「ちょっと、まってください」を見る
ナイロン100℃ 44th SESSION 「ちょっと、まってください」
作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 三宅弘城/大倉孝二/みのすけ/犬山イヌコ
峯村リエ/村岡希美/藤田秀世/廣川三憲
水野美紀/遠藤雄弥/マギー
観劇日 2017年11月25日(土曜日)午後6時30分開演
劇場 本多劇場
料金 6900円
上演時間 3時間(15分の休憩あり)
ロビーではパンフレット等が販売されていた、と思う。
ネタバレありの感想は以下に。
劇場に入るときに渡されたフライヤーによると、この芝居は「ナンセンス・コメディ」ではなく、「不条理喜劇」なのだそうだ。
そして、そのココロザシの多くは、劇作家の別役実に捧げられたものであるそうだ。
この芝居に散りばめられたアイコンの数々は、別役実作品・別役実の世界から引いて来たものだそうだけれど、私には「電信柱」しか判らなかった。
そもそも、別役実作品で見たことがあるのは、ケラリーノ・サンドロヴィッチが演出した作品だけのような気がする。咄嗟にはタイトルも出て来ない体たらくである。
登場するのは、二組の家族と、「金持ちの家族」ということになっている一家に使える使用人、そして主に「通りすがりの人」である。
「金持ちの家族」は、借金を繰り返し踏み倒しながら暮らしているが、その事実は金持ちの母親と使用人達だけしか知らず、他の3人は日々「退屈」にも気付かないほど退屈な毎日を送っている。
そこに、金持ちの家族の長男に勝手に一目惚れした乞食の娘と、その一家がやってくる。
やってきただけでなく、その「金持ちの家族」の家の庭に勝手に住み着き、そして、乞食の娘は金持ちの家に勝手に入り込み、いつの間にかその家の息子ではなく父親からの求婚を受け入れ、「幸せです」という不幸せそうな絵はがきを家族に書き、乞食の一家は金持ちの家に住み着き、金持ちの母親は家を出て乞食として生活をするようになる。
使用人二人は、ない筈のお金をどこかから横領して金持ちの父親を騙して逮捕させ、紆余曲折あって、一人は殺人の罪で逮捕され、一人は雪が降る中を電信柱の袂で死ぬ。
強引に一本筋の通ったストーリーを説明しようとすると、多分、こういうことになると思う。
でも、もちろん「筋の通った」展開などというものはどこにもない。語り手を務めるマギー演じる金持ちの家の執事がそもそも自称ペテン師だし、三宅弘毅演じる金持ちの父親のしゃべりはどうにも退屈かつ意味不明だし、そのしゃべりに合わせて上手く相づちを打てる犬山イヌコ演じる金持ちの母親ももちろん変なのに、何故か登場人物達の中で一番マトモに見えてくる。
みのすけ演じる乞食の父親は哲学的な雰囲気を漂わせつつ逆方向に変だし、村岡希美演じる乞食の母親は割と普通な人に見せておいて市民運動の活動家に何故かなっちゃうし、大倉孝二演じる乞食の息子と水野美紀演じる乞食の娘は兄妹だけれど結局あなた達が一番好き合っているんじゃない! と言いたくなる雰囲気だ。
乞食の息子が狂犬病にかかったという設定で、発作が起きるとイヌのマネをし始めるのだけれど、狂犬病に罹患したら致死率100%だよと思ってしまうのは、職業病のようなものだから、これは仕方がない。
とにかく、それぞれがしゃべっていることはみんな色々な方向に変なのに、何故だか日常は問題なく過ぎて行く。
ついでに書くと、やっていることだって皆それぞれ変だ。
乞食の一家は、娘が一目惚れした相手の家族と家を崩壊させ、次の獲物を探して移動しさすらっているようにも見える。彼らに悪意があるのかないのか、そもそも彼らは「家族」なのか、結局、どんどん煙に巻かれて行く。
金持ちの一家だって、何故か再び4人が同じ家に集まって暮らして行くことになったけれど、彼らは本当に家族だったんだろうか、これから「問題なく」暮らして行ってしまうんだろうか、よく判らない。
そして、執事は雪の中で死んで行ったけれど、それが「執事自身が見た夢」ではないという保証はどこにもない。もしかしたら、このお芝居の最初から最後まで、ペテン師が見た夢だったのかも知れない。
そういう「ほのめかし」はないのだけれど、でもそういう可能性だってもちろんある。
大体、この執事達二人がどうして逃亡先に「丘の上」を選んだのか、それだって説明されることはない。
説明されることはないと言えば、「ちょっと、まってください」という台詞も割と何回も、比較的普通の文脈の中で出て来ていたけれど、どうしてこの言葉がタイトルなのか、よく判らなかった。
というよりも、何でもないからタイトルになったんじゃないかという気もする。
説明されることはないと言えば、何回か、市民運動家たちのシーンがあって、プラカードを掲げて彼らは「遠い世界に」をハーモニ-見事に歌い上げていたけれど、プラカードに書かれた文字が何語なのか判らず、もちろん何が書かれていたのか判らず、彼らが求めているものが何なのか判らず、なのに「遠い世界に」のメロディだけは耳に親しく、そしてハーモニーは素晴らしい。
訳が判らない。
訳が判らないけれど、自分が日常を送っている今この場所だって、訳が判らないことはたくさん起こっているし、何を言っているのか判らない人は大勢いる。多分、私がしゃべっている内容だって、誰かに「訳が判らない」と思われているだろう。
でも、自分では、自分のしゃべっていることも、自分が暮らしている日常も「筋が通っている」と思って日々過ごしている。
その「普通」という思い込みを疑ってみれば? と言われているような気もしたし、ただ「訳が判らないよ!」とそのヘンな感じを味わえばいいのかなとも思う。
でも、意外と拒否反応を示さない自分が新発見だった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
「ちょっと、まってください」をご覧になったのですね。
私も「不条理劇」と言われるお芝居は苦手なのですが、このお芝居はなんだかんだ楽しく集中して見た気がしています。
三宅さんはドラマに出演中なんですね。
テレビをあまり見ないので、全く知りませんでした・・・。
毎日夜に公演があって、撮影もあってでは大変そうです。このお芝居、長いですし。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.11.29 22:43
姫林檎さま
私も観ました。
別役実を意識したと聞いて、なるほどと思いました。
夢と現実の区別がつかないパターン、多い人でしたよね。
まあ不条理劇の典型ですけど。
私は本来は、不条理劇ってあまり得意ではないのですが、これは面白かったです。
ケラらしい会話の妙に魅せられました。
特に犬山さんや大倉さんは、ケラさんの世界観を忠実に守っている感じですね。
ゲストのマギーや水野美紀も良かったです。
三宅さんもさすがでしたが、今ディーン様と連ドラもやっているのに、大変だろうなあと、関係ないことをふと思ってしまいました。
投稿: みずえ | 2017.11.27 14:24