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劇団☆新感線「髑髏城の七人」 Season花
作 中島かずき
演出 いのうえひでのり
出演 小栗旬/山本耕史/成河/りょう
青木崇高/清野菜名/近藤芳正/古田新太 ほか
観劇日 2017年5月6日(土曜日)午後2時開演
劇場 IHIステージアラウンド東京
上演時間 3時間35分(20分の休憩あり)
料金 13000円
IHIステージアラウンド東京のこけら落とし公演で、花鳥風月の4シーズンの「髑髏城の七人」を1年3ヶ月かけて上演する、その第一段だ。
「客席が回転する劇場」を初体験してきた。
いきなりわざわざ書くようなことでもないけれど、開演前も休憩中もお手洗いの回しが上手い。凄い行列になっていたけれど、あっという間に捌いていた。
ロビーではもちろんパンフレット(2000円)を始めとするグッズが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
劇場に入ったときは普通である。
正面に劇場の平面図が映像で映し出されていて、出口の位置や、開演中に客席から外に出たくなったときの注意事項などが案内されている。
客席自体が回転するという構造だから、開演中の客席からの出入りはかなり制限されるようだ。
映像が映し出されているスクリーン(といっても固い)がカーブを描いているのが判る。いわば「幕」だ。
いつもの新幹線の音楽が流れ、ベルが鳴り響いて開演だ。
いつもなら、舞台から客席に向けて強い照明の光が並んで放たれるところだけれど、その部分は「いつも通り」ではなかった。もしかすると劇場の構造上、そういった照明装置を設置できなかったのかも知れないし、「演出」かも知れない。
スクリーンにモノクロで景色が映し出され、そこに一人で立っていたのは意外な登場人物だった。
天魔王から始めるか! と思う。
客席は割とすぐ回転した。
やはりそこは、回転する客席を楽しみに来ているお客さんも多いだろうし(私もそうだ)、どんな風に回転するのか、場面転換はどんな感じになるのか、早めにお披露目しておきたいということだと思う。
ガクンとなるので、動き出すんだなということは判る。
客席が回転するのと同時に、スクリーンが閉められてそこに映像が映し出され、客席と同じ方向に映像が動いたり、逆に反対方向に映像が動いて体感として動きが加速されたりする。
基本的に、客席が回転するときにはスクリーンが全て閉められ、客席が止まってからスクリーンが左右に開いて次のシーンが始まることが多かった、ように思う。
一緒に行った人は「劇場が回転する必要があったのか」と言っていましたが、必要があるのかないのかという話であれば多分ない。何しろ、これまでは回転しない劇場で上演されてきたのだから、「回転する必要でなければ上演できない」筈がない。
回転する劇場のメリットは何かといえば、場面転換の素早さとか暗転がないということよりも、間口を変えられることなんじゃないかという気がした。シーンによって舞台の間口を変えられる劇場なんて聞いたことがない。
こけら落とし公演の終了後、次に上演される芝居では、多分、「間口」が活かされるんじゃないかしらと思う。
あるいは、今回はスクリーンに映し出される映像が効果的に使われていたけれど、逆にスクリーンを使わずに全面オープンで上演するとか。しかし、それでは非常口等々のカモフラージュが難しくなるのかも知れない。
劇場の感想はこれくらいにしておいて、芝居の感想である。
実は、見終わった直後は「何だか散漫」というのが正直な印象だった。
何故だろう。
見ているこちらの側に「世界で二つ目の客席が回転して、舞台が360度展開する劇場」という雑念があったことがその理由の主なところであるのは間違いない。
あとは、私が、初演は見ていないものの、再演、アカドクロ、アオドクロ、ワカドクロと見ていることで、ついつい「前はこうだった」等と比べてしまっていたことも理由の一つだと思う。
要するに、雑念だらけで見ていたということだ。
雑念だらけで見ていたこちらに対して、「髑髏城の七人」 Season花は、直球の舞台だったと思う。
歌なし、踊りなし、殺陣たっぷり、役者さんたちの走りっぷりも半端ない。
「疾走感」という言葉がよく似合う。
小栗旬の捨之介は、やはり格好いい。元が格好いい役者さんが格好いい役を演じるとこうなるのね、と思う。
着流し姿もよく似合うし、遊び人というキャラもよく似合う。殺陣もかなり格好良くなった印象だ。
でも、何だろう。色男には見えない。どうせなら、自分の格好良さとか遊び人キャラとかにどっぷり浸かって自己陶酔に浸っちゃうくらいでも良さそうなのになぁと思う。
「髑髏城の七人」というタイトルバックを背負った捨之介の格好良さはキッパリと背負っているのに、「女の子相手」のところの格好良さがちょっと引け気味だったかなぁと思う。そこは思いっきり浸ってくれた方が、見ているこちらは安心できる。
ただ、沙霧は多分、そういう格好良さではなく、もう無駄に人の血が流れるようなことにはしたくないという、青いといえば青い正義感、背負い込んじゃう感じに惚れたってことなんだろうなとも思う。
成河演じる天魔王は、今回、何だかもの凄くキャラが立っている印象だった。
アカドクロ・アオドクロまでは、天魔王と捨之介は二人とも織田信長の影武者だったという設定で、一人二役で演じていたこともあって、逆にあまりキャラを立てていなかったのではないかと思う。
でも、今回は、オープニングが天魔王一人のシーンだし、チラシのビジュアルだって天魔王の顔だし、狂気がかった物言いや仕草、ずっと引きずっていた左足、本能寺で焼かれたという顔の左半分など、強烈な役柄になっている。
捨之介と天魔王の対決が鮮明になっていたと思う。
何故、蘭兵衛も含めた三角関係が際立たなかったかといえば、山本耕史が演じたからではなくて、設定が大きく変わって、りょう演じる極楽大夫と蘭兵衛との関係というか繋がりがより強調されていたからだと思う。
恋仲というよりは、極楽大夫が蘭兵衛に惚れている、という感じだ。もっと言うと、二人から恋仲であるという雰囲気は漂って来ない。ただ、二人の関係がこれまでよりも同士というか、「無界屋を二人で作った」というところと、大夫の女っぽいところが鮮明になっていたと思う。
私はそこに違和感を感じてしまったけれど、それは多分、これまでの上演や小説版の印象が強いからだと思う。
そうして、大夫と蘭兵衛との関係を強調した結果として、大夫が随分と清野菜名演じる沙霧に対して、「あなたは捨之介が好きですね」という趣旨の発言を繰り返すことになり、大夫に繰り返し言われることで沙霧がそのことに自覚して行く、という流れになっていたと思う。
何というか、舞台上に二組のカップル(この言い方も古い)がいる、という感じが強い。
沙霧の心の動きがもう少し控えめに小出しにされていたらいいのになぁと思う。どうも、「客席のみなさん、気付いてください」という仕草やシーンが多いような気がして、ちょっと興ざめだった。
例えば、沙霧の一族の名前が「ましら衆」から「熊木」に変えられていたのも、沙霧が「捨之介の偽物」に気付くきっかけとして、一族の名前についての捨之介とのやりとりではなく、大夫に「女だから判る」と言わせたからで、うーんと思ってしまった。
大夫から蘭兵衛に向けている「惚れた」成分がかなり増えた結果、兵庫のハードルはかなり高くなったんじゃないかと思う。何しろ、惚れた男に裏切られ、その男を殺したばかりの女を、最後に自分に惚れさせなくてはならないのだ。
同時に、大夫というキャラについて、大夫の女っぽさと、姐御肌かつ親分的なところのバランスが難しくなったんじゃないかしらとも思う。
古田新太の贋鉄斎は、もう何でもありの必殺技の連続で、もはや言うことはない、という感じだ。
とにかく、藤岡弘、をイメージして何もかも作り上げたのだなということは、充分に伝わった。
磯平と兵庫の兄弟が鎌を使うシーンをもっと長くたくさん見たかったとか、ラストシーンで捨之介が自分の首を差し出すことで戦国の世を終わらせようとすると、天魔王の首に対する500両の賞金の意味や、近藤芳正演じる徳川家康が500両を彼らに与え、捨之介を助けたことの意味が判りにくくなるなぁとか、やっぱり、「前はこうだったのに、今回はこうだ」と見てしまった私は損な楽しみ方をしてしまったなぁと思う。
勿体ないことをした!
それでもやっぱり、ド直球の、ストレートプレイの、殺陣満載の、疾走感溢れる「髑髏城の七人」を堪能した。
面白いお芝居は面白い。そして、楽しい。
「花」に続く「鳥」「風」「月」も、とてもとても楽しみである。
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コメント
アンソニーさま、コメントありがとうございます。
確かに劇場の周りにはほんっとうに「お店」というものがなかったですね。
私は豊洲でごはんを食べてからゆりかもめで劇場に行きました(笑)。
風はパスされるんですね。
そのお気持ちも何となく判ります(笑)。
こうなると、最後を飾る「月」の出演者のみなさまがどんな感じになるのか楽しみですね。
1回くらい、蘭兵衛役を女優さんが演じるのではないかと思っているところです。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.05.20 14:36
姫林檎様、こんにちは。
周りになにもなくてお腹空いてたら大変だなとか思いつつ。トイレはよいですね、あの回転率。
そして舞台はもう普通に楽しんで来ました。アトラクションみたいでした。
細かいことはいろいろあったけど、それもひっくるめて面白かったです笑
鳥も楽しみですね!
私は風はパスします~
投稿: アンソニー | 2017.05.20 13:32
叢雲乃飜さま、コメントありがとうございます。
叢雲乃飜さんのスタンダードは1997年上演の「髑髏城の七人」なのですね。
私も見てます!
もっとも、芳本美代子が凄い元気だったとか、古田さんが痩せていてビジュアル的には一番だったとか、そういう記憶ばかりが残っておりますが(笑)。
おっしゃるとおり、初心に戻り無心に楽しむことが必要なのですね。
私は「花」は1回の観劇予定ですが、「鳥」は2回見る予定なので、次回と次々回はその辺りを胆に銘じて見ようと思います。
いえ、言い訳めきますが、面白かったんですよ。楽しんだし、泣いたし。
でも、「もっと!」という欲張りがついつい顔を出しちゃうのです。新感線ですし、「髑髏城」ですし。
そして、すみません、私は天魔王とリチャード三世が全く繋がっておりませんでした・・・。
2回目の観劇の感想もぜひお聞かせくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.05.17 00:00
みき様、コメントありがとうございます。
season風のキャストが発表になりましたね。
割と新しいメンバーで、ちょっと驚きました。
主要キャストのうち、これまで「髑髏城」に出演したことがあるのは橋本じゅんさんだけ?
若干、心配なような、どう仕上げるのか楽しみのような。
もちろんぜひ見たいと思います!
ライブビューイングがあったんですね。
ライブビューイングで見ると、やっぱり「座席が動いている」のではなく「舞台が動いている」感じに見えるんでしょうか???
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.05.16 23:54
こんにちは先月髑髏城の七人観劇したのですが…。
やはり再演1997年版の印象が強過ぎて拘る所がありして…
其の点を踏まえての感想が脚本がキャストの力と演出力、劇場の作りに負けてしまっている感が残ってしまって残念感はありましたが…。
天魔王がリチャード三世に見えたの自分だけでは無いはずいのうえさんどんだけリチャード三世好きなん?と思いましたもん。
初めての新感線、初めての髑髏城の方達は大変満足しているらしく…。
既成概念に捕らわれている自分に反省するばかりです。
で今月レ・ミゼラブル観劇と再度髑髏城の七人を観劇しますので初心に戻ってもう一度観劇したいとおもいます。
因みに自分観劇した日は松山ケンイチさん浅野忠信さん駿河太郎さん等々目撃。
で昨日のseason風のキャスト報告…なるほどマツケンさんの観劇は劇場視察も兼ねていたんですね。
と一人で納得してました(笑)
投稿: 叢雲乃飜 | 2017.05.16 18:48
こんにちは。劇場のトイレ問題、大切ですよね!ざっと数えて40もの個室があり、ストレスなく利用できたのは本当によかったです。
Season風のキャストも発表になり(なんと捨之介と天魔王が一人二役)ますます盛り上がっていきそうですね。あの一人二役ゆえのもどかしさを、また体験できるんですね。
昨日のライブビューイングは残念ながら行かれなかったですが、また上映して欲しいです。
投稿: みき | 2017.05.16 08:37