「並河靖之七宝展 明治七宝の誘惑―透明な黒の感性」に行く
先日、東京都庭園美術館で2017年4月9日まで開催されている並河靖之七宝展 明治七宝の誘惑―透明な黒の感性に行って来た。
私が思っていたよりも「七宝」や「並河靖之」氏に人気があるのか、終了間近なためか、結構な人出で驚いた。
そして、和服姿の女性も多かった。何というか、珍しい雰囲気だ。
明治時代に海外輸出された美術工芸品として人気があった「七宝」の、その海外向けの作品で当代一流と評価された並河氏の作品と、明治時代の七宝の(多分)「逸品」が展示されていた。
七宝ってよく知らないわと思っていたところ、新館では七宝の説明が映像で流されていて、とても判りやすかった。
そして、現代の「七宝」と、並河氏の「七宝」とは、釉薬も作り方もかなり違うらしい。元々が独学で始めた方のようで、独自の技法や工夫が凝縮されていたのが並河氏の「七宝」だったようだ。
美術工芸品だし、「花瓶」や「香炉」「飾り壺」といった辺りの作品が多い。
意外と「お皿」は少なかったなぁと思う。会場で読んだ解説によると、並河靖之氏は平面的な作品が少なく、壺などの立体というか曲線の作品がほとんどだという。
意匠としては、蝶が多かった印象だ。
目にしたものは少ないと思うけれど、「波」という意匠も多かったらしい。花や蝶だと季節ごとに変えられるけれど、「波」であれば季節を選ばずに使えるから重宝されたということのようだ。
単眼鏡の貸出もあったくらい(私が行ったときには全て貸出中だった)、とにかく細かい。
七宝は、下絵を描き、それを下処理した土台に描き写し、描いた線の上に銀のリボンを置き、釉薬で固定し、銀のリボンで縁取りされた中に釉薬で色を付けて行く、という作業工程のようだ。
壺や花瓶を見ているときはそれほど思わなかったのに、同じサイズの下絵を見たときに「何て細かいんだ!」と思ってくらくらしてしまった。
本当に細かい。
並河靖之氏は「黒色透明釉薬」が特徴と言われているそうで、作品も黒地のものが圧倒的に多かった。
青磁のような色や黄色っぽい色など、他の下地の色を使っている作品が浮いて見えたくらいである。最初は、「七宝とは黒地の上に描くものなのね」と勘違いしてしまった。
でも、「黒地に〜」と説明書きがある作品でも、私の目には濃い藍色(瑠璃紺というのだろうか)に見えていて、これは絶対に黒じゃないと思うんだけど、と思っていたところ、説明の映像の中で、藍など他の色を重ねて黒を作っているというような話があり、私の目は確かだった! と一人で満足した。
作品名がどれもこれも似ていて最早判らなくなっているけれど、最初の方に展示されていた飾り壺で、黒地に菊の花が丸の中に描かれ、側面に藤の花が垂れている飾り壺が一番好きだった。
一番大きいところで、直径が10cmくらいだろうか。
黒地に白と紫の藤の花の房が垂れていたり、明るめの黄色や緑色で菊の花が描かれていたりする。
主役とは言えない葉っぱに、緑のグラデーションがかかっていたりして、本当に細かい。
七宝と言われると「ペンダント?」という感じで装飾品のイメージだ。
この七宝展で展示されていた作品も「美術工芸品」なので、「花瓶」とあっても恐らくは花が生けられたことは一度もないのではないかと思うし、お香が焚かれたことのある香炉もなかったのではないかと思う。
そもそも二つが一対となった飾り壺も多かった。
七宝は、例えば花瓶としての使用に耐えるような素材なんだろうか。それとも、「七宝の花瓶に花を生けるなんてとんでもない!」という素材なんだろうか。
普通のいわば無機質な会場に飾られるよりも、庭園美術館に展示されている方が、何だか似つかわしい感じがした。
できれば展示ケースの中ではなく、飾り棚やテーブルの上にさりげなく置かれているといいなぁと思う。なかなか難しそうだけれど、せっかくの「お屋敷」の建物である。
目の保養という言葉が似つかわしい美術展だった。
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