「狼狽~不透明な群像劇~」を見る
カムカムミニキーナ「狼狽~不透明な群像劇~」
作・演出 松村武
出演 八嶋智人/藤田記子/吉田晋一/松村武
姜暢雄/新谷真弓(ナイロン100℃)
多田香織(KAKUTA)/芹井祐文
長谷部洋子/田原靖子/亀岡孝洋/未来
菊川耕太郎/渡邊礼/栄治郎/元尾裕介
福久聡吾/大倉杏菜/柳瀬芽美
観劇日 2017年6月17日(土曜日)午後5時開演(初日)
劇場 東京芸術劇場 シアターウエスト
上演時間 2時間15分
料金 5500円
ロビーではパンフレット(稽古場を撮影したDVD付き)やトートバッグなどのグッズが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
すっかり忘れていたけれど、初日の舞台である。だから17時開演とか中途半端な時間なんだなと改めて思う。
舞台中央が客席にせり出し、その両脇にも座席を配置した、ちょっと変わった舞台セットである。
さらに、その舞台を囲む通路も使うようで、開演前、スタッフの方が最前列のお客さんに注意したりお願いしたりしていた。
カムカムミニキーナを見るのは初めてで、これが普通のことなのか、珍しいことなのか、よく判らない。
松村武が和服姿で出て来て、マイクの前に立ち、開演前の注意事項を述べ、ちょっと話し、その話に何のオチもないまま「狼狽」という小説の朗読が始まった。
始まったかと思うと唐突に終わり、家の絵らしきものが描かれたその本のページを示しながら退場、暗転、そしてダンスシーンになった。
その瞬間、私の頭に浮かんだのは「祝祭」という単語だ。
ここにはまだ「祝祭」がある、「祝祭」が必要だと考える劇団がある。そう思った。
ただ、それは少なくとも私にとっては、「長い間変わっていない」「古い」ということでもある。
オープニングにダンスシーンを配し、メタを使い、謎が謎を呼ぶ展開で引っ張って行くのは、割と最近は見なくなったパターンだと思う。カーテンコールで松村武が「ややこしいと思っているでしょうが、これがうちの芝居なんで」というようなことを言い、八嶋智人から「そうだったんですか!」とツッコまれていたけれど、そのやりとりからして、確信犯でやっているようだ。
だから、「祝祭がある」という感想が浮かんだんだなと自分で納得した。
アンサンブルというのか、ほとんど台詞のない役者さんが大勢舞台上にいる一方で、お話を動かしているのは出演者の1/3というところだろうか。
何だかこういうお芝居を観るのは久しぶりだと思う。
多分、「劇団」がどんどん解散しているからではないかと思う。「役者を一から育てる」ことを考えているからこその劇団だし、配役なのかしらと思った。
そして、少なくとも今回、お話を動かしていたのは、中津を演じた姜暢雄やさゆりを演じた新谷真弓、大迫を演じた多田香織の客演陣だったように見える。
芥川賞っぽいとある文学賞を獲得することが有望視されている作家がゴーストライターを使っているとの密告手紙を受けて、フリーライターの大迫が彼の故郷である町に調査に行く。
身分を隠して調査に入った筈が、その作家の夫人で地元の鉄工所を仕切っているさゆりには早々に正体がバレ、彼女と八嶋智人演じる冨永が試みているらしい「街中での演劇」に取り込まれそうになり、さらに町に住んでいるのに未だにストレンジャー扱いの中津という「狼中年」の男にも何やら訳の判らないことを言われ、挙げ句の果てに女座頭市を気取る女に拉致されてしまう。
大迫にゴーストライター疑惑を調べるように言った編集者は、彼女の妹からの訴えを受けて、二人で大迫が消息を絶った町に行く。
すると、さゆり夫人は大迫が来たことを否定し、またまた訳の判らない演劇に巻き込まれ、ゴーストライターを務めていたのではないかと思われる女性に会って大迫の話を聞くことはできたものの、編集者は結局、大迫の妹とはぐれ、「もう一つの町」があったという「狼谷」という場所に向かう。
結局、狼谷という「もう一つの町」の存在を暴いた大迫の父親に帯する復讐のため、まずは娘である大迫を人質として呼び寄せ、その復讐劇を「上演」することで町の活性化に繋げようとしていた、のかなと思う。
作・演出の松村武自身が言っているのだから間違いないと思うけれど、とにかくややこしい。
多分、感じとしては、引きまくった伏線はラストまでに全部綺麗に回収されているのだと思う。多分、上手くできているお話なのだと思う。
それなのに、カタルシスを全く感じられないのは何故なのか。
確信犯で「ややこしい」ままにしておいて、判りやすい回答を提示していないからではないかと思う。
中津が「判りやすく説明してください」とロッジの支配人に水を向けたときには「今度こそ」と思ったけれど、彼の告白はすぐにひっくり返され、結局、終演まで明確に説明されることはなかった。
単純かつ頭を使わない私には、「せっかく綺麗にまとめたんだから、それを綺麗に見せてよ」と思ってしまう。
ドッペルゲンガーだったり、表と裏だったり、落人伝説だったり、狼少年だったり、かなりのモチーフを使い、一見、関連がなさそうに見えた前半の台詞だったりシーンだったりが、「実は」という感じで後半に次々と回収されて行く感じは、かなり気持ちが良い。
ただ、それが「多分、今、回収されているんだよな」という感じで、川の対岸から見え隠れする様子を眺めて想像している感じなので、スッキリしないし、「結局どういうことだったんだろう」という疑問への答えは自分で考えるしかない。
私は「勿体ない!」と思ってしまったクチだけれど、やはりこれは確信犯であり、狙ったところなんだろうと思う。
八嶋智人はテレビで拝見するまんまだなぁと思う。カーテンコールで挨拶する松村武にツッコミを入れているときが一番楽しそうに見えた。
藤田記子を舞台で拝見するのは2回目か3回目で、相変わらずのインパクトだ。新谷真弓と二人一役で演じ、彼女が演じていたのは多分「いい人」というか「素」の部分で、その二つが同居しているところが凄い。
作家のゴーストライター(ではないのだけれど)を演じた長谷部洋子が印象に残った。格好いい女を格好良く演じていた。こういう格好良さはいいなぁと思う。
もやもやっとしつつ、もやもやしている分、裏読みしようとがんばって見たお芝居だった。
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コメント
いっしー様、コメントありがとうございます。
やっぱり「確かに伏線は回収されているのに何か見失った感があって」なんですね。
ですよね、ですよね。
ダンスシーン等々で四角い枠を使っていましたが、毎回、何らかの小道具が象徴的に取り扱われるんですね。
教えていただいてありがとうございます。
私は何となくあの白い枠はテレビの画面かなぁと思ってみておりました。
非現実であることを表しているというか、ちょっと遠い世界のことであることを表しているというか。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.06.18 17:32
お久しぶりでコメントします。カムカムは5年前くらいに見て、ずっと見続けています。毎回、複雑な内容で必死についていって、確かに伏線は回収されているのに何か見失った感があって、この感覚がクセになるようです。今回は大阪公演の三方囲み舞台ありきで考えた演出だと、松村さんがおっしゃってました。また毎回、小道具を象徴的に使うのですが、今回は枠でした。これが、ひもだったり、杖だったり、白鳥だったりします。ちょっと古くさい、病み付きになるお芝居でした。
つい、次こそはと思ってしまうようです。
投稿: いっしー | 2017.06.18 14:41