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「不信~彼女が嘘をつく理由」
作・演出 三谷幸喜
出演 段田安則/優香/栗原英雄/戸田恵子
観劇日 2017年4月1日(土曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場シアターイースト
上演時間 2時間15分(15分の休憩あり)
料金 9000円
優香人気なのか、久々に男性トイレの行列を見た。
ロビーではパンフレットが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
場内は、舞台を挟んで両側に観客席がある作りになっていた。
黒い床、両脇に作り付けの無印っぽい棚が用意され、黒いスツールが線に沿って自動で動いて場面転換を行う。
というか、それで、お隣同士の家の「どちらにいるか」を表現していたような気がするけれど、実際はそれで見分けを付けるところまでには辿り着けなかった。
段田安則と優香演じる夫婦が、栗原英雄と戸田恵子演じる夫婦の隣の家に引っ越してくる。
隣というか、もうちょっと近い感じで、長屋のお隣、という感じだ。庭も共有しているらしい。
物語は、段田安則と優香演じる夫婦の側から描かれる。この二人のシーンはあるけれど、栗原英雄と戸田恵子が二人だけのシーンはほとんどない。すべて、段田安則と優香演じる夫婦の側から見た「出来事」として語られる。
最初の異変は、栗原英雄と戸田恵子の住んでいる家が、年老いたヨークシャーテリアの匂いが充満し、もの凄い悪臭だったことだ。
その時点で段田安則演じる高校教師としてはアウトだったらしい。
しかし、優香演じる編集者の妻は、「お隣との付き合いが多くなるのは私」と、そこは世間体重視で、匂いにも気がつかないフリができる強かさを見せる。
強かさというよりは調子の良さと言うべきかも知れない。
そのうち、編集者の妻が立ち寄った隣町のちょっと高級なスーパーマーケットで、お隣の奥さんを見かけ、お隣の奥さんが万引きをしていたところから、話はどんどんおかしくなって行く。
編集者の妻は「安いから隣町のスーパーに行った」と言い、「奥さんが万引きをしていることを隣のご主人に言うべきだ」と主張する。しかし、自分で言うのもイヤだし、自分が万引きを見たことにするのもイヤで、全部を夫に押しつける。
もちろん、その作戦は上手く行かず、編集者の妻は「よく言い聞かせておきます!」と宣言する調子の良さを発揮する。若くて可愛いって得ね、というところなんだろうか。
さらに、お隣の旦那さんが勤務先の女子校までやってきて、自分の妻の万引きを認めた上で口止め料として200万円払ったり、この200万円のことを高校教師の夫が編集者の妻に言わず、1万円くらいする高級クッキーをもらったと言ったり、彼らの家でホームパーティを開いたらいくつかのモノが失くなり、後日に編集者の妻がお隣の家で失くなったモノを発見したり、それでもお隣の奥さんは「盗んだ」事実を認めなかったり、話はエスカレートして行く。
しかし、嘘を吐いている「彼女」は誰なのか、というのは常に気になる。
万引きをしたのにしていないと言い張る「お隣の奥さん」が嘘を吐いていることは間違いないけれど、正義感を発揮しているように見える編集者の妻だって、数々の嘘を自分の夫に言わせている。
どっちかというと、「嘘を吐いている彼女」は、編集者の妻のことだよね、と思う。
笑いがあると言えばある。
でも、それは気持ちのいい笑いではない。
編集者の妻の調子の良さは笑いを生む要素ではあるけれど、調子の良さは同時にずるがしこさにも繋がっていて、手放しで楽しめるような感じではない。
「警察に言うべきだ」と言い張る編集者の妻に負け、夫婦揃って警察に赴いたところ、お隣の旦那さんが「操作担当の係長さんである警部補」として登場し、暗転。休憩に入る。
舞台の作りもそうだし、この時点で、私は休憩後には、同じ話を今度は「警部補である夫と専業主婦である妻」の側から描くのかしらと思っていた。
二人の彼女の立場からこの話を描くことで、彼女たちがそれぞれに吐いていた嘘を浮かび上がらせるという構造なんじゃないかと想像した訳である。休憩の前後の時間がちょうど1時間ずつだったことも、この妄想を強化した。
しかし、もちろん、私の想像の通りになどに話が進む訳がない。
休憩後、真っ暗な舞台に明かりが入ると、そこには「休憩前」と全く同じ状況が演じられていた。お話はここから更に先に進むらしい。
高校教師と編集者の夫婦が警察に行ったことで、警部補の妻が万引き常習犯であることが職場に判ってしまい、お隣のご主人は警察を退職、探偵事務所に雇われることになる。
もらった200万円をどうすればと言いつつ返す気がなさそうな高校教師に、元警部補は「勉強代だと思っている」「自分が警察を辞めたことは言わないで欲しい」と言う。
さらに、お隣の奥さんが置いていったぬいぐるみに盗聴器が仕掛けられていることが判って興奮した高校教師の夫は、妻が万引きを目撃したこと、自分達夫婦が盗まれたモノを確認するためにお隣の家に侵入したこと、お隣の旦那さんが警察を首になったこと等々を盗聴器に向けて怒鳴りつけてしまう。
すると、今度は、盗聴器で聞いていた内容を録音していたお隣の奥さんから、「知りたくなかった夫の解雇を聞かされた」のだから「聞きたくないことも聞いて貰う」と、編集者の妻は夫が浮気相手に200万円手切れ金として支払った様子を聞かされる。
最早後先が判らなくなっているけれど、編集者の妻の「お隣が怪しい」はついに「あの旦那さんは奥さんを殺したんじゃないか」というところまで行き着き、そう言われたお隣の旦那さんは、「そうか、自分には殺す動機があったんだ」と気付かされて実際に妻の首を絞めてしまう。
そこで、話は終わる。
舞台はまだ先があったけれど、お話としてはここで終わった、という気がする。
ここで初めて、高校教師と編集者夫婦ではなく、お隣の住人の心情が語られる。妻は死んでしまっているから、語っているのは元警部補の夫だ。
彼は、隣家に越してきた夫婦を「恨んではいない」けれど、彼らは知らず知らずのうちに「誰かの生活を壊している」のだと指摘する。
さて、指摘した相手は誰だったのだろう。
そうして「普通なつもりで他人の生活を破壊している」と指摘された夫婦は、お隣で殺人事件が起こったことを話の種にしてキャラキャラと笑っている。
元警部補のお隣の言うことももっともだと思わされる。
そして、突然、高校教師の夫の口調が変わる。妻が隣町の高級スーパーに「安い」と嘘を吐いてまで通っていたのは、その隣町に不倫相手がいるからじゃないか、不倫相手の家に通いやすいからこの家を選んだのじゃないか、だから最近綺麗になったんじゃないかと静かに語る。
そう言われた妻は、詰んだ様子も見せず、「あなたがお隣のご主人からもらった200万円の使い道なんだけど」と返す。
一瞬の間の後、夫は「たまには美味しいものでも食べに行こうか」と提案し、「そうね」と妻が笑顔で答える。
そこで幕である。
演じている役者さん達は、それぞれ滑舌が良くて聞きやすい。向こう側を向いてしゃべっていてもきちんと聞き取れる。両サイドから挟む形でも、表情を含め「見えない」「聞こえない」というストレスはほぼなかった。
そして、それぞれが「はまり役」を演じていたと思う。
登場人物は、「彼女」だけでなく「彼」も含めて全員が嘘吐きだ。
その嘘が嘘を呼び、ときに転び、ときに変な方向に彼らの生活を転がして行く。
それなのに、何故か「見事に組み上がっている」という印象がない。何だか散漫な印象なのは何故なんだろう。
間違いなく贅沢な舞台で、なのに何だか釈然としない感じが残った。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
恥ずかしながら、私は、栗原氏の職業も、イヌのぬいぐるみの仕掛けも、全く予想していませんでした。
「休憩後は、栗原夫妻側から見た同じ話が上演される」という思い込みを終始持っていたことが理由だと思います。
こじつけ臭い&言い訳がましいですが・・・。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.04.09 23:00
私も観ましたよー。
ドキドキしました。
四人とも達者なので、余計怖くなりました。
そして、ありえなくもない話ですよね。
こういう、無邪気な悪意っていうのが一番怖いかも。
ただ、栗原さんの職業や、いぬのぬいぐるみの仕掛けなんかは、こちらも察しがつきますよね。
これはあえて、だったんでしょうか。
投稿: みずえ | 2017.04.05 14:42