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「リチャード三世」
作 ウィリアム・シェイクスピア
演出・上演台本 シルヴィウ・プルカレーテ
演出補 谷賢一
出演 佐々木蔵之介/手塚とおる/今井朋彦/植本純米(植本潤改メ)
長谷川朝晴/山中崇/山口馬木也/河内大和
土屋佑壱/浜田学/櫻井章喜/八十田勇一
阿南健治/有薗芳記/壤晴彦/渡辺美佐子
観劇日 2017年10月22日(日曜日)午後1時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス
上演時間 2時間45分(15分の休憩あり)
料金 8000円
ロビーではパンフレットや、佐々木蔵之介のフォトブック(購入するとオリジナルのクリアファイルがもらえるらしい)が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
ネタバレというものの、シェイクスピアの「リチャード三世」なんて誰でも知っているお芝居である。
誰でも知っているお芝居だとは思うけれど、見始めてすぐ、私は全くこの「リチャード三世」というお芝居の人間関係が判っていないことに気付かされた。
えーっと、アン夫人って誰の妻だったんだっけ? とか、この呪いの言葉を吐きまくっているマーガレットって誰だったっけ? とか、全く頭に浮かんでこない。
フライヤーの中に挟まれていた「人物相関図」を幕が開く前にしげしげと見ていた筈なのにこの体たらくである。
プレイハウスの高い天井の舞台を目一杯使った舞台である。
その三方を、城壁のような大きな格子の布で囲んでいる。余計な装飾がない分、舞台の天井高が強調される。
セットも、「ビフォーアフターみたいだよ」と思った箱形のドアになったり馬車になったり棚のようになったりするものが出たり入ったりし、食卓となる大きなテーブルや、断頭台のように使われるバスタブなどがキャスター付きで運ばれてきては持ち去られる。
シンプルなセットだ。
手術台の上にあるような証明が、これまたやけに目立つ。
幕開けは、音楽だ。
音楽に合わせて、白いシャツと黒いズボンで統一された出演者達が踊ったり、ストップモーションになったりする。子役たちはシャボン玉を吹いている。その「狂ったような」集団の中を、渡邊美佐子演じる「代書屋」がゆっくりと歩いている。彼だけは、世界の外にいるようだ。
リチャード三世になっているのかいないのか、佐々木蔵之介がマイクで歌ったり、台詞をしゃべったりしているうちに、いつの間にかアン夫人を口説き始めている。
自然といえば自然、インパクトが強いといえばインパクトが強い始まりだ。
ぼーっとしていたらいつの間にか重要なシーンが終わっちゃったよ、という感じだった。
アンが籠絡された後のシーンから、リチャード三世の姿が「せむし」のようになっていたと思う。
そして、リチャード三世の(というか、まだ王になっていないから、グロスター候リチャードの)暗躍が始まる。でも、何というか、あんまり「ピカロ」という感じがしない。
むしろ、この舞台で目立つのは女たちのような気がする。
手塚とおる演じるアン夫人が来ていた真っ赤なドレスや、植本純米演じるエドワード四世妃の肩を出したドレスや、壤晴彦演じるリチャード三世の母の預言者のような声、そして、今井朋彦演じるマーガレットが自らの呪いが成就したときに一瞬だけ見せる軽やかな動きなど、女性の出番は極少ないのに、女性を演じた俳優たちの演技がとても印象に残った。
次兄を殺し、病弱な長兄が亡くなるとその王妃の一族を根絶やしにし、皇太子たちを捉えて殺し、皇太子に味方してヘイスティングス卿も殺してしまう。
そうして、バッキンガムの協力を得て民衆を騙した王座に就いたものの、そのバッキンガムに報いること少なすぎて反逆され、バッキンガムはやっつけて処刑したものの、あっという間にリッチモンド伯ヘンリー(って誰なんだ! フランスにいたらしいのに!)に攻め込まれてしまう。
戯曲にはこのリッチモンド伯ヘンリーとの戦いの場面が描かれているようだけれど、この上演では、馬を求めたリチャードがピストル自殺したことを示唆して幕が降りる。
正確に言うと、馬に見立てた車いすに乗ったリチャード三世がピストルをこめかみに当てたところで幕が降り、暗転した後、銃声が響く。
リチャード三世の「終焉」は、だから、この銃声にあるのではなく、その1つ前のシーンで彼に殺されたり酷い目に遭わされたりした人々が並び、何となく音程が外れているように聞こえる歌をマイクを回して歌いつつ、リチャード三世を責め立てていたシーンにあったのだと思う。
多分、「新しい」リチャード三世だったのだと思う。
でも、その新しさは、リチャード三世を理解している人にしか伝わらない「新しさ」だったような気がする。その新しさは衣裳とか見た目にあるわけではないからだ。
リチャード三世の悪辣さが意外と抑えめになっていたんじゃないかという気がする。代わりに男優が演じた女たちの強かさや呪詛の強さが印象深い、そんな舞台だった。
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