「パレード」を見る
ミュージカル「パレード」
作 アルフレッド・ウーリー
作詞・作曲 ジェイソン・ロバート・ブラウン
共同構想およびブロードウェイ版演出 ハロルド・プリンス
演出 森新太郎
翻訳 常田景子
訳詞 高橋亜子
振付 森山開次
出演 石丸幹二/堀内敬子/武田真治/新納慎也
安崎求/未来優希/小野田龍之介
坂元健児/藤木孝/石川禅/岡本健一
宮川浩/秋園美緒/飯野めぐみ/莉奈 ほか
観劇日 2017年5月17日(土曜日)午後5時30分開演
劇場 東京芸術劇場 プレイハウス
上演時間 2時間55分(15分の休憩あり)
料金 13000円
ロビーではパンフレットの他色々とグッズが販売されていたようだけれど、チェックしそびれた。
ネタバレありの感想は以下に。
入口で受け取ったフライヤーの一番上に、”「パレード」の背景にあるもの”というタイトルのA4サイズの紙が挟まれていた。
このミュージカルの時代背景や、上演中に出てくるキーワードの説明が書かれている。
こうした紙が配られることは滅多にないし、こうして配られるからにはないように深く関わっているのだろうと、開演前に目を通した。
20世紀初頭の米国で実際にあった事件をモチーフにしたこのミュージカルは、もの凄く大雑把に言うと、米国の南部における黒人への差別、ユダヤ人に対する差別がその背景になっているということが描かれている。
舞台の奥には大きな木が1本立っている。
この木は、照明が当てられたり外されたりしながら、ずっと舞台奥に立っていたと思う。
あとは、吊された窓だったり、最低限の監獄の中や、裁判所の中を示すベッドや判事席などを出したり片付けたりしながら舞台は進んで行く。
石丸幹二演じるニューヨーク出身のユダヤ人であるレオンは、堀内敬子演じる南部出身のユダヤ人であるルシールと結婚し、彼女の叔父の勧めでアトランタの鉛筆工場の工場長を務めている。
その工場で働く13歳の少女メアリーの死体が工場の地下で発見され、この問題を早く解決したい石川禅演じるドーシー検事の策略でレオンは殺人犯として逮捕され、裁判にかけられ、死刑判決を受けてしまう。
死刑判決後、自分の無実を証明し絞首刑を免れようとするレオンにたいし、米国内のユダヤ人や北部の人々から支援が行われ、ルシールが岡本健一演じる州知事に働きかけたことをきっかけに、ドーシー検事が人々に偽証させた経過が明らかになり、終身刑に変更される。
もう少しで牢獄からも出られるというとき、レオンは、彼の終身刑に納得していない南北戦争を戦った傷痍軍人らに拉致され、殺されてしまう。
そこで幕だ。
乱暴にまとめるとそういうストーリーになる。
そこに、救いと言えるようなものはほとんどない。
夫を殺され、夫を無実の罪に落としたドーシー検事が州知事になるという最悪の状況にいるルシールが、「ここは私の故郷だ」と喪服姿で顔を上げて前を見つめるシーンは、決して「希望」を表してはいなかったと思う。
ミュージカルにしなければ重すぎる、ということかも知れない。
このミュージカルを日本で日本人が演じて日本人が見るのと、米国で上演して米国の人が観劇するのとでは、かなり様相というか、上演することの意味とか、受け止め方、受け止められ方が異なるんだろうなという気がした。
正確に言うと、説明の紙を開演前に読んだけれども、それでも、私はこのミュージカルの言わんとしていること、伝えようとしていること、表現しようとしていることをきちんと受け止められてはいないのだろうなという気がずっとしていた。
説明書きのように書くことはできる。
米国南部で黒人奴隷を「使えなくなった」ことに南部の白人たちは大きな不満を抱いていて、白人の少女が工場で働かなくてはならないのは黒人奴隷を使えなくなったからだと思っている。
黒人奴隷を酷使することで得ていた豊かさが、奴隷解放宣言で失われ、そこに移民してきたユダヤ人が経済的成功を収めたことで、南部の白人は今度はユダヤ人への憎しみを強めて行く。
そうした感情を知っている検事は、黒人とユダヤ人とのどちらをスケープゴートに差し出すかと考えたときに、ユダヤ人であるレオンを選ぶ。
ここで、最後まで「実際に少女メアリーを殺したのは誰なのか」ということは全く問題にされない。
新納慎也演じるこの南部の空気を体現しているような政治活動家はもちろんのこと、ルシールとも接触のある武田真治演じるクレイグという新聞記者ですら、「真犯人は誰か」ということを全く気にしていない。
ルシールの懇願を受けて自ら再調査した州知事も、ドーシー検事の証拠ねつ造の過程を具に確認したにもかかわらず、レオンの絞首刑を終身刑に変更したのみである。無実だったら終身刑じゃなくて無罪放免だろうと思うけれど、そんなことを言い出す人は一人もいない。
私はそこが気になったけれど、恐らく実話を元にしている訳で、実際にはこの展開が「精一杯」だったのだろうと思いつつ、でも、そこは判らないよ、伝わって来ないよと思ってしまった。
予め説明の紙が配られていたくらいだから、そこはある程度以上、見ている側に知識と理解が要求されていると考えるべきなのかも知れない。
ストーリーはともかくとして、チケットを押さえた時点で「贅沢!」と思っていた出演者陣はやはり贅沢だった。
上手い。
ストーリーとしては暗いから、歌も明るく華やかというよりは、朗々と歌い上げる感じの歌が多い。だから随所に、パレードを見たりダンスを踊ったりといったシーンが挟み込まれ、「南部の白人が享受していた贅沢さ」を想起させるのと同時に舞台を少し華やかに楽しくしているんだろうなと思う。
最初はソロパートが多いなと思っていた歌も、後半になるにつれ、二重唱が増えてきて聴き応えがあった。
私の耳がいいとは言えないので恐らくはこちらのせいだと思うけれど、予想していたのとは違う音が来たりして「ん?」と思ったり、据わりが悪いなぁと思うところもあった。
それでも、やっぱり歌が上手い人の歌はぞわぞわっとする迫力がある。主演のお二人の歌も流石の安定感だし、坂元健児ってやっぱり歌が上手いなぁと思った。
ミュージカルはほとんど見ないけれど、ハモりよりも、二人が別々の旋律と歌詞の歌を歌うスタイルがメインになってきているのねと思う。
カーテンコールではスタンディングオーベイションになっていた。
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