「業音」を見る
日本総合悲劇協会vol.6「業音」
作・演出 松尾スズキ
出演 松尾スズキ/平岩紙/池津祥子/伊勢志摩
宍戸美和公/宮崎吐夢/皆川猿時/村杉蝉之介
康本雅子+エリザベス・マリー(ダブルキャスト)
観劇日 2017年9月2日(土曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場 シアターイースト
上演時間 2時間
料金 7200円
ロビーではパンフレットやTシャツが販売されていた。
その、販売されているTシャツと同じ物を着ているお客さんがいて、通い詰めてる人なのかなぁとちょっと驚いた。
ネタバレありの感想は以下に。
開演前というか、開演直後というか、幕開けの音楽が流れ、舞台上に垂れ下がっていた白い布が揺れているなぁと思っていたら、背の高いツナギ姿の男性が登場し、「すみません、照明の**が調子が悪くなって。再起動しますので少しお待ちください」と言って舞台袖に去って行った。
そう聞いた瞬間、お手洗い等々に行く人数名、「これも演出なんじゃないか」と語り合う人がちらほら、皆川猿時が白い布の陰から登場して「お待ちください」みたいなことを語って、客電や非常灯が付いたり消えたりした辺りから「本当に照明の具合が悪かったのね」という感じになった。
照明が復活したところで再び皆川猿時が登場し、「さっきと同じ音楽が流れますので、初めて聴くような感じでお願いします」と挨拶し、再度の開演となった。
開演前の注意事項アナウンスをしたのが皆川猿時だったから、彼が代表して出て来たのかしらと思う。
そして、今度こそ、開演だ。
この開演前の(開演直後の)できごとを忘れるくらい、集中して見た。
そして、見終わって、よく判らなかった。
それでいいんだな多分、という気持ちと、そういえば私は大人計画のお芝居が苦手だったんだっけ、という気持ちと、両方があった。
幕開けは交通事故のシーンで、女性が頭から血を流して車の上に倒れており、その車に乗っていたのは売れていない演歌歌手とそのマネージャー、女性の夫と別の男性が加害者を責め立てている、ように見せつつ、何だか関係のない話をしている。
女性のために救急車を呼ぶまでがとにかく長かったけれど、結局、彼女は寝たきりの状態になってしまい、演歌歌手と被害者の夫は「有罪婚」と銘打って結婚生活を始める。
事故にあったとき、夫婦は「神について理解した」と語っていたし、その女性の理解した「神」について知ろうとするシーンもたびたび登場する。
タイトルに「業」が入っているし、多分、「物語」としてはそういう物語だ。
でも、多分、このお芝居は「物語」ではない気がする。
「何でそっちに行っちゃうかな」と言いたくなるような選択を繰り返す登場人物たちを見せることが重要であって、彼らが「具体的にどっちに行ってしまったのか」ということはあまり重要ではないようにも思う。
そうなると、結局のところは感情移入して芝居を見ている私にとっては、これほど感情移入しにくい状況はないし、「判りにくい」という感想になるのもむべなるかなという感じだ。
女性は自殺を繰り返す男性をこの世に留めるために常に一緒にいたり、男性は施設から子供を引き取って育てていたり、その彼を見守るばあやを用意したり、演歌歌手になろうとしている女性は宇都宮から出て来た援助交際で生計を立てている兄妹の兄と「デキ」ているし、マネージャーは歌手の罪を引き取って服役したり、男性が育てて大人になった男性は何故か自分のコピーを作ることに執着していたり、判るようで判らない、繋がるようで多分ほとんどつながっていない人間関係が交錯し、ついでに時系列もあっちこっちに行きつつ、話が進む。
登場人物が登場人物に説教するシーンも結構あって、「説教」しているのだから説教臭くなっても不思議はないのに、何故かそういう方向には行かない。
松尾スズキが全裸でお風呂に入っていてそのまま飛び出してみせたり、平岩紙が何度もシュミーズ(と言いたくなるのは何故なんだろう)姿になったり、男同士のキスシーンがあったり、それでも「猥雑」とか「昭和」という言葉は似合わない。
「昭和」の方は若干あるかも知れないけれど、体温が低い感じは、舞台セットが真っ白であることが理由ではないと思う。
私には「業」はない。
でも、あるところには「業」は、それこそ避けようもないくらいにある。
その「業」を操作できる存在があるとしたら、それは「神」である。
神は(多分)存在しない。
そういうことかな、という印象を持った。
あまりにも判らなすぎて、それなのになぜだかぐっと引き寄せられて、日頃の悩みや何かを上演中は全く思い出さなかったことに終演後に気がついた。
やっぱり、お芝居の力は凄い。
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コメント
アンソニーさま、こちらもコメントありがとうございました。
着信音!
自分がガラケーでずっと消音にしているからか、全く気がついておりませんでした。
きっと何か意図があったんでしょうね。
真っ白なセットは確かにある意味「浄化」をイメージさせていたのかも知れませんね。なるほど。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.09.18 09:27
こちらからもこんにちは。私も行きました。
携帯がガラケーなのに着信音がiPhoneの音でなぜそこだけ?という変なことが気になりました。
それ以外はなんだかとってもアーティスティクなセットとファッションでいろんな泥臭さ?や猥雑さを払拭していたように思いました。
投稿: アンソニー | 2017.09.17 21:50