいでは自分の気持ちに何の影響もないと言い放つ。

 自分には何の楽しみもなかったし、ただ生きているだけだったけど、心で繋がっている「ただの恋人」のあなたよりもお金でつながっている自分の方がりっくんとの繋がりは強い、自由に使えるお金で貢いでいる神保さんや角川さんが使う1万円よりも自分がパートで11時間働いて稼いだ1万円の方がずっと価値があると言い放つ。
 ある意味、「お金の価値」ということも、この舞台の肝の一つであるかも知れない。
 由依の後押しを受けて(ついでにビキニキャバクラで働くことの紹介も受けて)、りっくんがホストをしている店でシャンパンタワーをするために立ち去る。

 一方、神保と角川は、最初は強気で有能なマネージャーを装っていたくせに実はダメダメな若者を連れ、厄落としとばかりに焼肉を食べに行く。
 残ったのは、三村まりあと、この騒動から一番遠いところにいた由依だけである。
 しかし、ここで由依がついに正体を現す。
 まりあに向かって、「スマホの位置情報をonにしたのは私」「りっくんがしょっちゅうあなたの話をするから、重い女の子なんだろうなと思って会ってみたかった」「こんだけ重い女の子なら、位置情報をonにすれば乗り込んでくると思った」と笑い、自分が件のキャバ嬢であることを告げる。

 そうだったのか! と驚いたのは確かである。全くそんなことは予想していなかった。
 でも、同時に、この凄さはどこに繋がるんだろうと思ったのも確かである。
 「初めてスマホを持った」という神保に角川さんと榎本さんが説明する形で、スマホやツイッターに関する情報を舞台上で怒濤のように与え、登場人物たちに「スマホに慣れていない神保さんがうっかり位置情報をonにしていたのね」と信じ込ませる伏線にするのと同時に、客席の我々に「知らなかったから驚けなかった」と言わせない。
 この舞台の始まりのシーンで、由依に「自分で稼いだお金で貢ぎたい」と言わせたり、ビキニキャバクラの話をさせて、キャバ嬢であることは言ってあったよね、という状況を整える。
 その上で、この展開である。

 由依が「貢いだ相手」がりっくんなのかどうか明確にはされなかったよなとここまで説明が尽くされている芝居を見て思うところが我ながらマヌケだ。恐らくは、由依が貢いでいる相手はりっくんではなく、りっくんはあくまでも「好きな男に貢ぐための手段」であって、それなのにりっくんは彼女に夢中で、三村まりあをあっさりと袖にする、という対比がポイントなのだと思う。
 そして、だからこそ、三村まりあの怒りは爆発し、酒瓶で由依の頭を滅多打ちにするというラストシーンなのだと思う。
 そこで、「だから?」と思ってしまうのは、私に追っかけの経験がなく、登場人物の誰にも思い入れを持たなかったからだろうか。

 そして、由依が三村まりあからずるずると逃げている一方、角川さんからもらったワンピースと神保さんからもらったシャネルのハイヒールを身につけ、真っ赤な口紅を塗った榎本さんはホストクラブでホスト達に囲まれてシャンパンタワーを楽しみ、「シンデレラ」と称えられ、満面の笑みを浮かべている。
 彼女を囲んだホストの中にりっくんがいたかどうかは判らなかった。何しろ、若い男の子達はほぼ同じ顔に見える。
 シャンパンタワーを終えたホストたちは、客席の通路を通って退場して行く。
 そういえば開演前に「演出上、客席通路を使います」とスタッフの方が通路側の席の人に注意していたなそういえば、と思い出した。

 そして、そのホスト達の退場を見ていて、うっかりラストシーンを見落としたような気がする。
 あれ、どうやって幕が降りたっけ? と思っている。満面の笑みを浮かべた榎本さんにスポットを当てて、そのまま暗くなって幕だったろうか。
 特殊な世界の話のような気もするし、この世界を「特殊だ」と思っていては何かを間違えるような気もする。
 間違いなく集中力を要求され、それは隠された意味を探れという集中力というよりは与えられた情報をとにかく咀嚼しろという集中力だったような気がする。
 そして、1時間45分の集中の後、腑に落ちていないのにどこか開放感を味わえた舞台だった。

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