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「プライムたちの夜」
作 ジョーダン・ハリソン
翻訳 常田景子
演出 宮田慶子
出演 浅丘ルリ子/香寿たつき/佐川和正/相島一之
観劇日 2017年11月11日(土曜日)午後1時開演
劇場 新国立劇場小劇場
上演時間 2時間(15分の休憩あり)
料金 6480円
ロビーではパンフレット等が販売されていたけれど、チェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
何といっても、浅丘ルリ子である。
浅丘ルリ子なしでこの芝居は成立しないんじゃないかというくらいのものだ。
違う女優さんが演じたら、きっとこのお芝居の印象は全く違うものになっていたと思う。
登場したときが80代のお祖母さんで、少し認知症が始まっていてという感じで、足腰も弱っていそうだ。どこからが演技なんだろうとちょっと思いつつ、今調べたらご本人は77歳だった。若い。
浅丘ルリ子演じるマージョリーが喋っている全身黒ずくめの若い男は、やっぱり登場したときからちょっと不自然な動きとしゃべりをしていて、彼は、マージョリーの亡くなった夫の若いときの姿を写したロボットだということが判る。
説明されるというよりは、二人の会話と、その後に登場する香樹たつきと相島一之演じるマージョリーの娘夫婦の会話から伝わって来る。
マージョリーの娘のテスは、「プライム」と呼ばれているこの「自分の父親の若い頃の姿を写したロボット」が気に入らないようだ。
一方、テスの夫のジョンは、「お義母さんが、相手が誰であれ話しているのは望ましい」と考えているらしい。
常にテンパっている感じのテスと、そのテスにも義母のマージョリーにも穏やかかつ忍耐強く接するジョンと、演じている役者さんたちの人に合った役柄だと思う。
女性で神経質でわーっとなっちゃう役柄は見ていて辛いなぁと思う。男性の場合は、別に好きな訳ではないけれど「見ていて辛い」という気持ちにはならない。何故だろう。
テスという女性は、亡くなった兄のこと、母親との関係にどうやらずっと拘りを持ち、違和感を感じて生きて来たようで、とにかく人がいい夫のジョンに更に劣等感を感じているようだから、余計だ。
母と娘の関係は難しい。
登場人物が4人しかいない芝居だけれど、それぞれのシーンはさらに登場人物が少ない。
ほとんどのシーンは、舞台上に二人しかおらず、1対1での会話で進行していたと思う。
休憩前には、マージョリーとテスとジョンが舞台上でスポットを浴び、プライムが舞台の暗がりに置かれた椅子に微動だにせずに座っているというシーンが長くあったけれど、それにしても、もの凄くミニマムな芝居だ。
休憩後、やけにマージョリーがきちんとした整った風情で現れたなと思ったら、マージョリーは亡くなっていて、舞台上で白いセーターに白いスカートという姿でルージュもひいて座っていたのは、マージョリーの「プライム」だった。
マージョリーは亡くなり、母親を失ったことで精神的に参ってしまった妻のために、ジョンがマージョリーのプライムを頼んだらしい。
テスはかなり自分を追い詰めてしまっていて、プライムという存在に反発しつつ、ジョンに隠れて夜に彼女と会話し、ジョンの「セラピストにかかろう」という提案を拒否し続けている。
この状態のテスに辛抱強く付き合っているジョンは、いい人なんだろうけれど、何だか怖いよと思う。
それにしても、亡くなった人を、亡くなる前の姿でロボットにし、会話をしながら生前の記憶を植え付けていくというシチュエーションはかなり気持ち悪い。
最初に見ているときは、「30歳の時の姿で蘇らせることを希望したマージョリー」の方が気持ち悪かったのだけれど、見ているうちに、そもそもプライムの存在意義はどこにあるんだろうと思い始めた。
彼ら彼女らは一体何のために作られたのか。
そして、マージョリーが亡くなった家に、彼女の夫の「プライム」はいないようだけれど、どこへ行ってしまったのか。
テスはどんどん自分を失って行って、そして、プライムとして帰ってきた。
ジョンが、プライムにテスのことを教え始めて同時に観客席の我々にも教えてくれたところでは、マダガスカル島に行き、その沖合にある小さな島でキャンプをしていたときに、大きな木で首を吊って亡くなったそうだ。
自分が死んだときの話を聞きながら、テスの「プライム」は微笑み続け、姿勢良く座り続け、ジョンに理解を示し続ける。
怖すぎる。
ジョンはどうしてテスのプライムを望んだのか。
13歳で自殺したというテスの兄について「プライム」が作られることはなかったのか。
その違和感というか、怖い感じが極まったのが最後のシーンだ。
そこに、ジョンはいない。
そこにいるのは、マージョリー、その夫(役名をすでに忘れていて情けない限りだ)、テスの3人の、「プライム」だ。
そして、3人は「家族の思い出」を語っている。語り続けている。
そこに、「プライム」を作り、必要としていた筈の人間の姿はない。彼らを止める存在はいない。
もの凄く気持ち悪い「家族団らん」が延々と続く。
何が起こる訳でもないのに最高に後味の悪い、でも多分、かなり面白くて、色々なことを考えさせるお芝居だった。
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