「足跡姫」を見る
NODA MAP「足跡姫」
作・演出 野田秀樹
出演 宮沢りえ/妻夫木聡/古田新太/佐藤隆太
鈴木杏/池谷のぶえ/中村扇雀/野田秀樹 ほか
観劇日 2017年1月28日(土曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場 プレイハウス
上演時間 2時間50分(15分の休憩あり)
料金 9800円
ロビーではコンパクトサイズのパンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
中村勘三郎へのオマージュだということは、ちらしなどに書いてあったので知っていた。
しかし、中村勘三郎そのものを描くのではなく、そのエッセンスといえばいいのか、思いといえばいいのか、そういったものを描くのだと野田秀樹がどこかに書いているのを読んだようにも思う。
劇場には花道が作られていたし、出雲の阿国だし、歌舞伎を連想させる仕掛けもたっぷりある。
そこまで材料が揃っているのに、何故か釈然としない。
見終わって、もやもや感が残ったのは何故なんだろうと思う。
宮沢りえ演じる三四代目出雲の阿国は、女歌舞伎の花形で、今でいうところのストリッパーだ。黒いシースルーの着物の上に着物を羽織り、その下にはボディスーツっぽいものを着ているように見えたけれど、まぁ色っぽい。
禁止されている女歌舞伎だから、中村扇雀演じる役人が踏み込んでくると、妻夫木聡演じる阿国の弟猿若たち男が「代行!」と舞台の上に飛び出す。
この猿若が穴を掘るのが大好きだったり、一座を主催する池谷のぶえ演じる万歳三唱大夫にも、阿国の妹分である鈴木杏演じるヤワハダにもそれぞれ野心があり企みがある。
あわや追い出されそうになった猿若に、阿国は「筋書き」を書くように言い、しかし「売れそうな」モノが書けずに古田新太演じる幽霊小説家に代わりに書いてもらうようになる。
その幽霊小説家の「死体」を買い取って腑分けしようとしていた野田秀樹演じる「ふわけもの」や、猿若が掘った穴を利用しようという佐藤隆太演じる「たわけもの」らも一座に加わって・・・、という筋書きだ。
幽霊小説家が実はどうやら死んだと思われていた「由井正雪」だったり、「ふわけもの」のくだりでは「ターヘル・アナトミア」なんて単語が1回だけ出て来たり、阿国に「足跡姫」が憑依したり、足跡姫はどうやらたたら製鉄と関わりがあったようだったり、川に捨てられた死体が東海道四谷怪談の様に現れたり、大体「猿若」の名前からして歌舞伎を連想させるし、仕掛けは色々と施され、言葉遊びも散りばめられている。
なのに、カタルシスがない。
何故なんだろう。
いつもならそれぞれの設定に必然性が感じられたり、そもそも必然性があるかなんて疑問が浮かばなかったりするのに、この「足跡姫」は何故かすっきりしないところが残る。
いつか消えるもの、失くなってしまうもの、見ることができなくなってしまい、熱狂の記憶だけが残る。
あるいは、ざわざわっとした「思い」だけが残る。
そういう「芝居」というもの、伝えよう見せようという芯のようなもの、それこそを見せたいと思ったんだろうということは判る。
それでもすっきりしないのは何故なんだと考えて、最後に猿若が全てを語ってしまったからじゃないかと思い当たった。
足跡姫に取り憑かれた阿国は、足跡姫を取り憑かせたまま弟の猿若の持つ刀に身を投げて死んでしまう。
死んでしまった姉を抱きかかえ、満開の桜をばっくに、猿若は「勘三郎」として代替わりを重ね、芝居を続け、十八代までも続く「代行」を行うことを誓う。
姉の思いを継ぎ、その舞台を続け伝えようという決心を語る。
ラストシーンだけ、本当に赤裸々に「語りたいこと」「伝えたいこと」が台詞にまんま乗せられて語られているような気がして、それが居心地悪かったんだと思いついた。
しかも、バックには満開の桜の花、桜吹雪が散り、阿国が死にかけそして死んでしまったところに、弟がその思いを語るという鉄板のシチュエーションに目がくらんで、何だか説得力はなかったのに納得させられてしまったような、言葉は悪いけど騙されたような気分にさえなってしまう。
恐らくは、「足跡姫」のパズルは緻密に組み上がっていて、見ているこちらの知識不足だったり、「勘三郎へのオマージュ」という先入観が邪魔したり、それでわーっというカタルシスを味わえなかっただけだと思うけれど、理由はどうあれやっぱりもやもや感が残ったというのも本当だ。
宮沢りえはやっぱり綺麗だし、鈴木杏は上手いなぁと思う。
何故か艶っぽさというよりは「健康的な色気」という感じが強かったのが不思議だ。もっと猥雑な感じでもいいのに! と思う。
池谷のぶえの万歳三唱大夫は、今、誤変換されて「山椒大夫」にもかけられていたのだと初めて気がついた。安寿と厨子王の話もちらっと出て来ていたのに察しが悪いこと限りなくて本当に申し訳ない。
妻夫木聡の頼りなく情けない感じはハマり役で、でももうちょっと力強い声を出しても良かったんじゃないかと思ったり、佐藤隆太のたわけものはもっと暴れてくれればいいのにと思ったし、中村扇雀は「十役人」と言いつつ八役しか演じていなかったけれど、それはそれとしてやっぱり色々な役をちょっとずつ演じるというのは存在感という意味ではハードルが高いなと思ったり、ふわけものの野田秀樹はそういえば今回はあまり大きく動いたり声を張り上げたりしていなかったなと思う。
古田新太の力の抜けた感じはともかくとして、男性陣はみんなもっとはっちゃければいいのにと思ったりした。
由井正雪とかたたら製鉄とか江戸幕府とか安寿と厨子王とか東海道四谷怪談とか、あちこちに散りばめられたモチーフが果たしてどんな役割を果たし、どんな形のピースだったのか、やっぱり何だかもやもやとしている。
でも、そのもやもやも含め、探求心がくすぐられ刺激される舞台だった。
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コメント
アンソニーさま、コメントありがとうございます。
えーと、ご機嫌は普通です(笑)。
結局のところ「判らない」「すっきりしない」というだけの感想ですみません・・・。
本当に見終わってもやもやしちゃいました。
とりあえずそういうときは、自分の知識不足は遠く高い棚の上に置くことにしてます・・・。
そうすると、やっぱり、いつもは知識のない私にも奇跡的に組み上がったカタルシスを味わわせてくれるのに、と思ってしまったのでした。
「足跡姫」は観劇1回の予定ですが、もう1回見たら、おっしゃるとおり、感想が変わるかも知れません。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.02.04 11:10
こんばんは、姫林檎様。ご機嫌いかがですか?
今回も読み応えのある感想、ありがとうございます!
暫から始まって、中村を彷彿させる猿若だったり山椒大夫で行く先の暗い事を漠然と感じたりしていたらもう最後でした。
こちらが知識として持っておかないと拾いきれない内容で私にはわからないことが多すぎて、ちょっともう一度観ようかなと相変わらず思わされてます。私のモヤモヤの原因は恐らくその辺です。
形に残らない芸術ということで蜷川さんの演出へのオマージュもあったのかなぁと思ったりしてます。
そして全然関係ないだろうけど野田さんのニューバランスのスニーカーが妙に舞台の衣装で浮いていて気をとられました。
投稿: アンソニー | 2017.02.03 23:14