「散歩する侵略者」を見る
イキウメ「散歩する侵略者」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/盛隆二/森下創/大窪人衛
内田慈/松岡依都美/栩原楽人/天野はな/板垣雄亮
観劇日 2017年11月3日(金曜日)午後7時開演
劇場 シアタートラム
上演時間 2時間15分
料金 4800円
ロビーでは、「散歩する侵略者」の文庫や、過去公演のDVDなどが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「散歩する侵略者」の初演を見ていて、ストーリーは覚えていなかったけれど、「宇宙人がやってきて、街の人々と話し、その人に思い浮かべて貰った概念を奪ってしまう」という設定と、この宇宙人は地球人の誰かの肉体を借りていて借りられた側の男の妻の姉から「家族」という概念を最初に奪ってしまうという話の始まり、この姉をお辞めになった岩本さんが演じていてはまり役だなと思っていたことは覚えていた。
ところが、覚えていたのはこの3つだけで、それ以外のことを見事に忘れていた。
例えば、宇宙人が現れるこの街が、同盟国の大規模な基地がある街で、隣国との軍事的緊張が高まる中で不穏な空気が醸し出されていたことなんて、綺麗さっぱりと忘れていた。
こんな設定だったっけ? 今回の再演に当たって設定を追加したのかしらと本気で考えていたくらいだ。
それと、この芝居のラストシーンもやっぱり忘れていて、この芝居、どうやって終わったんだったっけ? 宇宙人の侵略で終わったんじゃなかった筈、とずっと思いながら見ていた。
もう一つ、このお芝居を観ながら考えていたことといえば、イキウメの役者さん達は、「追い詰める」演技が上手いなぁということだ。
追い詰められる方よりも、追い詰める方が上手い。
あの調子でたたみ込まれ語られ責められたら、こちらが特に悪くなくても絶対に「ごめんなさい」と謝って白旗を揚げちゃうだろうなぁと思ってしまった。
しつこく書くけれど、イキウメの役者さんたちは声がいいなぁと思う。聞き取りやすく、個性がある。
そして、声だけでなく、劇団として役者さんのバラエティに富んでいるというのはやっぱり強みだなと思う。
タイプが違う。
それはもしかすると、劇団のお芝居の中で演じるタイプが固定されてしまうということもあるのかも知れないけれど、そこを逆手に取って意外性を出すというやり方もあるだろうなぁと思う。
そんなことを考えたのも、女優さんがいなくなって今回のお芝居も出演者の半数が客演の役者さんだったこともあり、初演とは、主要登場人物を演じた役者さんがほぼ違っていたこともあると思う。それだけで印象が違う。
「宇宙人の侵略」と「隣国との戦争」という2つの「判りにくい脅威」と「判りやすい脅威」を比較し、それでもなお「戦争」への現実的な対応ができない状況を見せ、憂いているようにも感じられる。
「夫婦生活が破綻していた」夫の身体を借り、その妻をガイドとして着々と「概念を知る」という侵略の準備を行い、同時に「予想外の副産物」として人間から特定の概念を奪うことで人を壊して行くことで、言葉ではないものの重要さを見せてくれているようにも思う。
劇中で明確に奪われていく概念は、「家族」「所有」「禁止」「自他の境」などで、それらを奪われた人は明らかに「生きること」に支障が出て来ている。
でも、「概念を奪われた」状態の表現って難しいなぁと思ったりもした。
宇宙人は実は3人来ていて、そして概念の収集が終わったからそろそろ帰るという。
概念の収集は地球侵略のために行っていた訳で、彼らが帰った後に待っているのは地球侵略だ。
そうと知って、宇宙人から「ガイド」として道案内を頼まれていたジャーナリストの男は、相手の宇宙人(が乗っ取った高校生)を絞め殺そうとし、宇宙人から「ガイド」を頼まれていた妻は、夫の身体を乗っ取った(そして乗っ取られた後の夫を改めて愛していたからこそ)相手に、自分から「愛」の概念を奪って欲しいと願う。
それは多分、本人が言っていたように「夫がいなくなってしまった後の辛さを味わいたくない」という意図もあったとは思うけれど、同時に、「地球侵略を諦めさせる」という意図だって同時に持っていたと思う。
「風と太陽」みたいな話だとも思うし、「愛は地球を救う」みたいな話だとも思うけれど、それをベタでなく、ここまで見せてしまうって凄いと思うのだ。
「愛」の概念を奪った「宇宙人」はその場で号泣し、奪われた「妻」は多分奪われたことの実感を持てずに、しかしほとんど慈母のように号泣する宇宙人をなだめ抱きしめる。
そこで幕だ。
不思議な感触のお芝居だ。サラっとしているような、ザラザラとしているような、ヒリヒリさせるような、だけど乾いている。
でも、やっぱりいいお芝居だと思う。
ここまで書いたところで、以前に見たときの感想を読んでみた。
どうやら、物語の骨格はほとんど変わっていないらしい。イキウメの再演では割と珍しいことのような気がする。
そして、前に見たときには「納得いかない!」と憤っていた色々なことを、今回の私はすんなり受け入れていたことが判ってちょっと驚いた。
「私」によって、「私」が見た芝居も変化する。
それもまた、興味深く楽しいことだと思う。
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コメント
アンソニーさま、コメントありがとうございます。
WOWOWで「散歩する侵略者」の世界観を元にしたドラマを放映していたのですね。我が家はWOWOWを見ることができないので、ノーチェックでございました。
サイトを見たら、安井さんも出演していらっしゃったのですね。
岸井さんも、前にイキウメの舞台で拝見したことがあったような・・・。
イキウメの舞台、やっぱりいいですよね。
私も昨日「ちょっと、まってください」を見て来ました。(感想は何とか今日中に書きたいです!)
ナイロンっぽいのか、別役さんっぽいのか、よく判りませんでした(笑)。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.11.26 09:43
姫林檎様、お元気ですか?
お久しぶりです。
私も観てきました!とっても面白かったです。
映画は見てないのですが、WOWOWでやっていた
予兆を見てからの観劇でした。
予兆ではガイドがしっかり仕事をしていたので
その予備知識がずいぶん観るにあたり
役に立ったかもしれません。
今年はあとひとつ、ナイロンしかチケットがなく
12月がぽっかりあいてます。
そして観に行けなかった舞台は姫林檎様の感想で
観たつもりになっていつも楽しんでいます(*´ェ`*)
投稿: アンソニー | 2017.11.25 10:48
みき様、コメントありがとうございます。
そして、前の公演のセットを覚えているなんて素晴らしい・・・。私は全く記憶に残っていなかったので、非常に新鮮に見てしまいました(笑)。
そして、前回公演は2011年だったのですね。
そのときも、今も、東日本大震災のことを何故だか全く想起しなかった自分を反省しました。
公演のタイミングは偶然だったかも知れませんが、しかし上演は必然だったのかも知れませんね。
教えていただいてありがとうございます。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.11.12 15:33
こんにちは。今日やっと観ました!まず劇場に入った瞬間、セットが前回とはぜんぜん違うので、これはどうなるんだろうと期待値が上がりました。前回は初見だったのでストーリーを追うのに一生懸命で、いろいろ細かいところは見落としていたのかもしれませんが、日本海側の海辺の町が舞台だということが、あまり強調されていなかったような気がしました。今回はセットの周りに流木がたくさん散乱していて、波の音も聞こえていて、その辺が強調されていたと思います。
そして、前回の公演が2011年だったということからも、浜田さん扮する桜井が顔を真っ赤にして「何か起きてからじゃ遅いんだ!」と訴えるシーンでは震災や原発事故を連想してしまい、背筋がゾッとしたのを覚えています。その時真治を演じた役者が事件を起こして劇団を去ったのは本当に残念でした。
私は映画も見ましたが、舞台の方が圧倒的に良いです。
やっぱりこれは私のイキウメNO.1です。
投稿: みき | 2017.11.11 21:36
みずえ様、コメントありがとうございます。
「散歩する侵略者」をご覧になったのですね。
良かったですよね〜。
私も映画を見ていなくて、ちょっと見たいような気もするし、でも舞台のイメージを大事に取っておきたい気もするし、悩ましいところです。
ロビーで販売されていた小説版も読もうかどうしようか迷って、結局、購入せず仕舞いでした。
確かに、桜井はガイドとして比較的働いていましたが(笑)、他の二人はあんまりガイドとしての動きがなかったですよね。
どちらかというと、実際に動くというよりも、味方というか、人間社会と折り合いをつけるためにいてくれという感じに見えました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2017.11.11 09:47
姫林檎さま
私は昨夜観ました。
初見でした。
なので、観ながら、このヒロイン(鳴海)は、伊勢さんが演りそうだな、なんて思ったりしていたのですが、実際初演は彼女だったようですね。
でも、キャストの役柄はほとんど初演と違うそうで、それにはちょっと驚きました。
私には、真治は浜田さん、桜井は安井さんしか考えられませんけれど。
私はまず、「ガイドって何をするの?」というのが疑問でした。
特に何かをしているようには見えなかったので……。
そしてやはり、宇宙人たちの来訪と、隣国との戦争問題勃発が、時を同じくして起こったのは、偶然か否か?というのも。最後までわかりませんでしたけど。
ラストには、「これはつまり、愛を描きたかったってことなんだろうか」と思いました。
映画版はご覧になりましたか?
私は未見ですが、観たくなりました。
投稿: みずえ | 2017.11.10 13:58