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2017.03.20

「死の舞踏」を見る

シス・カンパニー公演ストリンドベリ交互上演 「死の舞踏」
作 アウグスト・ストリンドベリ
翻訳・演出 小川絵梨子
出演 池田成志/神野三鈴/音尾琢真
観劇日 2017年3月19日(日曜日)午後6時30分開演
劇場 シアターコクーン
上演時間 1時間55分
料金 7800円

 こちらもロビーではパンフレットのみ販売されていたけれど、お値段等はチェックしそびれた。
 ネタバレありの感想は以下に。

 シス・カンパニーの公式Webサイト内、ストリンドベリ交互上演のページはこちら。

 「令嬢ジュリー」と交互上演をしている今回の企画の目玉は、交互上演をしている上に、それぞれの舞台セットが全く違うということだと思う。
 舞台セットが違うというか、劇場が違う。
 「死の舞踏」では、真ん中に舞台が設えられ、その両側に観客席が作られている。私が見た右サイドの方が客席の列数が少なかったから、左サイドの方がメインという扱いだったのではないかと思う。
 「令嬢ジュリー」のときの天窓が、その下に大きな窓というかドアがついて、バルコニーに出るような扉になっている。元監獄だという割に贅沢な作りの部屋の設定だ。

 一旦真っ暗になった客席に照明が入り、物憂げにカウチに寄りかかる神野三鈴演じるアリスと、オットマンに足を乗せて寛ぐ池田成志演じるエドガーが、そのまま動かずに時間が止まったような瞬間を延々と見せる。
 何だか矛盾する表現だけれど、そういう風に感じられる。
 彼らは夫婦で、ここは孤島で、エドガーは軍人、アリスは元女優でエドガーの妻、ということが二人の会話から何となく判って来る。
 「令嬢ジュリー」でも使われていた伝声管がこの部屋にもあり、エドガーはクリスティンという名の料理女にその伝声管で指示を飛ばしている。

 クリスティンという料理女が最初からこの「死の舞踏」という戯曲に登場していたのか、それとも、今回の企画のために二つの芝居を何となく繋げるために創った役(といっても役者は登場しない)なのか、どちらだろう。
 最初、エドガーが黒いブーツを履いているのを見たときには、ジュリーの父親である伯爵なのか? と思ったけれど、これは私の穿ちすぎというもので、恐らくは当時の男たちにとって黒い膝丈のブーツは普通のありふれた履き物だったのだと思う。

 もの凄く乱暴に言うと、「令嬢ジュリー」はジャンという男を挟んだ三角関係の話で、「死の舞踏」はアリスという女を挟んだ三角関係の話だ。
 そして、エドガーとともにアリスを挟んでいるのは、音尾琢真演じるクルトという男だ。
 エドガーは最早老境に入った男で、アリスはその11歳年下の妻、クルトはアリスの親族のようだけれど、年齢等々は不明である。
 そのクルトがこの島に赴任することになり、20年ぶりとかそれくらいに会うエドガー夫妻に挨拶するために二人の家にやってくる。

 ここでもやはり、アリスとクルトは幼なじみというか、昔から知っている仲で、ついでにクルトは強気な女の子であったアリスに惚れていたらしい。
 それを知っているアリスは、エドガーという「牢獄」から放たれるためにという気持ちもあって、クルトに粉をかけ始める。
 同時に、エドガーとアリスは、毎日のように罵り合い、憎しみ合い、全く仲よさそうには見えない、どうして一緒にいるのかよく判らない夫婦のように見える。

 池田成志が演じていることもあって、エドガーという男は、嫌な奴だし、どうも権謀術数に長けているという設定のようだけれど、同時に憎めない感じもある。その憎めない感じも含めてイヤな奴だ。
 それならアリスに一方的に同情を寄せることが出来るかといえばそういう感じでもなく、彼女は彼女で嫌な女であるように見える。この男に優しくなんかできないわよね、そりゃあ、という風にも思うけれど、でも、もっと上手くできるんじゃないのとも思うし、さっさと別れちゃえばいいんじゃないのとも思う。
 それが出来ないという時代なのかと最初は思っていたけれど、クルトを誘惑しつつも、アリスはエドガーをやっぱり愛しているんだなという陳腐な感想が浮かんで来る。

 見ながら、「さっきの若者達より、こっちの男女の方がまだ判る気がする」と何度も思ったのは、多分こちらの年齢のせいだと思う。
 実際のところは、この「憎しみ合い罵り合いながら一緒に居続け、ついでに愛情も感じているらしい夫婦」のことはよく判らない。この強烈な夫婦に振り回されるクルトという男は気の毒だとは思うけれど、常識人がこの異様にパワフルな夫婦に関わろうとする方が僭越なんだよ、と何故だか突き放す気持ちになるのが不思議だ。
 我ながら、一体私は誰の味方なんだろうと思う。

 エドガーがクルトの息子を自分の部下にすることにした、自分はあと20年は生きられると医者が保証した、財産をアリスに残すことはせず離縁する、と言い出したことで、アリスはクルトを巻き込んでエドガーの不正を訴え出て復讐と逆転勝利を目指そうとする。
 しかし、エドガーの発言は全て嘘、エドガーがまたも心臓を押さえて倒れるとアリスは必死でエドガーに縋り付く。
 クルトはもう完全に蚊帳の外で、逃げ出したクルトは、エドガーに「あいつを許してやれ、元々気が弱いんだ」と庇われる体たらくだ。本当にいい面の皮である。

 もうすぐ死ぬと言われたと語るエドガーは、続けて、自分達の銀婚式を盛大にやろうと静かに話す。
 アリスはもう反対しない。ただエドガーの語るプランを聞いている。
 そうして、幕だ。

 ただひたすら「こっちの方が判る」と思いながら見ていたような気がする。
 池田成志がエドガーを演じたこの芝居と、お亡くなりになった平幹二朗がエドガーを演じる芝居は、多分、全く違うものだったんだろうという気がする。
 何より、エドガーとアリスの関係性が全く違うように見えたと思う。
 でも、言うまでもなく、池田成志、神野三鈴、音尾琢真の3人が演じた「死の舞踏」は、完成された「死の舞踏」だったと思う。

 「死の舞踏」というタイトルからはもっとおどろおどろしい、宗教的だったり艶っぽかったり、悪魔的なイメージが浮かぶけれど、この芝居から、私はそういったものはあまり感じなかった。どちらかというと、全身全霊をかけた、生身の人間のぶつかり合いという印象が強い。
 この舞台が何故「死の舞踏」というタイトルなのか、もの凄く判りやすい理由のような気もするし、深い暗喩があるようにも思う。

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コメント

 アンソニーさま、コメントありがとうございます。
 そして、こちらもお返事が遅れまして申し訳ありません。

 私はこちらを後で見たのですが、どうしてこの2本のお芝居を同時かつ交互に上演しようと思ったのか、実は未だによく判らないなぁと思います。
 どうしてなんでしょう。

 池田成志さんの醸し出す嫌な感じは、私のかなり苦手とする嫌な感じなのですが、平さんが演じたときにやっぱりこの「嫌な感じ」を出そうとされたんだろうか、という風に思ったりしました。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2017.04.09 22:54

こちらからもこんばんは。

二人の年齢が近くて始めの方の
私はあなたより11歳も若くて……的なセリフに
???と思っていたのですが、
そうですよね。これ平さんが演じる予定だったんですよね。

池田成志さんよかったですけど、平さんのも
観てみたかったです。

舞台の大きな窓、綺麗でした。

投稿: アンソニー | 2017.04.04 22:13

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