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2017.06.03

「天の敵」を見る

イキウメ「天の敵」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/盛隆二/森下創/大窪人衛
    小野ゆり子/太田緑ロランス/松澤傑
    有川マコト/村岡希美
観劇日 2017年6月3日(土曜日)午後1時開演
劇場 東京芸術劇場 シアターイースト
上演時間 2時間25分
料金 7500円
 
 ロビーでは、過去公演の上演台本やDVDが販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式WEBサイトはこちら。

 もう、とにかく「イキウメ」は凄いし、「天の敵」も凄かった。
 そもそも、「人生という、死に至る病に効果あり」というキャッチコピー(でいいのだろうか)が凄い。劇中でこの言葉を誰かが語る訳ではないのに、見終わった後、頭の中で何度も「人生という、死に至る病に効果あり」と繰り返した。
 職場が替わってかなり心身共にダメージが来ており、芝居を見ていてもふと仕事のことを考えたりしてしまっていたけれど、「天の敵」を見ているときにはそんなことは起こらず、ひたすら芝居の世界に入っていれば良かった。
 嬉しい。
 やっぱり、芝居って凄いし、イキウメって凄いし、「天の敵」も凄い。

 感想としてはこれに尽きるけれど、これだけでも寂しいので印象に残ったことを書くと、「天の敵」というこのお芝居は、以前に観た「図書館的人生 vol.3」というお芝居と強く繋がっていると思う。
 自分で以前に書いた感想を見てみたら、図書館的人生 vol.3はいわば短編集で、四つの短いお芝居をスピンオフ風に繋げており、その第3話を大きく膨らませ、他の三つのお話の設定や中味も使いつつ1本の「天の敵」というお芝居にしたという感じだと思う。

 テーマは、多分同じだ。
 「人生という、死に至る病に効果あり」は、図書館的人生 vol.3の第3話に付けられたサブタイトルである。
 食物連鎖の話でもあり、ヴェジタリアンノ話でもあり、不老不死(どころか若返っている)の話でもある。
 人生は「死に至る病」である。生きていれば必ず死ぬ。でも、それは多分ある意味では福音なんだと思う。「いつまでも死なない」「いつまでも若いまま」の人生はいいものではない。

 そして、「太陽」で、ノックスになった人々が太陽の下で活動できなくなったように、浜田信也演じる長谷川という現在124歳の男も、飲血を始めてからかなり長い間、太陽光を浴びることができなかった。
 長谷川は、ヴェジタリアンの血を飲むようになって「日光」を克服したけれど、自然の摂理に反するようなことをすれば、自然から手痛いしっぺ返しを喰らうという考えが根底にあるのかなぁと思う。
 もう一つ、不老不死への憧れのようなものは、多分、人から人へと伝染するこちらも病なのだと思う。
 でも、前に何かで読んだ「痛かったり苦しかったりしないのであれば、死は恐ろしくない」という言葉も分かるような気がする。

 命だったり、生きるということだったり、そういう一番基本的なことを考える鍵になるようなものを探す過程が舞台になっているのかなとも思う。
 まずは、帰り道でひたすら頭の中で「人生という、死に至る病に効果あり」を繰り返したように、何か辛いことがあったときにこの言葉を思い浮かべれば、「どうせ死ぬのだから」というのとは違う何かでちょっと気持ちを立て直すことができるような気がした。

 ストーリーの骨格は図書館的人生 vol.3とほぼ同じだったと思う。
 長谷川のところに取材に来た男が、正に「死に至る病」にかかっているという点は、図書館的人生 vol.3にはなかった設定だ。
 物語に一番大きく関わる設定の変更はここではないかと思う。
 どうして長谷川が自分の半生を語ろうと思ったのか、その理由が大きく変わっていたのではないかと思う。

 長谷川は最初、自分の人生を「ある男の人生」として語り始め、そのうち、若い頃の長谷川が実際に舞台に現れる。その二つの時代は交錯しないけれど舞台上に同時に存在する。
 そのうち、若い頃の長谷川を浜田信也自身が演じるようになり、さらに「何十年か前の長谷川」とこちらで取材している筈の男が会話するようになる。
 何というか、舞台上のお約束を少しずつ破って行くのがちょっと楽しい。そして、決して不自然でもなければ、違和感を生じさせないところが上手いと思う。

 長谷川を演じた浜田信也と、ライター寺泊を演じた安井順平と、どちらかというと配役が逆の方がイキウメっぽいんじゃないかしらと思っていたら、図書館的人生 vol.3のときは、ライター(名字は甘利)を演じていたのは浜田信也だった。長谷川を演じていたのは客演の板垣雄亮だった。
 この配役の変更で、ライターは多分ひねくれた感じがキャラに追加され、長谷川は「偏屈な人物という設定にしよう」というスパイスが加わったように思う。
 図書館的人生 vol.3のときは、短編だったという理由もあると思うけれど、二人とももっとストレートなキャラだったように思う。

 そんな比較はともかくとして、ストーリーの大きな流れを覚えていた私でも、やっぱり舞台に引き込まれ、他のことは何も考えない2時間半を過ごすことができた。
 嬉しい。
 客演陣が出演者のほぼ半分を占めているこの舞台が、私の思っているイキウメの舞台の空気を引き続き持っていたことも嬉しい。

 「殺されなければ死にそうにない」と繰り返し語っていた長谷川が、寺泊に語って行くうちに、「自分で自分を殺す」ことを決め、一緒に暮らす恵との写真を1枚、寺泊に撮ってもらうシーンは健在で、やはり印象に残る。
 ここで、3秒クッキングの映像がたくさん残っているじゃないかとか言ってはいけない。
 そして、長谷川が、鰻が好物だ、でも食べたのは50年以上も前のことだから、どんな味だか覚えていないと語ったところも、やはり印象に残る。鰻を食べて死にたいと語ったシーンよりも、印象的だ。

 見て良かった。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 なるほど、日光がダメというところですぐに「太陽」が思い浮かんだのですね。
 過去公演を見ているというのも良し悪しなのかも知れません。再演を見るときなど特に、今自分は余計なことを考えているなぁと思うことがあります。

 そして、このお芝居のテーマは、みずえさんにとって、私などよりもずっと身近かつ深刻なものだったのですね。
 私は割と単純に飲みたくないなぁと思っていました。

 今回のイキウメの公演はイキウメの公演として楽しく集中して拝見しましたが、それとは別に、岩本さんも伊勢さんも、イキウメの舞台で拝見できないのは寂しいですね。
 伊勢さんは他の舞台でご活躍ですが、岩本さんはお芝居をされていないのですものね。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2017.06.08 23:57

姫林檎さま

私も観ました。
私は「図書館的人生vol.3」は未見なので(図書館的人生上下は観たんですが)、日光がダメな体質になるということで、「太陽」を思い浮かべました。
そして実は、ALSにかかった友人がおりますので、彼を思い出しながら観、彼だったら血を飲むだろうか、自分だったら?と自問しておりました。
私は、死そのものより、周囲が皆逝ってしまって取り残される方がつらいと思いますので、きっと飲まないだろう、でも不死はともかく女性として不老は惹かれるな……などと考えちゃいましたよ。
こういったことを思考させられる作品というのは、素晴らしいと思います。
前川さんは、最近クローズアップされていて、他でも舞台化されたり、映画にもなったりしているようですね。

ただ、個人的には、ここの女優さん二人が退団されてしまったのが残念です。
今回の客演の方々も良かったんですけどね…。

投稿: みずえ | 2017.06.05 11:13

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