「ハテノウタ」を見る
MONO「ハテノウタ」
作・演出 土田英生
出演 水沼健/奥村泰彦/尾方宣久/金替康博/土田英生
高橋明日香/松永渚/松原由希子/浦嶋りんこ
観劇日 2017年3月25日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場シアターウエスト
上演時間 1時間35分
料金 4200円
ロビーではパンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台セットは、学校の教室のようである。教室をくるっと45度回転させてある感じだ。
しかし、幕が開くとそこは「学校を再利用したカラオケボックス」か、「カラオケボックスの一部屋を学校の教室のように作ってある」お部屋であることが判る。
何しろ、いきなりマイクを持って歌っている。
一番手前の天井付近には、向こう向きにテレビも設置されている。
廃校が決まっていたその高校の最後の卒業生で、ブラスバンド部の仲間が集まったらしい。
最初は男だけで歌っていて、そのうち二人が女性陣を迎えに駅まで行ったら、実は女性たちは女性たちで早めに来て別の部屋でカラオケで盛り上がっていたことが判る。
登場した女性陣がみな「若かった」こと、彼らが一堂に会するのは30年ぶりだか60年ぶりだかで近況報告が行われることから、実はこの世界ではエバーグリーン(と聞こえた)という薬が普及しており、その薬を飲めば主に外見とあとその他諸々も若いまま保つことができ、この薬は女性の方がずっと効果があり、しかし薬を飲む頻度によってその効果には違いがある、ということが判る。
上手い設定だなぁと思う。
MONOは男性5人の劇団で、多分みな同世代だ。
「若い役者さんを客演に迎えて上演しよう」というときに、親子とか会社とか、その年齢差をそのままの設定で使って「場」を作るのではなく、逆に「全員が同い年」にしちゃう。荒業である。
登場人物が全員同い年で同窓生という設定は、確固として出来上がった「男5人の劇団」に加わる女優陣にはハードルが高そうではあるけれど、でも、何というか、そのことで役者さんとして対等の関係から始められるんじゃないかしらと勝手な妄想をした。
それだけでは終わらない今回の設定では、彼らはみな99歳であり、そして99歳のうちに「コンフォートセンター」と呼ばれる施設に自ら出向き、そこで死ななければならないと法律で決まっているらしい。
そして、ブラスバンド部の部長を務めていた尼子が今夜コンフォートセンターに行くことに決めており、だから今日、ブラスバンド部のメンバーが彼を送り出すために勢揃いしたようだ。
その状況が判ったとき、MONOは「死」をテーマにすることが増えたなと思った。
全ての公演を欠かさず見られている訳ではないので乱暴な感想だけれど、でも、そう思った。
もちろん、今日各日に死ぬ人がいる同窓会、60年振りに集まった同窓会、エバーグリーンを飲む頻度に個人差があり「健康状態」だけでなく「見た目年齢」が著しく異なる同年齢の男女が集まった同窓会が何の波乱もなく終わる筈もない。
ましてや、「主役」である尼子が「高校時代は自分の自分の人生の中で最も輝いていた3年間だった。それを汚して欲しくない」と思っていたら尚更である。
さらに、みんなに「陸」と呼ばれている女性がいて、かなり面倒臭そうな性格で今も何かで拗ねて飛び出して行ってしまっており、エバーグリーンに反対して他の女性陣に比べて明らかに年齢を重ねた容姿をしており、ブラスバンド部の顧問でそれぞれが何らかの差し障りを覚えている先生に心酔していたとなると、「懐かしかったね」「楽しかったね」で終われる筈もない。
そして、MONOは、そういうゴツゴツした手触りというか、ヒリヒリした感じというか、ちょっと嫌な気分にさせる登場人物の使い方というか、「無神経」な感じとか、人間関係やそれぞれの登場人物が抱いている不満や不信を正面衝突でなくぶつけることが「必須」になっているように思う。
そこがちょっと苦手だし、でも、それがなければMONOではないという気もする。
当時の顧問の先生がエバーグリーンや安楽死の反対運動に関わっていたようで、その先生が学校を辞めたきっかけは何だったのか、仲間の一人が退学した理由は何だったのか、双子の姉妹が実は1・2先生のときに入れ替わって学校生活を送っていたこと、当時の恋愛模様などが次々と少しずつ浮かび上がって来る。
飲み物を取りに行ったり、一度飛び出していた女性が再び飛び出して行ったり、彼女を探しに行く仲間がいたり、疲れちゃったと戻って来る仲間がいたり、「二人で話したいから」と追い出す人がいたり、この複雑な状況の中でひたすら歌うことに固執するメンバーがいたりすることで、「カラオケボックス」に残るメンバーが少しずつ変わり、メンバーが替わることでそこで話される内容も変わる。
やっぱり、上手い。そして、自然だ。
もちろん、「尼子が今日死ぬ」ということは、この舞台で解決する問題ではない。
彼はもしかしたら「キラキラした高校時代」を最後に失ってしまったのかもしれない。
でも、ずっとマイナスのコメントを続けていた陸が、双子の姉に「あなたは歌っているときだけは前向き」と促されて「ハテノウタ」というブラスバンドでも演奏した歌を歌ったとき、何だかとにかく何かが少しだけ上向いたような空気が流れ、そしてその歌の途中で尼子はカラオケボックスを出て行く。
そのことに気づき戸惑う陸と、そのまま知らんぷりをしていましょうと全身で訴える元彼女の女性と、ずっと「呼吸器系が弱っている」と言っていた男性が具合悪そうに机に突っ伏したところで、幕である。
お約束に負けたと思いつつ、この最後のシーンでやっぱり涙が出て来た。
人が一人、自分の死を、淡々と引き受け、仲間から去って行くということは、やっぱり凄い力がある。
何とも複雑な後味の残る舞台だった。
そして、最後に歌われた「ハテノウタ」を含め、劇中で歌われたカラオケ曲がすべてオリジナルというのも、何だか凄いし、浦嶋りんこの歌声ももうそれだけで一つ完成している世界であり、感情の色々を根こそぎ洗い流す力があった。
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