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「サクラパパオー」
作 鈴木聡
演出 中屋敷法仁
出演 塚田僚一/中島亜梨沙/黒川智花
伊藤正之/広岡由里子/木村靖司
市川しんぺー/永島敬三/片桐仁
観劇日 2017年5月13日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京国際フォーラム ホールC
上演時間 1時間50分
料金 9000円
ロビーでは、パンフレット缶バッジの非常にひっそりとした物販コーナーがあった。
ネタバレありの感想は以下に。
国際フォーラムのホールはほとんど行ったことがなく、大きさの見当が付いていなかった。入ってみたらかなり大きい。そして、かなり舞台を遠く感じた。
舞台のど真ん中にメリーゴーランドが据え付けられ、メリーゴーランドを囲むようにぐるっと通路があって、全体として八百屋になっている。
舞台手前の左側にバー、右側に馬券売場がある。
メリーゴーランドはパドックであり、競馬のコース(正式名称がよく判らない)である。
「サクラパパオー」がラッパ屋で上演された芝居であることは知っていて、だから鈴木聡作であることも知っていた。
今回の公演は確か演出は鈴木聡じゃなかったよなぁ、誰だったかしらと思って見ていて、帰宅して確認したら中屋敷法仁だったのが意外だった。
何というか、中屋敷法仁だったらもっと奇抜というか、普通っぽくないというか、何か仕掛けがありそうな気が勝手にしていたからだ。もっとも、よく考えてみれば、競馬場をメリーゴーランドにしちゃっているところで、相当に奇抜なのかも知れない。
塚田僚一演じる俊夫が、何だかやたらと跳んだり跳ねたりバック転をしたりする。この役はラッパ屋では福本伸一が演じていたんだろうなぁとまた余計なことを考える。
どうしてまたバック転をしていたのか判らないけれど、とにかくこの俊夫がかなりノリの軽い若者で、結婚間近の相手がいて、しかし彼女には競馬が趣味なこと等々を隠しているらしいことが判る。
俊夫がデートに夜の競馬場に来たところから物語は始まるけれど、もしかすると一番「物語」がないのが、この若者二人かも知れない。
この劇場の大きさでは仕方がないというか当然のことだと思うけれど、それにしても何故か「マイクを使っている」感が最初の台詞から溢れていた。
なぜだろう?
マイクを使っていても、マイクを通した声かどうかこんなにはっきりと判別できることって少ないように思う。劇場の広さなのか、構造なのか、できればもうちょっと判りにくくなっていた方が有り難い。
俊夫が札幌で浮気した、のかも知れない中島亜梨沙演じる女性ヘレンが現れ、俊夫はヘレンの連れらしい伊藤正之演じる男井崎の正体を探ろうとするも、二人でさや当てをしているうちに、片桐仁演じる本命らしい男が現れてヘレンを連れ去ってしまう。
井崎は10分前にヘレンと知り合ったばかりらしい。それでレストランとホテルを予約したというこの男も阿呆らしいけれど、婚約者と来ているのにそのことをすっかり忘れている俊夫も相当に阿呆だ。
もしかすると、そういう(恐らくは愛すべき)莫迦な男達がこの物語の主人公なのかも知れない。
そういう意味で一番阿呆なのがか片桐仁演じる的場で、外務官僚でヘレンに入れあげて公金横領し、今日中に800万円を競馬で稼がなければ全てがばれる、という状況で競馬場に来ている。
阿呆過ぎる。
そして、それでも全く懲りていないらしいところがもっと阿呆だ。
当たるなら自分で買えばいいじゃないかと自ら言う木村靖司演じる予想屋も、予想屋に頼った挙げ句に私が馬券代をちょろまかされる市川しんぺー演じる優柔不断すぎる柴田という男も、どちらも「だーかーらー!」と言いたくなる。
その柴田に対して「あんた、誤魔化されたのよ!」と怒鳴りつける広岡由里子演じる幸子という女性が、一番まともだ。
もっとも、彼女だって、飲む打つ買うの3拍子揃った亭主を亡くした後、自らが「打つ」の競馬にはまって通ってきている訳だから、決して賢いわけではない。でも、阿呆過ぎる男達を見ていると、やっぱり生活力があって現実的なのは女よねとやけに共感してしまう。
もはや、競馬場の雰囲気にこちらも取り込まれていたらしい。
ギャンブルを毛嫌いしていたけれどビギナーズラックで当ててちょっと変わりつつある黒川智花演じる俊夫の婚約者や、実は幸子の亭主と付き合っていたヘレンも、どちらもやっぱり、競馬場に集った男達に比べればずっとまともに見えてしまう。
おかしい。どこかがおかしい。でも、そういう空気こそがこの芝居の目指したところだったんじゃないかと思う。
そして、間違いなく、こちらもその空気に染まっている。
第4レース、予想屋が「これだけは自分のために」買おうと決めていたサクラパパオーという馬は、実は幸子の亭主の生まれ変わりで、パドックに幸子とヘレンが揃って現れたことで興奮し、骨折して殺処分になってしまう。
「生まれ変わり」説に力一杯反対するのが俊夫だというのが可笑しい。幸子とヘレンは当事者だからもちろんのこと、的場までが「こうした関わりを持ったこの第4レースで全てを決めたい」とか言い始める。やろうとしていることが「公金横領の穴埋め」という犯罪行為の隠蔽だということはいつの間にかどこかに飛んでいる。というか、最初からそこは誰も突っ込んでいなかった気がする。
的場は、ここに集った人々が「サクラパパオーがこれが引退レースとなるスプリングメモリーという馬を勝たせてくれる」と熱く語るその言葉を信じ、そのレースに全てのお金をつぎ込むことを決めるけれど、それでも800万円には遠く及ばない。
そこに、俊夫が結婚式の二次会用に預かった30万円を貸すと宣言し、婚約者の彼女も最後にはそれを許す。
そして、第4レース、スプリングメモリーは10馬身以上の差をつけて逃げ切り、的場は無事に800万円を手にし、予想屋は「馬券を買っておけば良かった!」と嘆き、幸子とヘレンは何故か友情を成立させ、三々五々に散って行く。
そこで終われば、まぁ綺麗に終われるのだろうけれど、最終レースでである第5レース、三々五々に散っていた筈の人々が再び集まり、馬券を買い、それぞれ贔屓の馬を力一杯応援する。あるいは、自分が買った馬券の馬を勝たせようとあがく。
そこで、幕である。
やっぱり、綺麗に終わっちゃだめだよね、と思う。
駄目な人々(主に男)をダメダメに描き、でも何故か登場人物たち(男も女も含む)は憎めない人ばかりだ。
近くにいたらイヤだし、多分、逃げ出すような気もするけれど、しかし、舞台上にいる彼らを微笑ましく見つめることはできるような気がする。
もっと小さい空間でもっと小さい舞台でギュッと詰まった感じで見たかったという贅沢な希望もありつつ、主演の塚田僚一を見つめる観客の視線の熱さだったり暖かさだったりも含めてこの舞台はこの舞台なんじゃないかとも思う。
競馬場に行ってみたいような、行かなくていいような、馬券を買ってみたいような、ビギナーズラックを味わってみたいような、しかしその醍醐味は味わわない方がいいような、複雑な気分で劇場を後にした。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
なるほど、主演の塚田さん目当ての観客が多かったのですね。同時に、意外と年配の男性の姿を見るなぁと思っていたのですが、そちらはラッパ屋ファンの方々だったのでしょうか。
私は競馬場に行ったこともなく、馬券を買ったこともないので、競馬のイメージは実は「優駿」だったりします。
古いかな・・・。
私が観た回でも、3回目のカーテンコールだったかでスタンディンオーベーションになっていました。
大きな劇場は、舞台の熱と客席の熱がなかなかいいバランスにならないなぁなどと考えておりました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.05.17 00:03
姫林檎さま
私も観ました!
私は鈴木さんの作品だから観たのですが、劇場は塚田くん狙いと思われる客で溢れかえっていましたね。
まさか、と言いたくなったり、そうだろうと言いたくなったり、いろんな人に感情移入しながら観てました。
競馬場って、人を狂わせる魔物がいるのかもしれません。
私は競馬を数えるほどしかやったことがないのですが、久しぶりに競馬場に行きたくなりましたね。
二回目のカテコで、塚田くん一人が登場したとき、ファンが一斉に立ち上がって、スタオベしてましたが、私は立ちませんでした……。
投稿: みずえ | 2017.05.16 14:01